コロナウイルスで自閉症啓発イベントが中止に
きょう2日は国連が定めた「世界自閉症啓発デー」。2007年に始まり、人々に自閉症を理解してもらおうと世界中で様々な取り組みが行われてきた。
その代表的なイベントが、各国の街をテーマカラーのブルーに染める「ウォームブルー」キャンペーンだ。日本では東京タワーをブルーにライトアップするのが有名だ。
しかし今年は、コロナウイルスの影響で周辺イベントが中止になった。
「ハッタツあるある」動画を世田谷区が制作
この記事の画像(7枚)「母さんクイズです、この中にハゲは何人いるでしょうか」
発達障害の男子中学生とそのお母さんが乗っているエレベーターに、4人の中年男性が乗り込んできた。よく見るとそのうち3人は、頭髪がほとんどない。彼らをじろじろ見ていた男の子は、突然大声でこんなクイズを始めた。凍り付くエレベーターの空気・・果たして結末は。
これは志村けんさんのバラエティ番組ではない。東京都世田谷区がYouTubeで配信している発達障害の啓発動画「ハッタツ凸凹あるある」だ。
これまでも世田谷区では、2日に向けて区役所庁舎のエントランスをブルーで飾り付けるなど、世界自閉症啓発デーのブームアップを行ってきた。その理由を担当者はこう語る。
「世田谷区では自閉症を含む発達障害の子どもの療育施設『げんき』を2009年に開設しました。発達障害はわかりづらく、その特性を知ってもらおうと(ウォームブルーも)やってきました」
「発達障害にあるエピソードを笑いも交えて」
今年世田谷区では、取り組みを広く若い人たちにも届けようと、動画を作成して配信することを思い立った。そして当事者団体である東京自閉症協会を通じて、動画制作を依頼したのが、女優東ちづるさんが代表を務める一般社団法人Get in touchだ。
Get in touchは、アート、音楽、映像や舞台などのエンタテイメントを通じて、誰も排除しない個を大切にする、『まぜこぜ』の社会を目指すプロボノ集団だ。
この動画制作に加わった理由を、東さんはこう語る。
「ゲット(Get in touch)を立ち上げた9年前は、自閉症に対して誤解する人が多かった。最近はかなり理解が広がっていると思いますが、まだ理解している人としていない人の濃淡の差があるなと思っています。まずは自閉症の人をいいとか悪いとかではなくて、知るということ。今回の動画のように、発達障害にあるエピソードを笑いも交えてわかりやすくすると、寛容な社会になるかなと思います」
発達障害の当事者が直面する困りごとを
制作された動画は3本。どの動画も1分半程度で、日常生活や職場などで、発達障害の当事者が直面する困りごとを、面白おかしく紹介している。
たとえば冒頭紹介したエレベーターのエピソードは、「正直すぎて冷や汗の巻」。
思ったことを口にしてしまう男子中学生が主人公だ。
ほかにも、「言われた通りにやったのに…の巻」では、「コピーの様子を見て来て」と頼まれた若手社員が、文字通りに受け取って、じっとコピー機を見ているという職場のエピソードを紹介。
「変化でパニックの巻」は、物を置く場所や使う水道にこだわりがある女子高生が、いつもと違うことが起きるとパニックを起こしてしまうという学校生活を再現した。
いずれも実際のエピソードに基づいているが、思わずクスッと笑ってしまう。
東さん以外の出演者は区職員や当事者たち
動画制作の過程では、制作スタッフが東京自閉症協会と話し合いながら、「これは誰かに失礼にならないか」など議論を重ねてきた。
東さんは動画の監修だけでなく出演もした。
「最初は出演するつもりはなかったのですが、去年から話し合いをしていて、『予算もないから、当事者や職員に協力してもらった方がいいよね』となって、私もボランティアで参加しました。ですから私以外の出演者は素人さんでしたが、演技指導はまったくやってないです。皆さん、アドリブもできて完ぺきで、監督もびっくりしていました」
ダンスの振り付けを担当し出演もしたのは、自らも自閉症のダンサー想真さんだ。
「大変だったことは思い出せない。ダンスの振り付けをする時は、わかりやすく、凸凹の特徴とか、気にしないよという楽しさを出そうと結構何パターンか考えた」
日本から世界にウォームブルーの発信を
博報堂らの調査によると、日本の0歳から22 歳までの中で、「ASD=自閉スペクトラム症(※)」は2.3%で推計60万人。(※)自閉症やアスペルガー症候群など
症状は認められるが診断基準を満たさない「グレーゾーン」は5.4%と推計138万人いて、合計すると約13人に1人という割合になる。
発達障害にはASDのほか学習障害や注意欠陥多動性障害なども含まれる。
つまり数字的には、学校の1クラスに2~3人の発達障害の子どもがいる計算となる。
コロナウイルスで自閉症啓発デーのイベントが中止になる中、東さんは「ピンチをチャンスにということで、SNSを駆使しています」と語る。
「青い写真を撮ってもらってハッシュタグ(#WB_2020 #MAZEKOZEなど)をつけて、日本もやっていることを世界に発信したいとやっている最中です」
世田谷区から、そして日本から世界に向けてウォームブルーを発信する。
「コロナで日常のルーティンできない人、多くの人に動画を見てほしい」(東さん)
たとえ外に出られなくても、皆が力を合わせて繋がることができるのを、日本から世界に伝えてみてはどうだろう。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】