人間には誰しも機嫌や体調などの善しあしがあり、悪いときはつい怒りも感じやすいもの。そうした要素の一つとして思い浮かぶのが、毎日の食事だろう。

おいしいものを食べて幸せな気持ちになったり、落ち着くことはあるが、一方で空腹時にイライラしたり、そのストレスを解消しようとドカ食いするなどの逆パターンもある。

もしも食生活と怒りに何らかの深い関係性があるのなら、日々の食事を改めることで、感情をコントロールできるようになるかもしれない。そのような方法があったりするのだろうか。

栄養医学などに詳しい、マリヤ・クリニックの院長・柏崎良子さんに話を聞いた。
 

食生活が偏ると感情がコントロールしにくくなる

――まず食生活と怒りの感情に、何らかの関連性はある?

はい、関連しています。怒りの感情は、脳の「大脳辺縁系」から生まれるのですが、内臓の「副腎」から「アドレナリン」というホルモンが分泌されると、大脳辺縁系が刺激されて、怒りや敵意、憎しみ、焦燥感などの感情的な興奮を引き起こすことが分かっています。

このアドレナリンは血糖値が急激に下がったり、低い数値でとどまる「低血糖症」の状態で多く分泌されるのです。低血糖症は甘いものを多く摂取する習慣があったり、糖質に偏った食事をしたりするとなりやすくなるので、食生活が影響してきます。

また、感情的な興奮は「セロトニン」という脳内物質などがブレーキをかけてくれるのですが、タンパク質やナイアシン、マグネシウム、ビタミンB6などの栄養素が不足すると、このブレーキも働きにくくなります。食生活が偏ると、感情もコントロールしにくくなるのです。
 

マリヤ・クリニック院長・柏崎良子さん

――注意すべき栄養素や食事の傾向などはある?

清涼飲料水、甘い菓子類、カフェインの取りすぎはよくありません。清涼飲料水や甘い菓子類には、多くの糖質が使われています。こうした食品を多く食べると血糖値が急上昇して、「インスリン」というホルモンが過剰分泌されやすくなります。

インスリンは血糖値を調節する働きがあるので、過剰分泌されると、急上昇した血糖値の急降下を引き起こします。その結果、低血糖状態となり、アドレナリンが分泌されるのです。

インスリンの過剰分泌は、甘いものを数回食べた程度では起きませんが、血糖値を急上昇させる生活習慣が長期間続くと発生しやすくなるので、注意が必要です。このほか、カフェインも副腎を刺激して疲弊させるので、血糖値をコントロールにしくくなります。
 

“飢えている”状態は食事の糖質を吸収しやすい

――食べ方などで、注意すべきパターンなどはある?

1日1~2回の食事でドカ食いすること、炭水化物中心の食事、早食いはよくないですね。

血糖値は食後3~5時間もすると、空腹時と同じレベルまで下がるのですが、血糖値が下がりすぎると、身体にはタンパク質や脂質からエネルギーを調達する働きが起こります。

こうした“飢えている”状態だと、糖質が吸収されやすくなり、食後の血糖値は一時的に急上昇するのですが、その後にインスリンの過剰分泌で急降下し、低血糖を引き起こします。

そのため、空腹でイライラしてドカ食いしたり、甘いものを食べても、血糖値がすぐ下がり、イライラしてまた食べる...といった悪循環に陥ってしまうことも考えられます。食事と食事の間隔が長く空くいたときは、血糖値の急上昇に注意しなければなりません。
 

空腹時はご飯から...といきたくなるが、それが血糖値の急上昇につながる(画像はイメージ)

――では自分が低血糖状態かどうか、判別する方法などはある?

食後に何らかの反応があるかどうかですね。食事から数時間後、空腹時など一定のタイミングで感情が興奮しやすいのであれば、低血糖状態になっている可能性があります。このほか、ジュースやバナナなどで糖分を補給すると、怒りやだるさが遠のく感覚があるのであれば、こちらも低血糖を疑ってもよいかもしれません。

低血糖症の場合はホルモンの働きで、午前中は症状が表れにくく、午後から症状が露骨に表れる傾向にあります。午後から夕食前にかけて、強く症状を感じるのなら注意が必要です。


――普段の食生活で改善できることはある?

