仙台市で起きた「老老介護」殺人事件。要介護3の85歳の夫を83歳の妻が介護していた。妻も要支援1で、事件の3日前に腰の圧迫骨折と診断された。
介護に疲れ、体を動かすこともつらくなった妻は将来を悲観し、「一緒に死ぬつもり」で夫を刺殺した。
仙台地裁は12月2日、妻に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。妻は車いすに乗ったまま判決を聞いていた。

判決公判(仙台地裁)
判決公判(仙台地裁)
この記事の画像(6枚)

仙台市宮城野区福室の無職、佐々木美千代被告(84)は、2021年1月21日午後7時ごろ、自宅で夫の甲さん(85)の首と腹を包丁で刺して殺害したとして殺人の罪に問われた。

被告は夫と仙台市の市営住宅で2人暮らしだった
被告は夫と仙台市の市営住宅で2人暮らしだった

「家のことは自分で」周囲に助け求めず追い込まれていく妻

夫婦は仙台市営住宅で2人暮らしだった。夫の介護は2019年12月から始まった。
入退院を繰り返していた夫の様子が「天と地ほどに変わってしまった」のは2020年8月。新型コロナのため面会できなかった3週間の入院を終え、退院した夫は認知機能が低下し、自力歩行も困難になっていた。毎晩2回は起きて、おむつの交換をしなければならなかった。
ケアマネジャーから訪問介護やホームヘルパーのサービスを提案されたが、「家のことくらい自分でできる」と断った。
利用したのはデイサービスとショートステイ。家の中のことは他人に話したくなかった。2人の子供がいたが、助けを求めなかった。

腰の圧迫骨折で「これ以上の介護は無理」…突発的な犯行に

その日は腰が痛くてトイレにも這っていくほどだった。食事もとれず薬も飲めなかった。
夕方、夫が2泊3日のショートステイから帰宅した。ごはんを食べさせなければと思ったが、体を動かせなかった。
「これ以上介護を続けるのは難しい。夫とともに死のう」と思った。
「後先を考えず突発的にやってしまった」「誰かに助けを求めることも思い浮かばなかった」。寝ていた夫を包丁で2回刺していた。

被告は裁判で、「腰が痛くても私がもっと頑張ればよかった。私が一番悪いんです」と涙を流した。

被告は車いすに乗り、廷内の音声をヘッドホンで聞いた(スケッチ:白川由美子)
被告は車いすに乗り、廷内の音声をヘッドホンで聞いた(スケッチ:白川由美子)

「結果は重大だが経緯は同情できる」と執行猶予判決

仙台地裁で2日開かれた判決公判で、大川隆男裁判長は「被告は夫を確実に死なせる意思があり、自分を信頼して生活してきた夫の命を奪った結果は重大」と指摘したが、「献身的に夫を介護し、その負担は重いものであったにも関わらず周囲から十分な支援を受けず、強い腰痛で夫の食事を準備できない状況に至り、夫の将来を悲観して突発的に犯行に及んだ経緯は同情できる」とした。
その上で、「被告の辛抱強い性格とその置かれた境遇や立場からすると、介護保険制度の内容を十分理解できず、制度に大きく頼ろうとしなかったことはやむを得ず、子供たちが父親の介護のことをあまり気にかけていなかった状況からすると、被告が周囲に協力を求めなかったことを取り立てて非難することはできない」などとして、被告に執行猶予5年のついた有罪判決を言い渡した。

大川隆男裁判長(仙台地裁)
大川隆男裁判長(仙台地裁)

そして裁判長は最後に、「これまで献身的に夫を介護していたのに、犯行に及んだことは本当に残念です。自分の力ではどうにもならない困難に直面した時、周囲に相談したり、頼ることが重要です。これからは周囲に助けを求めるようにしてください」と被告に語りかけた。

被告は刑が確定すれば、老人ホームに入所する見込みだという。

増え続ける老老介護 在宅介護世帯の6割に…75歳以上同士も3割

高齢化が急速に進む中、自宅で介護をしている人のうち、お互いが高齢者の「老老介護」の割合も年々増加している。
厚生労働省が行った2019年の「国民生活基礎調査」によると、自宅で介護を受けている高齢者のうち、介護者も65歳以上である「老老介護」の割合が全体の約6割の59.7%を占めて過去最高を更新した。
75歳以上同士の「老老介護」の割合も2.9ポイント増えて過去最高の33.1%。家族が介護する中では3世帯に1世帯が75歳以上同士となった。
しかしこのデータは、全国の約7400人を対象にしたアンケート調査の結果であり、実数を表しているわけではない。
仙台市の高齢者福祉の担当者も「プライバシーという壁があり、仙台市内にどのくらいの老老介護世帯が存在しているかの実態把握は難しい」と話す。その上で、「特に75歳以上の世代は、我慢や忍耐を善とする世代で、他人の助けを潔しとしない傾向がある」と話す。
地域包括支援センターから「困っていることはありませんか」「こういう制度を利用できますよ」とサポートしようとしても、「家のことは自分でできるから必要ない」と言われれば、それ以上の介入はできない。
入浴や排せつなどデリケートなケアだけでなく、食事や掃除の支援についても、第三者に任せたくないと抵抗感を示す高齢者は少なくない。

また裁判で被告は、「ケアマネジャーは介護プランを立ててくれる人だと思っていた。家の中のことを相談していいのかわからなかった」と述べていた。
知識がないばかりに、受けられるはずの介護保険制度や介護サービスを利用できないというのはあまりにもったいない。
仙台市の担当者も、「介護の助けとなるあらゆる制度を高齢者に理解してもらい、支援を受けやすく感じてもらうためにどのように周知するか、その発信力が行政側に問われている。高齢者を孤立させない仕組みづくりが必要だ」と話している。

被告「私がもっと頑張ればよかった」…老老介護の根深さ

事件から約10カ月。
しかし10カ月経った今も、裁判で気持ちを聞かれた被告が「誰かに助けを求めればよかった」ではなく、「私がもっと頑張ればよかった」と述べたことに、老老介護の問題の根深さがある気がしてならない。
誰のための介護保険制度なのか。今回の事件が社会に突き付けた課題は大きい。

(仙台放送 澤田滋郎)