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“中国ウイルス”発言を連発

「我々は中国ウイルスと戦っている」
「このウイルスは中国から来たものだ。とても正確な呼び方だと思う。」

トランプ大統領は18日、カナダとの国境封鎖など新型コロナウイルスの感染防止対策を発表する中で、「チャイニーズ・ウイルス(中国ウイルス)」を連発した。

16日にツイッターに投稿した際、初めて新型コロナウイルスを「チャイニーズ・ウイルス(中国ウイルス)」と呼んでいたが、会見の場で使ったのは初めてだ。

これには中国外務省が直ちに反論し、「中国に汚名を着せようとしている。我々は強い憤りを覚え、断固として反対する」と猛反発していたが、これを一切無視した形だ。

さらに、「こうした呼称が差別を招くのでは?」との記者の質問には「そうは思わない。米軍が中国にウイルスをもたらしたという(中国の主張の)方が差別的だ」と語気を強めた。

トランプ大統領が問題視しているのは、中国外務省の報道官がツイッターに「武漢に感染を持ち込んだのはアメリカ軍かもしれない」と書き込んだことだ。この発言を巡っては国務省が駐アメリカ大使を呼び、強く抗議した。新型コロナウイルスの発生源をめぐって、米中間の対立が加速している。

新型コロナウイルスの発生源は?米中の対立が激化

この一か月を振り返ると、中国に対して自制的な発言を繰り返していたトランプ大統領が「中国ウイルス」と発言するに至った、その流れが見えてくる。

▼2月19日 中国外務省は、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが掲載した「中国がアジアの真の病人」と題した論説記事を問題視。同社記者3人の記者証を無効にしたと発表。

▼3月2日 アメリカ国務省は、中国国営新華社通信など中国の報道機関5社について、米国内で働く中国人の記者ら従業員の人数を160人から100人に減らすと発表。

▼3月12日 中国外務省の趙立堅(チョウ・リツケン)報道官は、ツィッター上で、「米軍が武漢にコロナウイルスを持ち込んだ可能性がある」と投稿。

▼3月13日 アメリカ国務省が中国の崔天凱(サイ・テンガイ)駐米大使を呼び抗議

▼3月16日 中国習近平国家主席が「ウイルスがどこから来たのか明らかにする必要がある」と訴える論文を中国共産党の理論誌に寄稿。

▼同 アメリカ、トランプ大統領がツイッターに新型コロナウイルスを「チャイニーズ・ウイルス」(中国ウイルス)と書き込む。

▼3月18日 中国外務省は、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルなど米主要3紙の記者を事実上の国外退去に

国内向けか米中の覇権争いか…発言の裏にトランプ大統領の“焦り”

トランプ大統領が16日を境に「中国ウイルス」と呼ぶようになった背景には、根拠を示さず中国側がウイルスの発信源がアメリカにあるかのような主張を行ったことが大きい。

問題の主張をした中国外務省の趙立堅氏は、2月下旬に報道官に就任したばかり。早くからツイッターを使い、中国の主張を世界に発信することで定評があり、「戦う外交官」の異名を取っていた。今回のツイッターでの発信も、明らかに国際世論への影響を意識したもので、情報戦の一環といえる。

トランプ大統領が敏感に反応したのも、中国が初動の失敗でウイルスを世界に拡散させてしまった責任をアメリカに押しつけ、アメリカの権威を傷つけようとしていると感じたからだろう。貿易や軍事分野で続く米中の覇権争いが、新型コロナウイルスという感染症との戦いにも飛び火した形だ。一方で、アメリカ国内を意識した発言ともとれる。国内の感染者が50州全てで確認され19日までに10000人を超えるなど爆発的に増加し、トランプ大統領の足元を揺るがし始めている。ウイルスの封じ込め措置のあおりで、航空会社、ホテル、飲食業界などに甚大な被害が出ていて、トランプ大統領の支持母体「白人労働者層」を直撃する事態になっている。

トランプ大統領は国家非常事態を宣言し、100兆円を超える規模の経済対策や、国民への現金給付など次々と対策を打ち出しているが、景気後退局面は避けられない状況だ。これまで再選の最大のよりどころだった株価が暴落し、雇用の悪化もさけられない状況となり、トランプ大統領は窮地に追い込まれている。

「中国ウイルスとの“戦争状態にある”」発言の裏には有権者の目を国内の景気後退への不満からそらさせようとする狙いもあるのだろう。しかし、これから数週間で実体経済に影響が顕著に出てきたとき、はたして国民の不満は何処に向かうのか?「中国ウイルス」という表現が、不満の矛先を、アメリカ在住のアジア系住民に向け、新たな差別を生み出すことはないのか。アメリカに駐在する日本人として不安な気持ちを抱えて暮らしている。

【撮影:Matt Mosley】

【執筆:FNN ワシントン支局 ダッチャー・藤田水美】