「日中関係を次なる高みに」焦点は「第5の政治文書」

2019年12月、日中韓首脳会議に合わせて訪中し、習近平国家主席と会談した安倍首相。今年春に予定される国賓としての習主席の来日について、「極めて重視している」と述べたうえで、「日中関係を次なる高みに引き上げたい」とアピールした。

握手する安倍首相と習近平国家主席(2019年12月)

FNNの取材ではその習主席の来日に向けて日中の高官が会談する方向で調整していることが分かった。複数の関係者によると、日中両政府は1月13日に中国・西安で外務省の秋葉事務次官と中国外務省の楽玉成次官が会談する方向で調整しているという。

会談では習主席の来日に向けて地ならしを行うと共に日中間で焦点となっている「第5の政治文書」を作成するかどうかについて話し合われる見通しだ。

外務省の秋葉事務次官
中国外務省の楽王成次官

「習近平主席が江沢民・胡錦涛両氏よりも上だと示すため」

「第5の政治文書」とは何か。

それは日中両国の関係を新しく規定する文書のことだ。これまで日中間では国交を正常化した際の日中共同声明(1972年)のほか、日中平和友好条約(1978年)、平和と発展のための友好協力パートナーシップ確立を打ち出した日中共同宣言(1998年)、戦略的互恵関係の包括的推進をうたった日中共同声明(2008年)の合わせて4つの政治文書が作られている。

日本の閣僚の靖国神社参拝など日中間で軋轢が生じる事態になると、中国外務省が会見で、「4つの政治文書の精神を順守すべきだ」と主張するなど、中国側は日中関係の基礎となる重要な文書と位置づけている。

孔鉉佑駐日大使は2019年9月、東京都内で講演し、習主席の来日に合わせて「第5の政治文書」を発表することを検討していると明らかにした。この発言直後に日本政府関係者に話を聞いたが、「まだ協議自体始めていない。これは中国側の絶対に作るという日本政府へのメッセージだろう」との見方を示した。中国側としては是が非でも作成したいという姿勢だ。

「第5の政治文書」作成に意欲を見せる孔鉉佑駐日大使

背景には98年と08年に当時の国家主席(江沢民・胡錦涛各氏)が来日した際、日中間で政治文書が作成されたという事実がある。中国側の関係者は「日本と政治文書を交わした2人の指導者よりも上だということを示すためにも習主席来日の際には作成してもらわなければならない」と中国側の事情を漏らす。

習近平国家主席と江沢民・胡錦涛両氏

「習近平ワード」を盛り込みたい中国、注目のワードは「新時代」

それでは「第5の政治文書」はどういう内容になるのか。中国側は自らが推進する巨大経済圏構想「一帯一路」や習主席が提唱する外交思想「人類運命共同体」の概念などを盛り込みたいと考えているとされる。

一方で、日本政府関係者は「中国の考えや行動を全面的に認める文書にはできない」と述べるなど中国側の出方を警戒し、そういったワードを盛り込むことには否定的だ。

そこであるワードが注目を集めている。それは「新時代」だ。

安倍首相との会談に臨む習近平国家主席(2019年12月)

12月の会談では安倍・習両氏とも日中関係について触れる中で「新時代」という表現に言及した。実はこの「新時代」こそが「習近平ワード」なのだ。2018年3月、憲法を改正し、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が明記された。中国の歴代指導者でもその名を冠した思想が憲法に明記されているのは毛沢東・鄧小平両氏のみだ。

習主席自身もスピーチで「新時代」というフレーズをよく使っており、いわば習主席の代名詞的なワードとなっている。中国当局の関係者は「個人的な見解」としたうえで、「新時代というキーワードは中国側としては歓迎だ。一見するとニュートラルな表現なので日本側も受け入れやすいのではないか」と漏らす。

全人代での習近平国家主席 、この後憲法が改正 ( 2018年3月)

08年の政治文書のキーワードである「戦略的互恵関係」という表現を考案したのは奇しくも外務省で中国課長も務めた秋葉氏とされる。

日中間では沖縄県尖閣諸島付近での中国公船の活動活発化、相次ぐ日本人拘束など懸案は山積している。今後の日中関係を占う上でも「第5の政治文書」のキーワードの行方には注目が集まりそうだ。

【執筆:FNN北京支局 木村大久】