病院の医療機器導入をめぐる背任容疑で再逮捕

東京地検特捜部は、日本大学元理事の井ノ口忠男容疑者と大阪の医療法人グループ前理事長の籔本雅巳容疑者を、日大に損害を与えた背任の疑いで再逮捕した。日本大学附属板橋病院へのMRIなど医療機器の導入をめぐり籔本容疑者側の会社を介在させることでリース料を過大に見積もり、日大におよそ2億円の損害を与えた疑いが持たれている。

事件の舞台となった日大板橋病院
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その後、籔本容疑者側の会社から井ノ口容疑者側の会社に2回合わせておよそ2700万円が「アドバイザー契約」名目で送金されていた。また同日、両容疑者は病院建て替えの工事をめぐり、日大の資金2億2000万円を流出させた背任の罪で起訴された。

「田中理事長の許可を得ている」

これは昨春、井ノ口容疑者側が板橋病院職員に対し高額医療機器の調達をめぐり言い放った言葉だという。田中理事長とは、「日大のドン」田中英寿氏を指す。病院職員によると板橋病院では医療機器を調達するには、物流委員会に議題をあげ精査し、その後、日大本部の予算承認を経るため、通常1年以上の時間を要するそうだ。

再逮捕された籔本雅巳容疑者(左)と井ノ口忠男容疑者(右)

その正規のプロセスが踏まれないままの高額医療機器の調達に、この病院職員は強い不信感を抱いたと話す。

鍵を握るは「日大事業部」

井ノ口容疑者は、日本大学の100%出資会社「株式会社日本大学事業部」の取締役を務めていた。そして井ノ口容疑者主導のもと2017年4月より日大の病院の医薬品、医療材料などの選定、調達は日大事業部がその業務を担うことになったという。

板橋病院と取引のある業者は当時、井ノ口容疑者から「田中理事長の意向でこれからあらゆる取引に事業部が入る。(事業部を通す案件は)何でも通るから」と聞き、目を丸くしたという。日大事業部に病院運営や医療知識のある職員はほとんどいないからだ。

”日大のドン”田中英寿理事長

そこで事業部の医療取引には籔本容疑者と関係のある医療コンサル会社が「プロジェクトコーディネーター」として関わることになったという。その後、病院には医療コンサル会社が斡旋する業者が関わることとなり、今回の逮捕容疑にある電子カルテシステムに関しても類に漏れず契約が交わされた。

これに対して、病院関係者は「板橋病院の建て替えが控える中での大規模なシステムの入れ替えは常識的に考えられない。ましてや病院側での正式な手続きが踏まれないなんて明らかにおかしい」と首をかしげる。

特捜部は、田中理事長宅も家宅捜索した(10月7日 杉並区)

この異様ともいえる契約に至る不自然さに病院職員は「田中理事長の意向と聞いたら我々は逆らうことができない」と話し、下を向く。また井ノ口容疑者は事業部の意向に沿わない職員に対し「あいつはアンチ理事長だから飛ばす」と周囲に話し、実際に異動になった例もあると聞く。取材を進めていくと井ノ口容疑者と田中理事長にはただならぬ関係を感じざるを得ない。

「人事発令はちゃんこ屋の2階にあり」

現職やOBなど日大関係者に取材を進めると日大のある“風習”を明かしてくれた。大学職員の中で「人事発令はちゃんこ屋の2階にあり」という有名な言葉があるそうだ。「ちゃんこ屋」とは阿佐ヶ谷にある田中理事長の妻が営むちゃんこ料理店を指し、教職員は年に数回ちゃんこ店に行かなければ要職に就けないと言われている。

2008年頃、井ノ口容疑者はアメフト部の先輩の紹介で田中理事長と距離を縮め、2日と明けずにちゃんこ店に通い詰めていたという。そして2年後、日大事業部の「自動販売機アドバイザー」として日大の業務に関わることとなる。そのとき使われた肩書きが「理事長付相談役」。

井ノ口容疑者の名刺には「理事長付相談役」の肩書きが・・・

日大現職員は「理事長付相談役なんて役職は歴代でも聞いたことがない」と漏らしあきれ顔だ。この異例の肩書きを利用し、井ノ口容疑者は日大事業部において自動販売機業、保険代理業、清掃・警備業などさまざまな事業での大学側との仲介を行ってきた。

その中では井ノ口容疑者が業者を斡旋することもあり、学内での井ノ口容疑者の存在感は日に日に増していった。日大事業部の設立は田中理事長の肝いりプロジェクトであり、日大事業部を拡大させる井ノ口容疑者が高く評価されていったという。この関係を全面に利用し、井ノ口容疑者は常に田中理事長の影をちらつかせ学内で地位を確立した

「スクラップ・アンド・ビルド、全ての膿を出しきってほしい」

田中理事長(左下)、井ノ口容疑者(右上)、籔本容疑者(左上)

日大元職員は母校の現状を憂い、こう語った。日大病院をめぐる一連の事件に対し、「日大の社会的な評価はがた落ち。現役学生やOBは連日の報道に不安な気持ちでいる。田中理事長に(真実を)説明してほしい」と声を上げる。

井ノ口容疑者と籔本容疑者との資金の流れに捜査のメスが入ったことで日大は膿を出し切って生まれ変われるのか、今後の行方に目が離せない。