著名人も議論に参加…パラリンピック成功とバリアフリー

パラリンピックチケットの2次抽選販売が始まった1月15日、東京国際フォーラムでパラリンピックの成功とバリアフリーの推進に向けた懇談会が開かれた。
東京都が進めるこの懇談会のメンバーには、学識経験者やパラアスリートのほか、著名人も多く顔をそろえる。

 
 
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この日の参加者だけでも、イルカ(歌手)、大黒摩季(歌手)、風間俊介(俳優)、テリー伊藤(演出家)、中畑清(元プロ野球選手)、萩本欽一(タレント)、林家こん平(落語家)、林家三平(落語家)、眞鍋かをり(タレント)などなど。

大黒摩季さん
大黒摩季さん
風間俊介さん
風間俊介さん
眞鍋かをりさん
眞鍋かをりさん

それ以外にも、市川海老蔵(歌舞伎役者)や五木ひろし(歌手)、高橋みなみ(歌手・タレント)、葉加瀬太郎(ヴァイオリニスト)、ラモス瑠偉(サッカー指導者)と各界の著名人が名を連ねるのは、小池知事のパラリンピックにかける思いの表れだろうか。(敬称略)

「心のバリアフリー」が危ない!?

そんなメンバーが集まったパネルディスカッションで目を引いたのは、こんなタイトル。
「パラリンピックの落とし穴―― 心のバリアフリーが危ない!」
議論のテーマは「心のバリアフリーを広めるために」なのに“落とし穴”とは…?
パネリストになったのは東京大学大学院の星加良司准教授
バリアフリー教育開発研究センターで「障害学」「多様性理解教育」などを研究している。
自身も5歳の時に小児がんで全盲になりながら、小学校からずっと普通学校に通い、東京大学に進んだ経歴をもつ。

東京大学大学院 星加良司准教授
東京大学大学院 星加良司准教授

そんな星加さんが指摘する「パラリンピックの落とし穴」とは?
ご本人の了解を得てその内容を紹介する。

「すごく感動した!」は、ほぼ失敗

パラリンピック競技を見た中学生が、こんな感想を抱いたとする。
A中学校では「障害を乗り越えて競技をしている姿に感動した」「障害があるのに前向きに明るくやっているのがすごいと思った」とキラキラした目でみんな楽しそう
一方、
B中学校では「パラリンピックがオリンピックと別に行われていることに疑問を感じた」「何かモヤモヤして純粋に楽しめなかった」と考え込む反応が多かった

東京大学大学院 星加良司准教授;
心のバリアフリーの観点から考えると、A校はほぼ失敗。
モヤモヤして帰るB校の方が、一歩二歩前進している

…なぜなのか?

「心のバリアフリー」とは?

そもそも心のバリアフーとは何なのか。
星加さんは政府の「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(2017年2月関係閣僚会議決定)を示しながら3つのポイントを示した。
「障害の社会モデル」の理解
差別をしない(合理的配慮を提供する)というルールの徹底
他者とコミュニケーションを取る力、困難や痛みを想像し共感する力

ん~、特に①が難しい。
「障害の社会モデル」とは、東京大学でも授業で教えている学術用語とのこと。

東京大学大学院 星加良司准教授;
きょうは東大で半年かけてやる授業を1分で話したいと思うので(笑)

 
 

「障害の個人モデル」と「障害の社会モデル」

「障害の社会モデル」の反対に「障害の個人モデル」があるという。
障害者が生活する上でなぜ困るか考えたときに、『目が見えない』『足が動かない』など、体に不具合があるから困る、という考え方だ。
つまり困っている原因がその人個人、その人自身の中にある機能障害にあるという考え方だ。
それはダメでしょう、転換しましょうと考えるのが「障害の社会モデル」
社会の中には、いろいろな違いがある人がいることはみんな知っている。にもかかわらず、我々の社会はなぜか多数派だけの都合で様々なものを設計・デザインしてしまっている。
建物だけでなく、様々なルールや制度・働き方・働く時間などあらゆるものが、多数派の都合や利便性に合わせて社会を作ってしまっている。
この“社会の偏り”があることが原因で、少数派は損をさせられていると考えるのが「障害の社会モデル」という考え方だという。

東京大学大学院 星加良司准教授;
偏りを作ってしまった社会をそのままにしておくのは良くない。
なので、『その偏りをできるところから変えていくムーブメントを起こしていこう』というのが、この『社会モデル』の考え方

パラリンピックが象徴する“価値”が実は危ない!?

