1時間あたりのGDPは日本よりフランスが上位

「仕事は収入源。生きるための手段」
「仕事は人生の柱のひとつ。すべてではない」
「フランス人は十分に働いていない。日本人はフランス人と違ってよく働く印象がある」

パリで仕事について聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
フランスでは、労働時間が週35時間と法律で決められていて、基本的には、土日祝日を別として1年間に5週間の休暇が約束されている。

2019年10月初旬のある日、レストランで横のテーブルからバカンスについて話している2人の会話が聞こえてきた。

「クリスマス休暇は、どうするの?」
「23日に、ブルターニュ地方に行って、そのあと〇〇に行って・・・」

私は「まだ10月も始まったばかりなのにもうそこまで綿密な計画を立てているとは。フランスらしいなあ」と心の中でつぶやき、2人を見てしまった。

フランス人はバカンスが大好き

フランス人にとって、もはや仕事の方がバカンスに付随しているようにすら見える。

バカンス前になると、「バカンスはどこに行くの?」という言葉が、挨拶のひとつに含まれると言っても過言ではない。バカンスが生きる喜びであり、その目標のために仕事をするというのがよく見られる構図であり、そうしたフランス人の働き方に対するイメージは、ある程度その通りだと思う。

ただ、「フランス人は働かない」と単純に決めつけてしまうのは、少し違う。
ある男性は、「フランス人は、ずっと働いているわけではないけれども、集中的に仕事をする」と指摘する。確かに、フランス人と働いていた日本人の知人からも、同じような話を聞いたことがある。

普段はゆったりと仕事をするのだが、期限が迫ると急にスピードアップして、結局はつじつまを合わせるのが得意だというのだ。

実際、OECDの調査(2018年)によると、1時間あたりのフランスのGDP=国内総生産が1.4であるのに対し、日本は0.5。効率よく働いている国の順位では、フランスが14位で日本が17位という結果だった。ちなみに、効率よく働いている国の1位はルクセンブルク、そのあとにノルウェー、デンマーク、アイスランドと続く。また、「週35時間労働」がそもそも実態と合っていないと訴える人もいた。健康に関する分野で仕事をしていたという女性は、病院など緊急性が問われる仕事を考慮すると、「35時間という縛りが、逆に仕事を不安定にし、ストレスを生む。35時間にそぐわない職種もあるのに・・・」と不満を漏らしていた。

フランスの人たちが、バカンス好きなのはイメージ通りだが、「フランス人は働かない」というレッテルを貼るのは、慎重にすべきだ。「選択と集中」、そこに休暇など労働者として持てる権利を最大限に主張している、と解釈できる。もちろん、雇用側としては、権利を最大限に主張されて不愉快な思いをすることもあるのだが、フランスにおいて「権利」は絶対的存在なので仕方ないと思うしかない。

では、日本人がよく働いているのかと言うと、確かに、「長い時間」働くことには長けているかもしれない。しかし、その働き方が本当に効率的なのか、なんとなく職場に長くいればよく働いているように見える「アピール」ではないのかと問われると、答えに困る人もいるのではないだろうか。

フランス人が疑問視する日本の「飲み会」文化

「私のプライベートの時間を尊重して下さい」
仕事の続きの話をしたくて、就業時間後(就業終了時刻は、17時30分)にスタッフにメールをしたところ、返ってきた返事だ。なんとインパクトの強い1行の返事だったことか。「大事な話なのに」と思う一方、こういう国だったと改めて思い返した。

フランスと日本の決定的な違いは、仕事とプライベートをはっきり分けるかどうかに代表される。例えば、日本での伝統的な会社文化である「飲み会」の存在は、決定的な違いだ。

最近では、若者を中心に飲み会を嫌う雰囲気も出てきたようだが、それでもこの文化は根強いと感じたことがある。日本に帰国した際、「日本の会社では、いまだにこういうことで評価されるのか!?」と驚くような会話を耳にした。夜遅くの電車内で、男性3人が立っていた。しばらくすると部下と見られる男性1人が先に降りた。部下が降りると、上司と見られる男性2人は、「〇〇君はいいなあ。いつ誘っても付き合ってくれる。彼、いいよなあ」と褒めていた。

夜の食事に付き合うことでその人の評価につながる、あるいは付き合わないと気まずくなる。そうした傾向は、働き方改革が叫ばれる中でも、完全に変わるにはまだ時間がかかりそうだと思う瞬間だった。

日本をよく知るフランス人の男性は、日本の「飲み会」について、「個人的には評価しない。なぜなら、仕事というものは、人生を構成する柱のうちの一つであって、すべてではない。だから、日本の“飲み会”は、プライベートと仕事の境界を消してしまう。私は、反対に仕事とプライベートをはっきりさせるようにしている。日本では、プライベートの枠組みに仕事が入り込みすぎていると思う」と語ってくれた。

