捜査一課の刑事から告げられた驚きの”真実”

2019年初頭、神奈川県警捜査一課の刑事2人が、鈴木政子さんの遺族のもとを訪れた。「久保木が鈴木政子さんのフルネームを言って『私がやった』と話しました。だが証拠となる遺体がないため立件はできません」そう告げられて遺族は絶句した。

殺人と殺人予備の罪に問われている久保木愛弓被告(34)
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久保木とは、現在、連続点滴死事件で公判中の久保木愛弓被告(34)のことだ。久保木被告は、2016年9月、当時勤務していた横浜市の旧大口病院で、入院中の患者3人の点滴に、消毒液を混入して殺害するなどした罪に問われ、初公判で起訴内容を認めている。

捜査段階で、久保木被告は「7月ごろからやった」「10人以上の点滴に消毒液を混入した」と供述。立件された3人以外にも被害者がいるのは明らかだった。政子さんは、この3人と同じ4階の病室で亡くなっていた。政子さんも”殺害された”可能性が高い。

久保木被告は起訴内容を認めている(11日被告人質問より イラスト:大橋由美子)

しかし、事件発覚より前に、政子さんの遺体は荼毘に付されていた。司法解剖も行われず、血液も保管されていなかったため、”裏付け捜査”は不可能だった。捜査一課の刑事は「悲しい思いをする遺族がたくさんいて、警察としても大変無念で悔しい」と肩を落としたという。

結局、この事件で、被害者として特定されたのは3人だけだった。今回、記者は、立件されなかった”4人目の被害者”鈴木政子さん(享年94)の息子(70代)と孫娘(30代)を取材することができた。

終末期医療の現場で48人が”不審死”

鈴木政子さんは2016年6月、神奈川県内の別の施設から旧大口病院に転院。病院の4階で入院生活を送っていた。終末期医療を担う病院だったが、お世辞にも院内の環境は整っているとは言えなかった。

亡くなった鈴木政子さん(享年94)(遺族提供)

「ベッドとベッドがくっついているような状態で看護師が点滴のためにカニ歩きで入るような病室だった」「病院の玄関から夕方4時~5時頃になると毎日のように寝台車が出て行く。老人の墓場のようだった」政子さんの息子と孫娘は、当時をそう振り返った。

政子さんが亡くなったのは7月18日。病院から死因は「反復性誤嚥性肺炎」「うっ血性心不全」と伝えられた。息子は、政子さんが亡くなる直前まで見舞いに行っていて、帰宅して早々、病院から危篤の連絡を受けたそうだ。

鈴木政子さんの死亡診断書(遺族提供)

孫娘は「持病があって、それが急変したとかではなかったので、純粋に高齢で亡くなったのだと思っていたんだけどね・・・」との感想を抱いたという。そんな中、政子さんの死からおよそ2カ月後、旧大口病院の入院患者48人が不審な死を遂げていたことが明らかになる。

捜査は難航 2年後に事件は急展開

遺族は、政子さんも被害者なのではないかと疑った。しかし病院側からの回答は「事件になっているので一切お答えできない」だけだった。神奈川県警にも何度も訴えたが、病院内という閉鎖的な空間での”不審死”で、目撃者もなく、捜査は難航。時間だけが過ぎていった。

事件が急展開したのは2年後の2018年。久保木被告が犯行を自供し逮捕された。ところが2人の刑事から遺族に告げられたのは、「立件できない」という残酷な現実だった。それでも、政子さんの孫娘は「最終的には本当のことを知ることができたのは良かったかな」と思い直したという。

取材に応じる鈴木政子さんの息子と孫娘(6日)

”第4の被害者”遺族 裁判傍聴は叶わず

10月1日から始まった久保木被告の裁判。政子さんの遺族は横浜地裁に足を運んだが、傍聴することは叶わなかった。法廷では、起訴されていない犯行について、久保木被告が”懺悔”する可能性はほとんどない。あったとしても、それが裁かれることは絶対ない。

政子さんのような、事件化されなかった被害者は一体何人いたのか。「それでも久保木被告の顔が見たいんだ」と訴える息子。孫娘は「テレビ越しのニュースではなく、ちゃんと本人の声を直接聞きたい」と語気を強めた。

横浜地裁には傍聴希望者の長い列が・・・。政子さんの遺族の傍聴は未だ実現していない(11日)

「騒いだりしても怒ったりしない優しい母親だった。母親のことが好きだったから食事も作ってあげたりして。それをとても喜んで食べてくれた」「料理も美味しく、トランプで遊んでくれたり、あやとりを教えてくれたり、とにかく優しいおばあちゃんだった」

取材を進める中、政子さんの思い出話は尽きなかった。優しく家族に愛されていた政子さんは、あの女に殺されたのか。その死の真相は語られないまま、裁判は11月9日に判決を迎えるのか。「裁判を傍聴したい」という2人の思いが叶うことを願ってやまない。

(フジテレビ報道局ニュース制作部 佐竹潤)