岸田氏勝利は想定内

自民党総裁選は岸田文雄氏が勝った。1回目の投票で党員票では人気の河野太郎氏が先行したものの予想ほど伸びず、さらに議員票では岸田、高市早苗氏に次ぐ3位で、合計では過半数どころか岸田氏に1票差で負けてしまった。このため議員票の割合が増える2回目の投票では岸田氏が楽勝だった。

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今回の総裁選は、まず高市氏が名乗りを上げ、岸田氏も出て、菅氏が引き、河野氏が出た時点で流れは見えていた。もちろん安倍前首相は第1回目の投票まで高市氏を全力支援したし、麻生財務相は最後まで対応に苦しんだ。だが決選投票が河野と岸田なら岸田だ、というのは細田、麻生、竹下の3派閥では暗黙の了解だった。ただ予想より河野氏が弱かった。

岸田氏の勝利演説を聞く河野氏
岸田氏の勝利演説を聞く河野氏

若手議員による「党風一新の会」が「派閥一任で総裁選の行方を決めるな」と騒いだが大きなうねりにならなかったのはメンバーの多くが派閥に所属しているという自己矛盾だったと思う。派閥を批判するなら出てからやれ、ということだ。

「今ある政党の中では自民党かな」と思っている消極的自民党支持層の人達は候補4人の中で最も穏健で安定感のある岸田氏が勝ったことにホッとしているだろう。一方で「無茶」な河野氏や「保守」の高市氏が負けたことについて「ホントにこれでよかったのか」とも思っているのではないか。改革や変化の芽を摘んでしまったのではないかということだ。

厳しい表情で決戦投票の結果を待つ小泉氏
厳しい表情で決戦投票の結果を待つ小泉氏

総裁選の論戦は盛り上がった。特に河野氏の最低保障年金の提案には感心したが、本人が財源の議論を避けたのが残念だったし、他の3人が一斉に拒否したのも底が浅いと思った。日本の年金が破綻しないことはわかっている。だが近未来に低年金の高齢者が生活保護に殺到するという事を政治家はもう少し真剣に考えてほしい。

高市氏か野田氏を官房長官に

総裁選は接戦だった。ということはどんぐりのせいくらべなのであまり強い首相ではないかもしれない。「戦いの後はノーサイド」だと言う人がいるが(岸田氏も言った!)、ラグビーとマジないくさを一緒にしない方がいい。必要なら取り込むが不要なら殺すのがいくさだ。

総裁選の論戦で決定的にわかったのは女性2人の方が男性2人よりコミュニケーション能力が高かったということだ。河野氏は乱暴だったし岸田氏は悪いけど昭和のオジサン。それに比べて高市氏は主張は激しいが語り口はソフトだし、野田氏のしゃべりは一番わかりやすかった。岸田氏は官房長官に女性2人のどちらかを充てるというのはどうか。

河野氏は幹事長などと言う人もいるが今回は無役の方が次を狙えていいと思う。岸田政権は短命かもしれないからだ。ただあまり政権を批判して「石破化」はしない方がいいけど。

開票結果を待つ間、石破氏は天を仰いだ
開票結果を待つ間、石破氏は天を仰いだ

岸田氏勝利の理由は「貯金」と「お土産」

なぜ自民党は「無茶」な河野でなく「安定」の岸田を選んだのか。岸田政権の前途はわからない。これまでの歴史を見ると長期政権の後は短命政権が続いている。ただ岸田政権には「貯金」と「お土産」がある。

「貯金」は安倍元首相が残した「国政選挙6連勝」だ。このおかげで衆参ともに自公で過半数をがっちり確保しており、一度の選挙で多少負けても毎年の予算は通る。だから短命になりにくい。政権が長く続くと成果も出る。

「お土産」は退陣する菅首相からで、ワクチン接種を強引に進めたおかげでコロナは終息しつつあるし、厄介な東京オリパラも開催してくれたので、大きな懸案がない。むしろ今後経済は復活する。

つまりこれだけの貯金とお土産があれば、首相は誰でも務まるのではないか。菅退陣で政党支持率が上がり衆院選で大負けすることもない。だったら「無茶」より「安定」を選ぼうと自民党は守りに入ったのかもしれない。それが吉と出るか凶と出るかはわからない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。