2019年10月、福岡・太宰府市で起きた主婦暴行死事件。
関係者への取材で、脅迫音声の“文字起こし”について、佐賀県警が議会への勉強会の場で、箇条書きのようなものを遺族に求めていたと説明していたことが分かった。

脅迫音声の“文字起こし”で新証言

仏壇に飾られた1枚の遺影…。優しくほほ笑む女性は、凄惨(せいさん)な暴行を受けて死亡した佐賀県の主婦・高畑瑠美さん(当時36)だ。

犠牲となった高畑瑠美さん
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ウエディングドレス姿で夫と腕を組む…。こんな幸せが奪われて、間もなく2年がたとうとしている。

事件発生前、瑠美さんの遺族が再三にわたって佐賀県警鳥栖警察署に相談する中で、問題視されたのが、遺族に求めた脅迫音声の“文字起こし”だった。

脅迫電話をかけていた山本美幸被告

佐賀県警は、対応に不備はなく、「文字起こしも求めていない」と否定している。
しかし、その後の関係者への取材で、佐賀県警が議会への勉強会の場で、箇条書きのようなものを遺族に求めていたと説明していたことが分かった。

瑠美さんの母親:
最悪の事態になったことに対しては、ものすごく悲しんでます。悪かった、かわいそうなことしたと。それがものすごく、ずっと尾を引いてます

瑠美さんの異変を感じていた遺族は、佐賀県警鳥栖警察署に十数回にわたって相談した。

警察から言われた通りに脅迫音声の録音を持って訪れてもなお、捜査に乗り出すことはなかった。

(遺族が録音した鳥栖警察署でのやりとり 2019年9月)
遺族:

被害届をなんで受理せんと?

鳥栖警察署 A巡査:
そう簡単に、なんでも被害届を取れるものではない

遺族が録音した鳥栖警察署でのやりとり

遺族:
何かあってからしか警察は動かないんですか?

鳥栖警察署 A巡査:
もちろんそうなん…、あぁぁぁ

さらにこの時、遺族の反発を招いたのが、“脅迫音声の文字起こしだった。

瑠美さんの夫・高畑裕さん:
(警察から)「どれが脅迫か恐喝か、分るようにして持ってこい」と(言われた)。文字起こしをしてくれと言われたので、(再び相談に)行けなかった

遺族は、脅迫音声の文字起こしを求められ、その作業を進める間に瑠美さんが亡くなったと主張してきた。

主張を裏付ける2枚の資料
「3時間、聞けないので、(犯罪と思う部分を)特定して、証拠として持ってきて」
「今、テープ起こしをしている」

弁護士と遺族のやりとりを記した資料

鳥栖警察署への相談から5日後に、弁護士と遺族が交わしたやりとりがメモに残っていた。遺族が当時、実際に「文字起こし」に追われていた様子が読み取れる。
ところが、これらの証拠を突きつけてもなお、佐賀県警は非を認めることはなかった。

杉内由美子・佐賀県警前本部長:
県警察では、そのような事実は確認できなかったと発表したところであります

杉内由美子・佐賀県警前本部長

しかし、その後の関係者への取材で、佐賀県警が議会に対する勉強会の場で、「文字起こし」発言をめぐり、「録音データを『箇条書き』『要約』したものを持ってきてほしい」という趣旨の発言だったと説明していたことが分かった。
つまり、一字一句の「文字起こし」ではないものの、遺族に簡単な録音内容をまとめさせようとした事実はあったというのだ。

あらためて佐賀県警に対し、箇条書きや文書作成を遺族に求めたのかなど、3つの項目についてインタビュー取材を申し込んだ。
しかし、またしても「事実は認められない」と文書での回答だった。

佐賀県警からの回答書
「ご指摘の『箇条書き』や『文章作成』も含め、録音データについて警察官が文字起こしを依頼した事実は認められず…」

佐賀県警からの回答書

直撃に公安委員会のメンバーは…

その佐賀県警を管理する立場にあるのが、「佐賀県公安委員会」だ。
遺族は、佐賀県警の対応の不備を公安委員会が認めてくれると期待したが、公安委員会は遺族から一度も話を聴くことなく、「不備なし」と結論づけた。

安永恵子前公安委員会委員長:
一連の対応について、私どもで検討した。その中で一連の対応の中で不備があると、われわれは事実認定していない

安永恵子前公安委員会委員長

当時の会議のメモは全て廃棄したといい、検証は不可能な状態になっている。

いったい、どのような議論が行われのか? 公安委員会のメンバーを直撃したが…

ーーテレビ西日本報道部です。一点だけお伺いしたく、少しだけお時間頂けませんか? 一点だけ

吉冨啓子公安委員会委員長:

直撃に無言の吉冨啓子公安委員会委員長

牛島英人公安委員は…

ーー議論が不透明なままで、遺族の方にはどのように説明されるのでしょうか?

牛島英人公安委員:
公的なことは、ちゃんと補佐官室の方に言ってください

牛島英人公安委員

再調査賛成は2人…遺族の望みかなわず

そして10月1日、遺族にとっては最後の望みとも言える佐賀県議会が開かれた。
遺族は、太宰府事件の再調査を求める請願書を議会に提出していたからだ。

しかし、ここでも…

藤木卓一郎議長:
本請願についての委員長の報告は、不採択であります

井上祐輔県議(共産党):
今回のような事件をもう二度と繰り返さないでほしい。非があるのであれば真摯(しんし)に認めて、見直すべき点はより良い方向に進んでほしい。そのような思いで請願を提出されているんです

井上祐輔県議(共産党)

結局、再調査に賛成したのは2人の議員だけだった。遺族の願いはついえた。

瑠美さんの母親:
やっぱりなとは思います。もう県議も、公安委員会も、私たちの思っていることを反映していない。自分たちが言っていることは正しいとかしか言っていない。誰が私たちの安全を守ってくれるのかな。同じ県民として悲しいとしか言えない

街の声は…「再調査すべき」

9月に開かれた佐賀県議会でこんな一幕があった。議員の1人が、佐賀県公安委員会のトップを追及する直前の出来事だった。

西久保弘克県議(自民党):
頑張って

自民党会派の県議がエールを送ると、県警、公安委員会、両組織のトップがにこやかな笑顔で返した。1人の命が奪われているのに、なぜ笑みがこぼれるのか。慣れ合いの構図にしか映らない。

松下徹佐賀県警本部長(左) 吉冨啓子公安委員会委員長(右)

警察の落ち度が指摘されながら、誰も責任を取らず、このまま事件にフタをしてしまっていいのか。
佐賀県民に尋ねると、取材を受けた佐賀県民のほとんどが再調査をするべきだと答えた。

佐賀県民:
自分たちの面倒なことは、フタをするじゃないですか。そういう今の行政が嫌ですね。特に警察は嫌ですね

佐賀県民:
家族としては、真相を知りたいというのが本当じゃないですか

佐賀県民:
佐賀県に住むものとしても、しっかりと公表する、いろんなことを悪かったことは悪かったとして、そうしていかないと、全然…反省しているのかなと

すくえた命…

多くの県民が疑問を抱いたまま、瑠美さんの死は過去の出来事にされようとしている。

(テレビ西日本)