ウニが海藻を食い荒らし、磯焼け状態となった海底



 海藻が生い茂る「藻場」は、大気中の二酸化炭素を吸収するだけでなく、海の多様な生き物を育むゆりかごのような場所です。ところが昨今、地球温暖化などが原因で増えすぎたウニが海藻を食べ荒らしてしまう「磯焼け」が日本や世界各地で深刻化しています。


 この磯焼けを、ビジネスを通じて解決しようと取り組んでいるのが、ウニノミクス株式会社です。 通常、厄介者となったウニは、海藻を食べ尽くしているために身入りが悪く、市場価値がないために漁業資源として活用されていません。このウニを漁業者から買取り、最新の陸上畜養技術で育てて流通させようというのが、ウニノミクスのビジネスモデルです。


 でも、このウニを多くの人に喜んで食べてもらうには、一定の品質と出荷量を保ち、「美味しく」食卓に届けることが重要となります。ウニは雑食性で何でも食べてしまうのですが、実は、何を食べるかで、味や色が大きく異なってくるのです。


 日本の消費者を納得する味のウニを育てるため、ウニノミクスが飼料の製造委託パートナーとして手を結んだのが、様々な水産飼料を手がける日本農産工業株式会社でした。今回は、日本農産工業の山内聡さんにお話を伺いながら、ウニの飼料開発の裏側に迫ります。


日本農産工業の山内聡さん


養殖が盛んなノルウェーの最新技術を礎に


 ウニノミクスが採用する畜養の飼料技術は、ノルウェーが1995年から研究していた国立研究機関の技術を基礎としています。ノルウェーにはウニを食べる文化がなく、まだ実用化されていなかった技術でした。そこで、パートナーとなった日本農産工業にノルウェーの飼料製造技術を学んでいただき、日本国内での製造を目指したのです。


 それが、2016年6月のこと。日本農産工業の担当者、山内さんは当時を振り返ってこう話します。


 山内さん:「製造受託契約を結び、調印式をした4日後に、早速ノルウェーに飛んでいました。僕と、当時の研究所のスタッフと、工場の製造技術リーダーです。現地に到着するまでは、本当に作れるのだろうか?と不安に感じていましたね。でも、実際現地で話を聴いたり現場を見たりして、これなら原料調達含め、当社で作れそうだと安堵したのを覚えています。」


 日本農産工業は、需要の多いサーモンやブリ、タイなどの水産飼料以外にも、アワビやナマコなど、やや養殖としてはニッチな水産飼料も手がけています。そういった手広い経験が今回のプロジェクトにも活かされたのだそう。


山内さん:「実際、ノルウェーの研究者の方から説明を受けた際に、当社の製造技術担当の理解が早く、研究者の方が非常に喜んでいました。他の方にこういう説明をしても、こんなに早くわかってもらえない、と。そういった面でも、当社と相性のいいプロジェクトだったと思います。」




ノルウェーの研究機関で技術を学んだ当時の様子


ノルウェーの飼料技術をそのまま日本で使ったら?


 山内さん:「ノルウェーで学んだ技術でもっとも素晴らしい点は、水中保形性、つまり水に入れても飼料が形を保っているという技術です。」


 乾燥わかめをスープに入れるところを、想像してみてください。


 通常、乾燥させた海藻は、水に戻すと膨張します。ところがこの飼料は、ウニの水槽に入れても、形が崩れることがありません。これにより、飼料が水中に拡散して水を濁らせてしまうこともなく、ウニはしっかりその餌を食べきることができます。


  山内さん:「学んで帰ってきた当初は、すべてノルウェーのノウハウをそのまま真似すればいいと思っていました。当社が培ってきた水産飼料の技術を駆使して、同様のものはすぐにできたんです。ウニもよく飼料を食べて育ってくれて。でも、育ったウニの身を試食してみたら、苦味が強くて、どうしようと思いました(苦笑)。そこからが試行錯誤の始まりです。」


