政府が初めて製作費を補助するハリウッド映画

このたび、ハリウッドの人気アクション映画「G.I.ジョー」シリーズの最新作、「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」が日本で撮影されることが決まり、10日、首相官邸の近くにある東京・日枝神社で製作発表会が行われた。

「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」2020年公開 (c)2020 Paramount Pictures. All Rights Reserved. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. (c)2020 Hasbro. All Rights Reserved. 配給:東和ピクチャーズ
「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」2020年公開 (c)2020 Paramount Pictures. All Rights Reserved. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. (c)2020 Hasbro. All Rights Reserved. 配給:東和ピクチャーズ
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この映画は世界を守る最強の戦闘エキスパートチーム「G.I.ジョー」と、世界征服をもくろむ悪の組織「コブラ」との戦いを描くヒットシリーズで、最新作ではこれまで漆黒のマスクで正体を隠していた「スネークアイズ」が主人公となり、彼の誕生の秘密が明かされる。

ロベルト・シュヴェンケ監督は、これから兵庫(姫路)や大阪、茨城などでロケ撮影が始まることを明かした。関係者によると「ハリウッド映画史上最大規模となる日本各地でのロケ」ということだが、この作品は日本政府にとっても、大きな意味を持つ。内閣府は初めて、外国映画を日本国内で撮影してもらうための調査に乗り出していて、この作品は初の支援対象となっているのだ。ではなぜ政府が、外国映画のロケを支援するのか。

なぜ政府がロケに助成金?

実は政府は、海外映画のロケを、地方を潤し、日本の魅力を海外に発信する“切り札”と位置付けている。すなわち、外国映画のロケを誘致することで、地域経済や国内産業の活性化が見込まれ、さらに日本の魅力を世界に対し発信する「クールジャパン戦略」への大きな効果もあるとみている。

海外映画のロケ誘致メリット1、経済効果

ロケを行うと、当然ながらキャスト・スタッフの滞在費や飲食費、さらにはセット建て込み費用などで、ロケ地にお金が落ちる。ハリウッド級の映画であれば、その効果はひとしおだ。

さらに、撮影時に集客が見込まれるだけでなく、撮影後も「聖地巡礼」のような形で、映画を観たファンがロケ地を巡ることが期待できる。近年も、アニメや映画の舞台となった場所を巡るツアーを組む旅行会社の例がある。このように、外国映画のロケを行うと、ロケ地へのインバウンドの増加など、経済効果が期待できるのだ。

海外映画のロケ誘致メリット2、日本の魅力発信

そして日本を題材にした映画の場合、映像を通してロケ地を含めた日本の文化・魅力の発信につながる。日本のイメージを向上させるという「ブランディング」の効果に加えて、地元産品・製品の認知度を上げることもあるだろう。ロケ誘致が地方を潤す好事例として、佐賀県のケースが挙げられる。

佐賀県では2014~15年にかけて、地元の伝統行事や風景を盛り込んだ映画やドラマの誘致を行った。すると、映画を観たタイ人が、ロケ地を巡りに続々と佐賀を訪れるようになったのだ。ロケ地の一つである祐徳稲荷神社は、タイのメディアに紹介されたり、ロケ地巡りツアーに組み込まれたりされたことで、多い日に200人ものタイ人観光客が訪れたという。

こうしたインバウンド増加により、佐賀の地元住民らが自主的にタイ人観光客に対し映画にまつわる特産物を配るようになったほか、東京オリンピック・パラリンピックではタイのホストタウンに佐賀が選ばれるなど、ロケ誘致が文化やスポーツにまで波及効果を生んでいる。

(タイ語で書かれた祐徳稲荷神社の絵馬:国土交通省HPより)
(タイ語で書かれた祐徳稲荷神社の絵馬:国土交通省HPより)

各国がロケ誘致を競い合う中、水をあけられている日本

このように、海外映画のロケ誘致には多くのメリットがあるため、各国は競って誘致を行っている。多くの場合、手厚い制作費の補助制度でハリウッドなどの目を引こうとしている。内閣府によると、ドイツや韓国、ニュージーランドは制作費の20~25%を助成しているほか、イギリスやアメリカの一部州などは税額控除で優遇している。

ところが、日本では、一部自治体が独自に補助制度を設けているのみで、その補助額も国ぐるみで取り組んでいる諸外国に比べて少なく、日本はロケ誘致において海外に大きく水をあけられていると言わざるを得ない。

ロケ誘致において、日本が海外に“負けた”事例としては、大ヒット作「ラストサムライ」(一部ロケは日本だが、多くをニュージーランドで撮影)や「沈黙-サイレンス-」(全面支援を行った台湾で撮影)などが挙げられる。いずれも日本が題材なのに、海外でロケが行われているのは悔しいところだ。内閣府によると、このほかにも日本ロケを逃した作品は多く、直近では世界的に有名なシリーズ大作も誘致を逃しているという。

政府によるロケ誘致の今後

平将明内閣府副大臣
平将明内閣府副大臣

クールジャパン政策を担当する平将明内閣府副大臣は、製作発表会に出席し「人気作品の撮影は世界中で取り合いになっているのが現状だ」として、「海外の人気作品のロケ誘致に負けないように、様々なインセンティブの制度や、許認可が取りやすい仕組みなどの整備を政府全体で行っていきたい」と強調した。

エグゼクティブプロデューサーのエリク・ハウサム氏
エグゼクティブプロデューサーのエリク・ハウサム氏

実際、「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」エグゼクティブプロデューサーのエリク・ハウサム氏は「日本政府のサポートがなければこの映画を日本で撮影できなかった」と、政府によるロケ支援の重要性を、製作者の側から語った。

こうしたことから、内閣府は今年、ロケ誘致の効果を実証するため、試験的に助成金を出し、効果を数値化する。また通常国会冒頭に成立する見通しの補正予算には、地方へのロケ誘致に力点を置いた同種調査を行うことを盛り込んでいる。地方へのロケ誘致を加速させ、地方のロケ環境整備やPR力拡大を図る狙いだ。

効果が検証されれば、ロケ誘致は日本の魅力を海外に発信するだけでなく、新たな地方創生の柱にもなり得る。まずは今回の調査を通して、実際にどれくらいの経済効果が期待できるのか、しっかりとした意義づけが得られるかどうか、注目したい。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部