”姉を殺害した弟”に執行猶予付き有罪判決

「主文、被告人を懲役3年の刑に処する。裁判確定の日から5年間、その刑を猶予する」 

殺人事件なのに、執行猶予が付いた。高沢翔悟被告(22)は、2020年10月、千葉県・市原市で、車を走行中に、故意に速度を加速させながら、法面へ乗り上げ、電柱に衝突させるなどして、同乗していた実姉の絵里香さん(当時26)を殺害した罪に問われている。

殺人罪に問われている高沢翔悟被告(22)(20年12月 市原署)
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刑事責任能力の程度が裁判の争点

初公判で高沢被告は起訴内容を認めていた。弁護側は「犯行時、うつ病による心神耗弱の状態で、価値のない自分と姉は生きているべきではない」という狭い思考を抜け出すことが困難だった」と主張。

検察側も心神耗弱の状態だったことは認めていたが、「大きく責任非難を低減させるものではない」として、殺人罪(刑法199条)では最も軽い懲役5年を求刑していた。高沢被告の刑事責任能力の程度が、裁判の争点だった。

高沢被告と姉が乗った車は大破していた(20年12月 市原署)

「死にたい」と訴える姉 その時、家族は

精神障害がある絵里香さんは、常々「死にたい」「殺して」と訴えていた。父親も母親も、そんな絵里香さんの存在に疲れ切っていた。家庭では、高沢被告が、母親を慰め励ます姿もあったという。

捜査段階で、父親は、高沢被告に対して寛大な処分を求めていた。証言台に立った母親は、死ぬことを望んでいた絵里香さんに「良かったね」と語りかけたことを明らかにした。両親ともに、絵里香さんの”死”に安堵しているようだった。

車を運転していた高沢被告も、大けがをしていた

「うつ病の影響で犯行を思いとどまるのは困難」と理解示す

裁判長:自分と姉・絵里香の存在が両親の負担になっているから、2人とも早くいなくならなければならないなどと考えるようになり、自分が自殺する際には、姉・絵里香と一緒に死のうと思うようになっていた。犯行当時はうつ病のため、心神耗弱状態にあった。

判決で千葉地裁は、弁護側の主張を、そのまま採用した。その上で、量刑については・・・。

裁判長:犯行を思いとどまることは、うつ病の影響により著しく困難であったというべきで、被告人を強く非難することはできない。

千葉地裁は、心神耗弱を認定し、懲役3年・執行猶予5年の判決を言い渡した

裁判長:心神耗弱による法律上の軽減をした上で、刑の執行を猶予するのが相当であるが、本件の罪質、結果の重さ等に照らすと、刑期及び執行猶予期間は、執行猶予付き判決が許されるもののうち、法が定める最長期間とするのが相当である。

「家庭の事情」で殺人事件 執行猶予も珍しくなく

千葉地裁は、執行猶予が付くケースとしては、最も重い量刑を選択し、「懲役3年・執行猶予5年」を言い渡した。殺人事件で執行猶予が付くことは珍しくない。

特に、老々介護など、「家庭の事情」により起きた殺人事件で、執行猶予が選択されることが多い印象だ。一般市民である裁判員にとっては、身につまされることがあるのかもしれない。

裁判長が説諭「何をすれば姉の償いになるか考えて」

裁判長は説諭で「あなたのしたことはあなたの命だけでなく、人の命までも粗末に扱う行為です。今後は命を粗末に扱うことはしないで下さい」「何をすればお姉さんの償いになるのかをよく考えて、償いを続けて下さい」と語りかけた。

判決言い渡し後、自席に戻ると高沢被告は一気に泣き崩れた

高沢被告は頷きながら「はい」と答え、最後に、裁判官・裁判員に向かって深く一礼した。閉廷後、弁護側の席に戻ると、高沢被告は一気に泣き崩れた。絵里香さんや家族のことを思ったのか、裁判長の言葉が胸に響いたのか・・・。

ただ自分を律していた緊張が、一気に解けたようにも見えた。傍聴席で我が子を見守っていた母親も涙を流していた。歪んだ”家族の形”に終止符は打たれるのか。

(フジテレビ社会部・千葉支局 風巻隼郎)