集合住宅で初めての生活…住みよい環境作りの試行錯誤続く
宮城・多賀城市の災害公営住宅・市営新田住宅。東日本大震災の約4年半後に完成。45世帯のうち、半分ほどが一人暮らし。
住民でつくる自治会の会長・佐藤正人さん(70)は、定期的に見回りをしている。
多賀城市営新田住宅自治会・佐藤正人会長:
安否確認も受け入れる人と、受け入れない人がいる。やっぱり難しい
自治会の業務で最も大変なのは、「共益費」の徴収業務だという。
多賀城市営新田住宅自治会・佐藤正人会長:
例えば廊下灯(の電気代)ですね
新田住宅の共益費は、一世帯あたり月2000円で、共用部分の電気代などに使われる。公営住宅の共益費は、多賀城市をはじめ全国ほとんどの市町村で、主にそれぞれの自治会が、徴収・管理を任されている。
多賀城市営新田住宅自治会・佐藤正人会長:
ピンポン、(戸を)トントンも拒否する人もいるから、居留守を使われて、徴収がなかなか難しい。去年、(会計係を)3人にやってもらっていたが、「あまりしつこく(集金に)行くと嫌われる」と。同じ住民でケンカ・取り立てもしたくない。「(会計係を)辞めさせてもらいたい」と
災害公営住宅の自治会役員にのしかかる「負担」。
宮城県内の災害公営住宅は、2019年3月末までに、21の市と町で計画された1万5823戸全てが完成。“集合住宅で初めて生活する”住民も多い中、住みよい環境や人のつながりをどう作るか、各地で試行錯誤が続いている。
自治会役員「担い手不足」浮き彫りに…各地の切実な現状
2月、多賀城市内の災害公営住宅の集会所で、宮城県で初めての会合が開かれた。
集まったのは、岩手・宮城の災害公営住宅の自治会長など。
この交流会は、岩手県内の災害公営住宅でコミュニティーづくりを支援してきた岩手大学など3つの団体が開催した。
新田住宅の自治会長・佐藤さんの姿も。各地の自治会役員が抱える切実な現状が報告された。
陸前高田市の災害公営住宅 自治会長:
うちで恥ずかしいことだけど、孤独死が出ました。もっと見守りができていたら、防げることもあったのでは。でも、担い手がいない
塩釜市の災害公営住宅 自治会役員:
(家賃減免措置が終わる)11年目以降を考えたら、働けるうちに働かなければならないから…ということもあって、「自治会活動に若い人が出てこない」と言われても、自分たちの生活もあるので
仙台市太白区の災害公営住宅 自治会長:
(今、会長は何年目?)4年目。(次の会長は?)それが、なかなかいなくて…
夏祭りなどの企画や運営、集会所の鍵の管理など、ボランティアで、多くの業務を求められる自治会役員。「担い手不足」という共通の課題が浮き彫りになった。
岩手大学三陸復興・地域創生推進機構 船戸義和特任助教:
担い手負担は、なかなか簡単に解決できるものではない
会の進行を務めた岩手大学の船戸さんは、2019年12月から、岩手県と宮城県の災害公営住宅に暮らす1886人にアンケート調査を実施した。
「震災前と比べて、ご近所や地域の人と関わる機会は変化したか?」という問いに対し、最も多かったのが「減った」という答えで、4割近くにのぼった。また、「公営住宅や地域に、困った時に相談できる人」が「いない」、または「1~2人」と答えた人は、合わせて約7割を占めた。
岩手大学三陸復興・地域創生推進機構 船戸義和特任助教:
(災害公営住宅では)いざという時の対応力が弱くなっている。コミュニティーづくりは、「これをやれば成功する」という1つの決まり手がないので、そこにみんな苦労している
多賀城市営新田住宅自治会・佐藤正人会長:
皆さんの苦労を、どんなふうに自分たちに捉えこんで、自分たちの問題解決につなげるか。役員のなり手がいなくて、相談相手がいない
自らは退いて引き継ぎたいが… 「交代できる人材がいない」
多賀城市内の自宅が津波で被災した佐藤さん。初めての集合住宅での生活。今は一人暮らし。
集会所でのイベントを企画し、自らチラシも作るが、人の集まりは、あまり多くないという。
多賀城市営新田住宅自治会・佐藤正人会長:
さびしい、孤独を感じる。気心知れていないからね。何を言って、どういうつながりを持つか、なかなか難しい
共益費徴収の負担を減らそうと、佐藤さんは2019年4月から、各世帯を訪問するのではなく、月1回、集会所に住民に来てもらって納金する方法に変更した。
自らは退いて、次の人に役員を引き継ぎたいのが本音だが…。
多賀城市営新田住宅自治会・佐藤正人会長:
交代できるような人材がいません。(来期(来月から)も会長を?)やらざるを得ないでしょうね。あきらめムードよ
(仙台放送)