道路に花壇が突如出現
目の錯覚を利用して、私たちを楽しませてくれるだまし絵。
観る角度で印象が変わる作品もあり、大人も夢中にさせる不思議な魅力がある。
このだまし絵を、大阪・豊中市が迷惑行為の解消に役立てようとしているのをご存じだろうか。
その試みが行われているのは、豊中市新千里東町の一角。この周辺は歩行者用の区域であるにもかかわらず、自転車の迷惑駐輪が相次いでいたという。
この場所に1月23日から張られたのが、約120cm×約160cmのシート。遠目から観ると何もないように見えるが、正面から近づくと...チューリップの花壇が出現!?
そう、平面が立体に見える錯覚を利用して、本物の花壇がそこにあるかのような印象を持たせているだまし絵なのだ。
そしてこのアイデア、なんと小学2年生が考案したというから驚きだ。
豊中市は実証実験として、同様のシートを計5枚張り、23日から3カ月間の効果を観察するという。
なぜ、迷惑駐輪をだまし絵で防ごうと考えたのだろうか。豊中市に伺った。
70台以上の迷惑駐輪が常態化
――なぜ、だまし絵を設置する試みを始めた?
豊中市でも迷惑駐輪は問題となっていて、それをなくそう、防ごうと始めました。今回の設置場所を選んだのは、歩行者用の空間であるにもかかわらず駐輪が常態化していたためです。
――迷惑駐輪はどんな状態?今回の設置場所ではどう?
約50平方メートル(2.5m×25m)が駐輪場代わりに使われていますね。以前台数を数えたときは、76台も止められていました。ビルとビルの間の通行地帯なので、住民からは「遠回りしないと行き来できない」といった意見も寄せられています。
――なぜそこに止める?近くに駐輪場はないの?
通勤時の置き場所、近隣店舗での買い物などで止めることが多いですね。駐輪場自体は近くにあるのですが、有料なのでこちらに止めるようです。市側も自転車に警告のチラシを貼り付けたり、定期的な撤去もしているのですが、それでも減らないので苦慮してきました。
アイデアの発案者は小学2年生
――だまし絵を選んだ理由は?
2019年夏、豊中市・大阪大学・イオンSENRITO専門館などが開催した「シカケコンテスト」がきっかけです。大阪大学では、人が行動したくなる心理やきっかけを“仕掛学”として研究していて、シカケコンテストではこの仕掛学で、迷惑行為をなくせるアイデアを募集しました。
そうしたところ、市内の小学2年生・本多優人くんから「人はきれいなものを見ていたいし汚したくないので、きれいな花壇の絵を作れば駐輪をしなくなると思った」という応募があり、実現性と効果の両面で可能性があるとみて、実際に設置してみることになりました。
――シートの制作過程は?工夫したところはある?
本多くんのアイデアを基に外部発注したので、回答できる範囲は限られます。
ただ、工夫したところは多数あります。例えば、人々の興味を引くように、シートには豊中市と大阪大学のマスコットが隠れています。シートごとに隠れている場所も違います。
また、土台の背景は四角形にして、花壇は若干ゆがませています。こうすると遠近感の錯覚で立体に見えやすくなるそうです。花壇に影を付けたりもしていますね。身長160cmの人が見たとき、一番立体的に見えやすいような作りにしています。
感覚的には迷惑駐輪が減っている
――実証実験では、何をどのように調べる?
シートの設置前と設置後で、迷惑駐輪の台数を比較します。週3回程度調べてその効果を確認するつもりです。曜日や天気も影響するため、現段階で影響を判断することはできませんが、感覚的には減っていると感じています。1月29日だと、約10台でした。
――今後の予定は?継続して行われる?
未定です。住民からは「よい取り組みです」といった反応をいただいていますが、予算の問題などもあるので、これからの予定はまだ分かりません。
実証実験はまだ始まったばかりだが、担当者の話を聞くと効果も期待できそうだ。
アイデアを考案した、本多優人くんにもお話を聞いてみた。
「本物の花だと世話が大変だと思った」
――なぜ「きれいな花壇を作る」というアイデアを思いついた?
前から街のあちこちに自転車が置かれていて、邪魔だなと思っていました。
きれいな花や可愛い動物の上に自転車を置く人はいないので、もしもそんな絵があれば汚したくなくて、駐輪もなくなるんじゃないかと思って応募しました。
――本物の花壇ではなく、絵にしようと思った理由は?
本物の花だと、花壇の世話などをするのが大変だと思ったからです。
――だまし絵は見た?どう思った?
見ました。近づくと立体に見えて、花壇が浮かんでいるようですごかったです。
――実証実験が行われているけど、思うことははある?
自転車の迷惑駐輪は邪魔だと思う人が多いので、なくなってほしいです。
子供の発想力には驚かされるが、本多くんのアイデアもまた斬新なものだった。
きれいなものは汚したくないはずという、人々の良心に訴えかける今回の試み。果たしてどんな結果が出るのか。願わくば、迷惑駐輪が減ってほしいものだ。
(画像提供:豊中市)