感染者急増NY 合言葉は「6フィート」

今、アメリカ国民の合言葉は、間違いなく「6フィート」だろう。多くの地域で、外出規制が設けられ、スーパーへの買い物などで外出するときには「人との距離を保つように。少なくとも6フィート=1.8メートル離れるように」と呼びかけあっている。

感染者が2万5000人を超え(24日現在)、全米で最も感染者数が多いニューヨーク州。1週間ほど前には1374人ほどだった感染者が、わずか1週間で18倍に急増した。毎日数千人単位で増える感染者に最初はゼロに近かったマスク着用率も、ここ数日でかなり増えた。

NY州の対策も学校休校、大型イベントの中止、レストランでの飲食禁止から、事実上の“ロックダウン”(首都封鎖)に近い、民間企業に在宅勤務100%を義務付け(一部の職種を除く)へと厳しさを増す一方だ。この措置が発表されると、多くの人がテレワークに備え量販店に行列を作ったが、ほとんどの人が、「6フィート間隔」で並んでいた。

家電量販店の行列も2m感覚

「手袋バスケ」に「手袋フルート」

レストランや劇場、美術館にショッピング…あらゆる「楽しい場所」が閉鎖となり1週間近く経った。ニューヨーカーが出かける場所は、スーパーなど一部の店と公園しかない。

観光地としても有名な「セントラル・パーク」。21日の週末はとても天気が良かった。青空の下、芝生は輝き、春の花々が咲き誇る美しい土曜日。そこに、行き場を失ったニューヨーカー達が太陽の光を求めて集まった。

セントラル・パークで息抜きをする人々(21日)

ピクニックをする人たち、サッカーやフリスビーをする子供たち。コロナウイルスの恐怖を忘れるぐらい皆が楽しんでいた。しかし、よく見てみると、寝そべって日向ぼっこをしている一部の人々の手には、「ビーニル手袋」。地下鉄やスーパーなどで、「手すりや、ドアノブなどを触って感染するのを防止するため」にかなりの人が着用している、あの手袋だ。しかし、芝生にシートも敷かずに寝転がるのに、手袋…?少し違和感を覚えたが、数組見かけた。

次に訪れたのはバスケットボールのコート。バスケの試合を楽しむチームメイトの間に、「6フィート」の距離はない。このうちの一人は青い手袋をしながらシュートを決めていた。やりづらくはないのだろうか…

青いビニール手袋をしてバスケ
芝生に寝転がる女性の手にも「手袋」

そして、池のほとりで見かけたのは、楽器を演奏する男性。趣味だというフルートを気持ちよさそうに吹いていた。しかし、手元をよく見ると…やはりあの手袋があった。

話を聞いてみると…。
外出するといろんなところを触るでしょう?でも、この手袋したまま、顔を触ったりするから本当のところは意味がないよね。だからさ、手袋したまま(自分が口をつける)フルートに触っちゃいけないんだよね!

実は、手袋着用に矛盾を感じていると明かした。さらに、こんな本音も教えてくれた。
手袋していると、いい市民だと思われるよね

男性「本来、手袋をつけてフルートを触るべきじゃないよね」

公園に“人集まりすぎ問題”…警察も出動

しかし、この21日はあまりにも天気がよかったため、ニューヨーク市のあらゆる公園に人が集まりすぎた。これでは感染防止に意味がないと危機感を募らせた行政側は、会見でこう強調した。

「一人で運動してください。そして、運動が終わったら家に帰ってください」

適度な運動は健康上必要ということで、公園の封鎖に踏み切るのは難しい。ただし、「6フィート」が保たれないと、公園で感染が拡大してしまうということだ。

強い口調で呼びかけたのはクオモ州知事。
バスケットボールしたいなら、6フィート相手から離れて試合するならいいぞ。でも、できないでしょう?6フィート距離をとったら負けちゃうんだから」
要するにチームスポーツをするな、と強調したいようだ。

そこで24日、再び訪れた美しい晴れの日に、セントラル・パークを取材した。数日前に人々がピクニックや日向ぼっこをしていた一番大きな芝生の広場(Great Lawn)は、既に閉鎖されていた。密集防止には効果的かもしれない。

最大の芝生の広場も閉鎖(24日)

しかし、バスケットボールのコートに向かってみると…子供たちがバスケをしているではないか。知事があれだけ言ったのに、なぜ…?

よく見てみると、各々がボールを持ちフリースローをしている。試合をしているグループはいない。フリースローだけがOKで、試合は禁止のようだ。さらに、コートの真横に警察車両が2台ぴったりとくっついて停まっている異様な光景。子供たちのバスケを監視する警察って、どういうことなんだろう?

警察官に確認をすると、やはり、「チームプレーをしないように監視している」とのこと。

バスケットボールのコートを監視する警察車両

ニューヨークの感染者増加は、ここ数日、恐怖を感じるほど急激だ。これを抑えられなければ、経済活動の復活どころではないだろう。一方で、ほとんどの活動が禁止される生活だからこそ、市民の健康と気晴らしも、「ほんの少し」程度は確保しないといけない…という、行政側の葛藤が「フリースロー監視」の異様な光景に現れているのかもしれない。

日本でも議論が起き始めた「都市封鎖」。
様々な課題を抱えながら、NYのこの緊迫した生活はもうしばらく続きそうだ。

【取材・執筆:中川真理子/撮影:米村翼】