また、別の女性は、「フランスでは、仕事とプライベートをはっきり分けるので、仕事が終われば家に帰る。仕事のためのランチはいいと思うけれど、夜な夜な仕事仲間と飲みにいくなんて、私にはできない」と話した。
最も、お酒の力を借りずとも、常にいかなる場面でも自己主張をし、意見が対立してもその場限りであっさりして後に引きずらないフランスの人たちには、飲み会という場所など必要ないのだと思う。

「繋がらない権利」でプライベートを尊重

それでも、スマホなど技術の進歩によって、仕事とプライベートの境界が曖昧になることは避けられないのが現代社会だ。フランスでは、2017年1月改正労働法が施行され、「繋がらない権利=le droit à la déconnexion」が明記された。50人以上の社員をかかえる民間企業に実施が義務付けられるもので、会社の適切な運営が関係している場合を例外として、勤務時間外の仕事の連絡を拒否できるようになった。

運用内容は、労使で協議することになっているため、仕事のメールやサーバーにアクセスできないようにしたり、メールの最後に「休暇中ならば返信義務はありません」という自動メッセージが添えられるようにしたり、企業によって取り組みは様々だ。

しかし、フランスのルモンド紙によると、2017年の法施行以降、大した状況の変化は見られないという。特に、管理職にとっては、就業時間以外にメールなどを見ないわけにいかないのが現実のようだ。フランスの大手派遣会社が2019年に実施したアンケートによると、フランス人も仕事とプライベートを切り離すことに苦戦しているようだ。

― 休日に仕事から抜け出せない・・・67%
― 休日にスマホやソーシャルネットワーク、メールから完全に抜け出せない・・・67%
― 仕事とつながってしまう原因はスマホだ・・・93%

スマホと“繋がらない”でいるのはなかな難しい・・・・のはフランスも同じ

仕事分野でのフランス人に対する勝手なイメージからすると、「休日に仕事から抜け出せない」と答えた人が7割近くにも上るのが、率直に言って意外だった。

また、休日に仕事から抜け出せない理由としては、「職を失う恐怖」と答えた人が最も多かった。フランスの人たちは、仕事とプライベートの境界線をはっきり引く傾向が強く、いまだに理想はそのままではある。従って、「繋がらない権利」に対しては、「良いことだ」と賛成の声がほとんどである一方で、スマホが社会に浸透するようになって仕事と完全に断絶できるとは言えない状況だ。

「夜うち朝がけ」はなし “情”に訴えないフランスの記者

フランスの記者たちは、どのように働いているのか、同じ記者として気になった。フランスには、日本人の記者が日課とするいわゆる「夜うち朝がけ」は存在しない。取材相手に直接会いに行っても、メールで質問をしても、聞けることは同じである。

「長く待っていたから特別にお話しよう」とか、「わざわざ会いに来たから特別に少しだけ・・・」などという「日本的な」心の動きは、フランスでは良くも悪くもほとんど期待できないからである。他の記者が取材に来ないような大雨や雪の日に外で待ち続ける、というような、日本的で少しでも「情」に訴えられそうな行動は無意味だ。「ご挨拶に・・」と、名刺を配り歩く文化もない。

では、他社よりよい取材をするために、フランスの記者たちはどうしているのだろうか。

フランスは、日本よりも明らかな学歴社会である。大学とは別に、限られた人々のみ入ることができる高等教育機関がある。ここには、将来の高級官僚や政治家、弁護士の卵たちが集まっている。多くのジャーナリストもこうした教育機関の出身で、学生時代からすでにコネクション作りが始まっているのが現実だ。日本でも、同じ大学の先輩後輩、というつながりがなくはないが、基本的には自分が担当になった場所でゼロから関係を作りあげることに苦心しなければいけない。そのための「夜うち朝がけ」、そして会食の毎日。

一方、フランスでは、選ばれた人たちのコネクション体系が学生時代からできていて、その中で取材源を獲得するということだ。
35時間労働が厳しく義務づけられるフランス社会でも、こういう事情があれば無理なく取材ができるのかもしれない。

フランスには、「過労死」を意味する単語がない。フランスでは見られない現象として、そもそもその現象を示す言葉すら存在しないということだ。

このためニュースなどでは、“le karoshi”(過労死)というように日本語がそのまま使われ、そこに«mort par excès de travail »=「過剰な仕事による死」と説明書きがなされるのが通常だ。もちろん、そうした現象がフランスではほとんど見られないわけだから、le karoshiという言葉をインターネット上で検索すると、日本についての記事ばかり出てくる。

法律による労働時間の厳しい義務づけと、個人の意識による選択と集中、そして仕事とプライベートの明確なすみ分けというフランス人の働き方。一方、法律による義務づけが浸透し始めたばかりの日本社会。個人の意識改革がどこまで波及するか注目したい。

【執筆:FNNパリ支局長 石井梨奈恵】

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