横浜市・旧大口病院で起きた連続点滴死事件で、患者3人を殺害するなどした罪に問われた久保木愛弓被告(34)に、横浜地裁は、無期懲役の判決を言い渡した。以下、判決骨子。

(責任能力について)
本件では、被告人の責任能力の程度が争われているが、被告人は、犯行当時、自閉スペクトラム症の特性を有しており、うつ状態にあったとは認められるものの、それ以外の精神の障害は認められない。

被告人は、勤務時間中に、自身が対応を迫られる事態を起こしたくないと考えて犯行に及んでおり、このような犯行動機は了解可能であり、その目的に沿って犯行手段を選択し,、自身の犯行が発覚しないように注意して犯行に及んでおり、自身の行為が違法なものであることを認識しつつ、合目的的に犯行に及んでいる。

被告人の弁識能力又は行動制御能力が著しく減退してはいなかったと認められ、完全責任能力が認められる。

殺人などの罪に問われている久保木愛弓被告(34)
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(量刑の理由について)
1・被害者のうち、面川惣蔵 (当時88歳)は余命数日程度、八巻信雄(当時88歳)は余命1週間ないし3週間程度であったとは認められるが、いずれも終末期病棟で、穏やかな最期を迎えるはずであったのに、 不条理にも、 被告人の犯行により突然に生命が断たれてしまった。

興津朝江 (当時78歳) は終末期患者ではなく、治療が終われば退院して、健康に今までどおりの暮らしを送っていくはずであったのに、被告人の犯行により、苦痛の中でその生命が奪われている。 このような被害結果は極めて重大である。

犯行態様は、看護師としての知見と立場を利用したもので、計画性も認められ、悪質である。動機も身勝手極まりないものであり、 酌むべき点は認められない。被告人の刑事責任は誠に重大である。

2・被告人が上記のような犯行動機を形成するに至った過程についてみると、被告人は、自閉スペクトラム症の特性を有し、臨機応変な対応を行わなければならないという看護師に求められる資質に恵まれていなかったところ、終末期医療を中心とする大口病院であれば、自分でも務まると考えて勤務を開始した。

ところが、事情は異なり、患者の家族から怒鳴られて強い恐怖を感じたこともあって、うつ状態となり、視野狭窄的心境に陥って、一時的な不安軽減を求めて、担当する患者を消し去るほかないという短絡的な発想に至り、犯行を繰り返したことが認められる。

このような動機形成過程には、被告人の努力では、いかんともしがたい事情が色濃く影響しており、 被告人のために酌むべき事情といえる。被告人は, およそ反社会的な行為とは無縁の生活を送ってきたものであり、もともと、 反社会的な価値観や性格傾向を有していたとは認められない。被告人には、他者に対する攻撃的傾向も認められない。

最終意見陳述で久保木被告は「死んで償いたい」と語った(イラスト:大橋由美子)

3・被告人は、逮捕後、犯罪事実を全て認め、公判においても、犯行当時は罪悪感や後悔の気持ちはなかったことなど、自己に不利益な事情を含め、記憶をたどりながら素直に供述している。

そして、現在は、自己の犯した犯罪の重大性を痛感し、被害者やその遺族らに対し謝罪の言葉を述べ、 被告人質問では償いの仕方が分からないと述べていた被告人が、最終陳述では死んで償いたいと述べるに至っている。被告人には前科前歴がなく、上記のとおり反社会的傾向も認められないことからすると、更生可能性も認められる。

4・以上の事情を総合考慮すると、被告人に対し死刑を選択することには躊躇を感じざるを得ず、 本件において死刑を科することが、やむを得ないとまではいえない。そこで、被告人に対しては、無期懲役刑を科し、生涯をかけて自身の犯した罪の重さと向き合わせることにより、償いをさせるとともに、更生の道を歩ませるのが相当であると判断した。

社会部
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