国際パラリンピック委員会(IPC)は、パラリンピックを象徴する4つの価値を示している。

勇気…マイナスの感情に向き合い、乗り越えようと思う精神力
強い意志…困難があっても、諦めず限界を突破しようとする力
インスピレーション…人の心を揺さぶり、駆りたてる力
公平(平等)…多様性を認め、創意工夫をすれば、誰もが同じスタートラインに立てることに気づかせる力

星加さんは最初の3つを「結構危ないと思っている」と語る。

東京大学大学院 星加良司准教授;
なぜ危ないかと言うことだが、端的に言って勇気強い意志はパラアスリートの中にある強い意志や勇気ということ。つまり個人の中にある特徴。
それを強調することで、様々な困難を個人の努力で乗り越えることを推奨するメッセージとして、パラリンピックが捉えられてしまいがち。

さらに、パラリンピックはインスピレーション=感動を生み出す優れたコンテンツと言われている。
そのからくりは、機能障害を持つアスリートが困難を乗り越えてパラリンピックで頑張っている姿が、「困難→克服→成功」という定番の感想ストーリーとして受け止められてしまうところがある。
しかし、『体に障害があること自体を困難と捉えること』が個人モデル的な考え方。
つまり、感動の裏側には、「障害の個人モデル」の考え方が潜んでいるという。

東京大学大学院 星加良司准教授;
その考え方では、社会の偏り、そもそも障害者を困らせているのは社会じゃないか、という考え方が育ちにくい

…と、パラリンピックの価値の危うさを説明する。

パラリンピックにあふれる「公平」「平等」のヒント

東京大学大学院 星加良司准教授;
重要なのは、「公平」「平等」という価値をいかに学んで、東京(パラリンピック後)に残していけるか

星加さんは、パラスポーツには様々なヒントがあふれているという。

・様々な特徴や違いがある人たちが、同じ競技に参加するためのルール、決まり事
・ルールが守られているか、第三者が判定するレフェリング

東京大学大学院 星加良司准教授;
違いを乗り越えて、「公平」「平等」に競うための様々な“工夫”を、我々の日常生活、自分自身の学校・企業に置き換えて見る。
そのときに、どんなルールや決まり事を設ければ、公平な環境で障害のある人もない人も参加できるか考え続けていく
そのきっかけとして、パラリンピックを位置づけることで、社会モデルへの転換に少し近づいていく。
これが、私からの問題提起です

 
 

「フルスタジアム=会場満席」の先に目指すモノ

小池知事;
パラリンピックの成功なくして2020大会の成功はない

小池知事がよくスピーチで口にするフレーズだ。
パラリンピックの成功とは何か。
小池知事はこの日、まずはパラリンピックの会場を満席にする「フルスタジアム」を実現させようと呼びかけた。そして

小池知事;
2020年大会は、日本社会の成長と成熟がセットでなければいけない

 
 

…とも語った。

1人1人の個性や違いを認め共存し、社会としてどう成熟していくのか。
パラリンピックから多くのヒントを見つけることができるのではないかと感じた。

(フジテレビ報道局 オリンピック・パラリンピック担当 経済部記者 一之瀬 登)

 
一之瀬登
一之瀬登

FNNソウル支局長。韓国駐在3年目。「めざましテレビ」「とくダネ!」など情報番組を制作。その後、報道局で東京都庁、東京オリンピック・パラリンピック担当キャップ。2021年10月ソウル支局に赴任。辛いものは好きですが食べると「滝汗」です。