2020年11月、福井市内で酒気を帯びた状態で乗用車を運転し、パトカーから逃走する際に軽乗用車に衝突して、乗っていた大学生2人を死傷させた被告の男の裁判。9月21日に判決公判が行われ、福井地方裁判所は危険運転とは認めず、過失運転致死傷罪を適用して被告に懲役5年6カ月を言い渡した。

死亡した女子大生の父親が取材に応じ、「娘の命が軽く扱われた。検察には控訴してほしい」と語った。また、専門家は法律の不備と法改正の必要性を指摘している。

「過失運転致死事案の中でも相当悪質」

危険運転致死傷や酒気帯び運転などの罪に問われていたのは、福井市新田塚1丁目の元会社役員・坂田達磨被告、47歳。

坂田被告は2020年11月27日未明、福井市内で酒気を帯びた状態で乗用車を運転。パトカーの追跡から逃走する際、時速約105kmまで加速し、交差点に進入して軽乗用車と衝突した。

この事故で、軽乗用車の助手席に乗っていた当時18歳の女子大学生が死亡し、運転していた男子大学生が重傷を負った。

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9月21日に開かれた裁判で河村宜信裁判長は、坂田被告の乗用車がパトカーから逃走する際に大きくぶれなかったことから、危険運転と認定するには「合理的な疑いが残る」と指摘。過失運転致死傷罪を認め、懲役5年6カ月を言い渡した。

ただ、河村裁判長は被告の身勝手さや行為の危険性の高さを指摘して、「過失運転致死事案の中でも相当悪質と言わざるを得ない。あなたの運転でどんな結果が生じたか、生涯向き合ってほしい」と諭した。

今回の裁判で検察側は、「進行を制御することが困難な高速度で運転していた」ことを原因に挙げ、危険運転致死傷罪を主張していた。これに対して弁護側は、「被告はパトカーに追跡され頭が真っ白になり、通常の精神状態ではなかった」と過失運転致死傷の適用を主張していた。

なぜ過失運転なのか…遺族が語る胸の内

判決後、亡くなった女子大生の父親が福井市内で取材に応じ、無念さを語った。

死亡した女子大学生の父親:
娘は亡くなった時、18歳で。生きていたら今年、成人式を迎えるはずだった。(娘の)人生を奪っておいて、犯人が5年で出て来ることを福井の人はどう思いますか?これが危険運転ではなく、過失運転になったのが理解しかねる。刑が軽すぎるという思いがあるので、検察には控訴してほしい

遺族にとっては当然、納得のいかない今回の判決だった。

検察側はより罪の重い「危険運転罪」を、弁護側は「過失運転」を主張していた。判断の大きな分かれ目は“高速度の運転により車のコントロールが可能だったか”という点。

河村裁判長は、判決で次のように述べている。

・被告の車は一貫して直進していた
・事故はパトカーから逃走するために、一時停止無視など違反を繰り返して起こした過失行為である

過失運転罪の成立には条件がある「法改正の議論が必要」

今回の判決を専門家はどう見ているのか。危険運転罪の制定の際に国会で意見陳述した、刑事法などが専門の元同志社大学教授の川本哲郎さんは次のように語る。

元同志社大学教授・川本哲郎さん:
裁判官も、非常に悪質で危険な運転だと言って認めている。だが、(危険運転の)条文は“進行を制御することが困難な高速度”という表現があるので、それを解釈していくと過失運転致死傷しか成立しない。一般国民からみると、理解が困難

川本さんは、危険運転罪が成立する条件として、法律に「アルコール」「薬物」「高速度の運転」など詳しい項目を盛り込んでいることが法律の解釈を縛り、消極的な判断に傾きがちだと指摘している。その上で法改正の必要性を強調した。

元同志社大学教授・川本哲郎さん:
被害者からすると、交通犯罪の規定が複雑になっている。悲惨な事件が起きるたびに問題になり、議論が継続することが続いている。今後さらに(法改正などの議論を)促進していくことが求められる

今回の裁判で河村裁判長は、判決の後に「法律的には危険運転ではないとしたが、裁判所があなたの運転を危険でないと言っているわけでない。生涯、事故と向き合ってほしい」と述べた。

この言葉が、今回の法律のジレンマを言い表しているようだ。

(福井テレビ)