開発初期の飼料


ウニが美味しく育つ配合を目指して


 理想とする飼料は、それをウニがよく食べ、しかも美味しく育つこと。それには、ウニが美味しくなるための原料を入れるだけでなく、先述の水中保形性も必須条件でした。最終的に実用化した現在の飼料は食用昆布の端材を主原料とし、それが味の決め手となっています。


 山内さん:「原料を1つ1つ見直し、試作を繰り返しました。昆布が多く生えている場所のウニは美味しいけど、違う海藻が生える場所ではあまり美味しくない、といったことは、ウニの漁師さんなど、ウニに詳しい方には知られていることです。それで、昆布を使わないと日本の消費者の口に合わないのじゃないかと。」


 それでも、その配合率を調整するにも苦労の連続。ウニノミクス側でも、日々陸上畜養の試験を国内外各地で行い、畜養技術の改良も同時並行で行っていたため、それにあわせた要件変更もありました。


 山内さん:「まず当初のノルウェーの配合では、育ったウニの色が薄かったので、調整して綺麗な色になることを目指しました。でも、色が綺麗になっても淡白すぎる味になってしまったり、ウニが大きく育っても苦味や雑味が出て旨みが感じられなかったり。味の改善に注力していると、今度は形が保てなくなってしまったり。すべてのバランスを兼ね備えるために、かなり苦労しましたね。」


持続可能な方法で収穫された食用昆布の端材を有効活用している



世界各地で試験を重ねた知恵と技術の結晶


 2016年7月から試作を始め、完成に至ったのは2018年8月。1つのバージョンでしばらくウニを育て、試食し、また改良してウニを育て、しばらくしたら試食して・・・の連続で、試作した飼料は12バージョン。こう書くと短いように見えるかもしれませんが、90年代からノルウェーで研究されてきた技術と、日本農産工業が長年培ったノウハウや技術の結晶としてようやく完成した、唯一無二の飼料なのです。


 山内さん:「1つ1つの検証に、なかなか時間がかかりましたね。飼育するためのウニを確保する時間も必要でしたし。試作した飼料はウニノミクスの各畜養試験拠点に送っていたのですが、特に海外に送るには色んな手続きが必要で。初めてのことばかりでした。」


 餌のバージョンを変える度に、ウニの試食は海外を含め各拠点で行われていました。ウニの流通に携わる専門家や研究者、飲食関係者など、回数や延べ人数は数えきれないほどです。


 山内さん:「国内での食味試験には、私も都度参加していました。最終的に、ウニの専門家の方々やウニノミクスの方に『この味であればバッチシ』と言っていただけたとき、とても嬉しくホッとした瞬間が、特に印象に残っています。」


試食の際は関係者が集まり飼料別にウニの味や色を比較検討した


百貨店での試験販売の様子。「専門店が自信を持って販売できるとても美味しいウニ」との言葉をいただいた


ビジョンに合致する、こだわりの飼料


 こうして完成した飼料は、


  • 食用昆布の端材を有効活用
  • 環境を過度に搾取するような原料、ホルモン剤、抗生物質、保存料は一切不使用


 といった点で環境に配慮しているだけでなく、常温で保管でき、必要な時に必要なだけ安定した品質とコストで飼料を確保できるという、畜養ビジネス上のメリットも得られるものとなっています。


 山内さん:「色んな苦労がありましたが、ウニノミクスのコンセプトに個人的にも強く共感しているので、なんとかうまくいってほしい、という思いがありました。環境や資源を守るということは、当社の事業ビジョンにも合致することですので、飼料を通じてそれに貢献できることに嬉しく思っています。」


 現在ウニノミクスの陸上畜養ウニは、国内外での実証実験を経て、今年2021年8月から大分の拠点(大分うにファーム)から出荷を開始し、大分県内だけでなく台湾や都内にも送られています。磯焼け対策を目的としたウニ畜養を事業化し、産業規模で生産しているのは世界初の取り組みとなります。


山内さん:「ウニノミクスさんの事業がこれから更に広がり、世界各地の海の磯焼け改善が進むこと、生態系の保全につながることを願っています。」





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