まだまだ肌寒い今日この頃。
羽織ったジャンパーのファスナーを閉めようとした時に手がかじかみ、なかなかうまくいかなかった…という経験をした人も多いかもしれない。
そのような、ちょっとした悩みを解決してくれるファスナーが登場した。
一見普通のファスナーにみえる…が、実はこれはYKKが開発した、“マグネットで閉じられるファスナー”だ。
一般的なファスナーは、左右の「開具(ひらきぐ)」を組み合わせた後、スライダー(開閉部分)を引っ張り上げたり引き下げたりしてエレメント(ファスナーの凹凸になった部分)を開閉するものだ。
しかし新しいファスナーは開具の中に小さなマグネットが入っており、その磁力で互いを引き寄せることによって簡単に組み合わせる(閉じる)ことができるという。
YKKは、この“マグネットファスナー”によって、「手元を見ずにファスナーを閉じる」「片手でファスナーを閉じる」といった動作がしやすくなるとしている。ユーザーからすると確かにマグネットで勝手に閉じてくれるなら、ジャンパーなどの脱ぎ着もいくぶん楽にはなりそう。
なぜ今までなかったのかという気もするが、今回の開発のきっかけは何だったのか? また、長期間使用することで「磁力」が弱くなることはないのだろうか?
同社の担当者に話を聞いた。
開発で一番難しかったのは「マグネット部分の調整」
ーー“マグネットで閉じられるファスナー”は、どのような経緯で生まれた?
2015年ぐらいから、高齢者の方や身体が不自由で「従来のファスナーだと扱いにくい」という方にとって使いやすいファスナーが完成すれば、弊社も社会に貢献できると考えてきたことがきっかけとなっています。
そこでいろいろな試行錯誤をした結果、「マグネットの磁力を使用して、ファスナーを閉じるのはどうか?」という発想に至った次第です。
ーーユーザーからも、以前からこうしたファスナー開発の要望はあった?
マグネットではないのですが、「現行品のそれぞれのパーツが小さくて、両手では使用しづらい」というお声はいただいていました。また、小さなお子さんや手先の不自由な人たちが潜在的に使いづらさを感じていたのは弊社も把握しています。
ーーでは、開発で一番難しかったポイントはどこになる?
マグネット部分の調整が、一番難しかった部分となります。
例えば、マグネットのサイズを大きくすれば自ずとそのマグネットの磁力は強くなり、互いに引き合う力もまた上がりますから、スライダーが簡単に組み合わさるようになります。その一方で、マグネットのサイズが大きくなる分、パーツ全体も一層大きくなるため、デザインが損なわれるおそれがあります。
加えて、重量の面でも重くなりますから、ジャンパーなどの前面にファスナーがあった時、何となく着心地も悪くなってしまいます。そのバランスを取るのが、困難だったポイントにあたります。
ーー価格は、従来のファスナーとあまり変わらない?
まだ「開発をしました」という段階なので、お伝えできる情報がございません。次のタイミングでお願いしたく考えております。
磁力が落ちることはない?
ーーマグネットの磁力は、どのくらいになっている?
磁力を具体的にお伝えするのは難しいのですが、ジャンパーなどを着脱する際、ファスナーの開けづらさや閉めづらさを感じさせず、簡単に作業できるぐらいのちょうどよい強さ、でしょうか。
ーーマグネットが電子機器などの誤作動を引き起こすおそれは?
磁石の特性として、電子機器などに影響を及ぼすことは知られていますので、このマグネットに関しては製品タグなどでの注意喚起を予定しています。
ーーでは、クリップなどの金属製品がくっついたりもする?
磁石が開具に封入されているためくっつくのですが、製品外部に漏れだす磁力が弱くなるように工夫をしています。この鉄製のものがくっつくことについても今後、先ほどと同様に製品タグなどでお客様やエンドユーザーさまに注意事項として記載し、安全にお使いいただけるようにしてまいります。
ーー長期間使用しても磁力が落ちることはない?洗濯をしても大丈夫なの?
永久磁石を用いているため、ないです。また、さびなどについても、開部という樹脂製の部品内に封入されているため、影響を受ける心配はないのではないかと考えられます。また、洗濯をし続けても磁力に影響はないかと存じます。
ーー“マグネットで閉じられるファスナー”ということで、社内の反応はどのようなものだった?
「新たな高付加価値を提案する商品」というところで、社内の反応は好評です。
自社の商品開発の視点として、誰でも使いやすく、今まで「使いづらいから、ファスナーがある服は着ないようにしよう」と言っていた方でも多彩なファッションを楽しめるような商品を生み出していきたいというものがございます。これはそうしたニーズに提案できる商品じゃないかと考えています。
“マグネットで閉じられるファスナー”という、従来品と異なるアプローチで製作されたアイテムだったが、その裏には子どもや高齢者など、これまでのファスナーに少し使いづらさを感じていたユーザーへの温かな視点、やさしさがあった。
なおまだ開発段階とのことで、これから量産化体制を整えていくことになるいう。このファスナーが身近な製品に使われる日を今から楽しみにして待ちたい。
(画像提供:YKK)