オリンピックに“オタ芸”? ひな人形のファンキーな姿に注目

3月3日は女の子の健やかな成長を願う「ひな祭り」。

鮮やかなひな人形が飾られると、自然と気持ちも華やぐものだが…実は今、生活スタイルの変化などに伴い、捨てられてしまうひな人形が増えているのだという。

そんなひな人形たちに“第二の人生”を与えてくれるプロジェクトがある。一般社団法人・日本社会文化教育機構が行っている、その名も「福よせ雛プロジェクト」だ。

処分されてしまう運命の雛人形を全国から預かり、「福よせ雛」として蘇らせて展示する…というものだが、この人形たちの“第二の人生”が今、想像の斜め上をいく光景だとSNSで人気となっている。

実際に人形たちがどう展示されているか覗いてみると…

“オタ芸”に励む人形たち
“オタ芸”に励む人形たち
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サイリウムを掲げ“オタ芸”を披露したり…


豪快にジョッキでビールを飲むおひな様たち…

三人官女の華麗なる転身
三人官女の華麗なる転身


さらには、オリンピック選手に抜擢されたらしい三人官女に五人囃子などなど、イキイキと“セカンドライフ”を楽しんでいる人形たちが激写されている。

体操種目できれいな技を決める人形
体操種目できれいな技を決める人形

人形たちの自由すぎる姿に、SNSでは「ぶっ飛んでて面白い」「親しみやすさが上がった」、さらには「押し入れで眠ってるうちの人形にも自由に遊んでほしい」などのコメントが続々。

確かに、子どもが独立したり、引っ越しなどで収納場所がなくなってしまった…などの理由で不要になった人形たちはあっても、いざ処分しようとなるとなかなか踏み切れない人も多いはず。

そんな人形たちが“再利用”されるのは嬉しい取り組みだが、そもそもなぜ、このプロジェクトを立ち上げるに至ったのか。そして、“第二の人生”を歩んだ人形たちは最終的にどうなってしまうのか?

愛知県を中心にこのプロジェクトを手がける、日本社会文化教育機構の代表理事・吉野孝子さんにお話を聞いた。

「ひな人形を手放す人」の気持ちに寄り添うプロジェクト

――「福よせ雛プロジェクト」を始めたきっかけは?

持ち主様の事情でやむをえず手放されてゆく人形たちがもう一度何かの役に立てる場を、また、“規格はずれ”など新品のまま処分されてゆくひな人形が何かの役に立てる場を作ろうと、名古屋市近郊の有志の主婦9名でプロジェクトを立ち上げました。

日本文化に対する正しい知識を教育し、普及させることを目的としている日本社会文化教育機構では、いらなくなった着物等の保存やリメイクなども行っている。そして、ひな人形の衣装を手作りのものに取り換える際、人形の構造に注目。

自由に手足が動かせることや、顔のつくりがひとつひとつ違うことに気付き、「ひな人形たちもずっと同じ格好で座っていては足が痛くなるのでは?」「ずっとひな壇にいるよりは“第二の人生”を歩ませてあげるのがいいのでは?」というアイデアが浮かんだという。

このアイデアをもとに、2011年、名古屋市で“福よせ雛”を展示したのが「福よせ雛プロジェクト」のはじまりだという。


展示は各自治体の実行委員会、または吉野さんら事務局のメンバーが行っている。毎年9月には互いに展示のための“ネタ”の探り合いをする「協力し合っているけれど、ライバル同士」の関係になるそうで、その年に起きた“時事ネタ”が仕込まれるのも見どころとなっている。

ファイルのタイトルに注目
ファイルのタイトルに注目

――このプロジェクトにはどんな目的がある?

「福よせ雛プロジェクト」は各ご家庭で事情があり手放されなければならなくなったおひな様に再び活躍できる場をつくり、地域づくりに役立てようという取り組みです。

ひな人形を捨てなければいけない事情は様々なものがあります。収納場所がなくなった、子どもが大きくなった…などの理由で不要になっても、ひな人形の多くは親が子どものために買うものです。自分が買ったものならば捨てることも気にならないかもしれませんが、捨てる際に人形供養をしても「親の気持ちがこもった人形を捨ててしまった」という罪悪感が強く残ってしまう人も多いと思います。

ひな人形を「捨てた」のではなく「託す」という形で、また新たにどこかで人のために役立っている、ということを見ていただくことで、手放したひな人形だけでなく、手放さざるを得なかった持ち主の気持ちを大切にしたい、という思いがあります。

“某バンド”を彷彿とさせる姿も
“某バンド”を彷彿とさせる姿も

「今年は何をやるのだろう?」と楽しんでくれる気持ちも大切に

――ひな人形たちはなぜこんなにファンキーな姿に?

全てのおひな様が面白いポーズをとっているわけではないですが、やはりお客さまや町の人たちが飽きずに「今年は何をやるのだろう?」と楽しんでくれる気持ちを大切にしています。また、毎年変わったことをしなくてもいいと思いますが、プロジェクトの理念が正しい形で広まれば、ひとつの町の中だけでなく、昨日まで知らなかった町の人とも友達になっていくことができます。そのために、おひな様たちにも“お仕事”をしてもらっている、ということです。


――では、“第二の人生”を楽しんだ後の人形たちはどうなる?

福よせ雛として役目を果たし終えた時に、感謝の気持ちを込めながら処分いたします。
「結局捨てるのでは」とのご意見もありますが、その意味は全く異なり、捨ててしまうその前にもう一度何かに役立てることで、持ち主様の気持ち(心残りや手放す心苦しさ)を汲みながら、再び生かす工夫をする取り組みを通して“ものを大切にする心・工夫して使う心”を育む一助としていきたいと考えています。


“第二の人生”を楽しんだ人形たちは永久的に保存されるというわけではなく、最終的には処分されてしまうそう。

しかし、人形たちを自分の手で処分する、もしくは神社やお寺で「人形供養」をするという手もあるが、どちらにせよ「自分や孫のために家族が買ってくれたもの」を手放してしまうのは、心苦しいものがあるはず。

まだまだきれいで活躍できる人形たちを“再利用”して救う、そしてそんな人形たちが“第二の人生”をエンジョイしている姿を元の持ち主に見てもらうことで、持ち主たちの心も救う。それがこの「福よせ雛プロジェクト」の目指すものなのだ。

だらけすぎの“ゴロ寝おじさん”ポーズ
だらけすぎの“ゴロ寝おじさん”ポーズ

そんな「福よせ雛プロジェクト」、イキイキとした人形たちの姿を楽しむ声も大きいが、「ひな人形をこんな形で展示するのは違和感がある」「普通に捨てる方がいいのでは」などの声も寄せられてきたという。

こういった意見に対し、「主旨や表現の意図が伝わらないままに福よせ雛をご覧いただいた方の中には『雛人形にふざけた表現をしている』とお感じになる方もいらっしゃいますので、プロジェクトの主旨をご理解いただけるよう、情報発信をしてまいります」としている。


今年の「福よせ雛」の展示は、2月1日(土)~5月6日(水)。愛知県をはじめ、岐阜県・鳥取県、さらにはフランスなど全25会場で、合計数万体が飾られる。

一見、人形たちのユニークな姿を楽しむための展示にも思える、「福よせ雛プロジェクト」。しかしその本質は、ひな人形ひとつひとつに込められた大切な思いをすくいあげる最後の場所となる、優しさいっぱいのプロジェクトだった。