血糖値の急降下は、食生活や食事の間隔を工夫することで改善できます。例えば、3~4時間ごとに甘くない間食を取ると、血糖値をコントロールしてアドレナリンの分泌を抑えることができます。このほか、野菜や汁物などから食べ、血糖値を上げやすいごはんや麺類、パンを後回しにするといった、食事の順番を工夫することも大切です。

カフェイン、アルコール、たばこなどの嗜好品はアドレナリンの分泌を増やすので、できるだけ控えるのが望ましいでしょう。
 

空腹時や食後、一定の時間でイライラする人は注意という(画像はイメージ)

食事のタイミングも大切...夕食は特に注意!?

――自分が「怒りっぽい」と感じる人は、どんな食事を心がけるべき?

炭水化物中心の食事、糖質やカフェインの多量摂取、ドカ食いや早食い、食事の時間を長く開けることは、血糖値の急上昇につながるので避けてください。

野菜に多く含まれる食物繊維は、糖の吸収を穏やかにする働きがあり、血糖値の急上昇を防いでくれるので、野菜を積極的に食べることはお勧めです。野菜にはビタミンやミネラルが多く含まれているので、身体の調子を整えてもくれます。

もしも間食をする場合は、ちくわ、豆乳、ヨーグルト、ナッツ、チーズといった糖質が少なめのものを摂取すると、血糖値を上手にコントロールできると思います。
 

糖質が少ないナッツ類などを間食する方法があるという(画像はイメージ)

――おすすめの朝食、昼食、夕食の具体例などはある?

基本は炭水化物を控えめにして、野菜を積極的に食べることですね。

朝食はご飯に汁物、副菜などを付けた、和食を中心に考えるべきでしょう。パン類の糖質は体内に吸収されやすいので、食べる場合はサラダをセットにしてはいかがでしょうか。

昼食は外食する機会も多いと思います。その場合はラーメンや丼ものなど、炭水化物が多めの食事は控えめにしたり、週に食べてもいい回数を決めてみてはいかがでしょうか。

夕食も基本は同じですが、大切なのは食事のタイミングです。昼食から時間が空いていることも多いので、帰宅途中にナッツ類を頬張るなどして、極度の空腹状態を作らないようにすると、血糖値の安定につながるでしょう。


――いわゆる“糖質オフ”の食事は正しい?どこまでやればよい?

何事もやりすぎはよくありません。炭水化物は摂取しすぎると内臓などに負担をかけますが、欠乏すると体内のエネルギーが不足して、疲れやすくなったりもします。炭水化物ばかりを食べるのはよくありませんが、適量の範囲で摂取するのは問題ありません。
 

食事は和食を基本に、野菜やタンパク質から食べるようにしよう(画像はイメージ)

食生活の改善で状態が変わらないなら、医療機関の受診を

――発育過程の子供が気を付けるべきことはある?

中学生から高校生の年代にかけては、成長とともに基礎代謝が上がり、甘いものが欲しくなる時期があると思います。ただ、その時期の食事を炭水化物中心で補うと、血糖値に浮き沈みが出て発育にもよくありません。タンパク質など、発育に必要な栄養素を多く含む食品を積極的に摂取してはいかがでしょうか。過度の食事制限など、無理なダイエットも禁物です。


――怒りっぽい人に対し、呼びかけたいことは?

低血糖症の場合、食生活を見直して1カ月半ほどで体調が安定してくることが多いです。根気よく続けたり運動を取り入れるなどして、正しい生活習慣を身につけましょう。

一方で貧血などの持病でも、体内のエネルギー合成がスムーズに働かず、アドレナリンが過剰分泌されることがあります。食生活を改善しても症状が長期間続いたり、改善しない場合は、複合的な病気が隠れていることもあるので医療機関を受診してください。


怒りを感じているときは、つい周囲に目を向けたくなるが、その原因が自分の体内に隠れていることもあるようだ。空腹時や決まった時間にイライラする人は、低血糖がその原因になっていることも考えられるので、食生活や食事の間隔、ペースなどを改めてみてはどうだろう。


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