よみがえる米「非核戦略ミサイル構想」

11月30日からアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれる「G20=金融世界経済に関する首脳会合」の機会を使って、INF条約からの米国離脱など、世界の軍事秩序に直結する課題を念頭に、米露が首脳会談を開くと言われている。

そんな中、11月21日に米海軍協会(USNI)ニュースは「米海軍が、水上艦からでも潜水艦からでも発射可能な、全地球即時打撃兵器(PGS)を開発へ」と報じた。

この記事の画像(9枚)

しかも、「戦略システム・プログラム(SSP)」局内に担当部局を設置するというのである。これが正しければ、先行するロシアを追って、米国も「極超音速戦略兵器」の開発に、再び足を踏み入れることになるだろう。

極超音速とは、マッハ5.0以上の速度を意味する。“再び”というのは、アメリカはオバマ政権の時に開発をすすめようとしていたからだ。オバマ大統領(当時)は2009年に「究極の核廃絶」をプラハ演説で訴え、ノーベル平和賞も受賞したが、同時に、核ではない戦略兵器開発をすすめていた。

それは、「CPGS=全地球即時打撃通常兵器構想」というもので、核を使わずに、全世界のどこでも1時間以内に、極超音速の弾頭を標的にぶつける。

ミサイルのロケットブースター部分から切り離された弾頭は、大陸間弾道ミサイルの様な放物線軌道を描かず、小型の噴射装置を使って、向きや方向を調整しつつ、地球の外周に沿う形で、空気があるかないかのところを、マッハ20前後の速度で滑空して標的に近づき、ダイブして標的の上に体当たりする。

ラフな言い方をすれば「弾頭はその運動エネルギーで標的を破壊する」というものだった。オバマ政権は、戦略兵器を“非核化”するために、極超音速ミサイルを開発しようとしていた。

2011年には実際に、CPGS構想に沿う形で、極超音速飛翔体HTV-2の発射試験も行われ、極超音速滑空体がロケットから切り離されたことは確認されたものの、その後、極超音速滑空体が行方不明になり、試験は失敗と判定された。

ロシアは戦略核ミサイルを「極超音速化」

一方でロシアは、米弾道ミサイル防衛網を突破するために、極超音速滑空弾頭の研究・開発を行い、現在、生産配備を進めている新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)RS-26及びRS-28では、極超音速滑空核弾頭も使用可能と言われている。

RS-28サルマート

この極超音速滑空体は、オバマ政権が目指したマッハ20前後というものではなく、もっと速度は低いものの、マッハ5以上という極超音速で滑空する。これを核弾頭に使用すれば、最終段階で従来の弾道ミサイルのように放物線を描くのではなく、標的まで数100マイルのところにくるとダイブし、急激に降下して、弾道ミサイル防衛をかわすことが出来る、というわけだ。米オバマ政権のような、戦略兵器を非核化するためではない。

露は従来の軍備管理・軍縮条約に当てはまらない兵器を開発

2018年2月、米露共に新START条約で決めていた、「戦略核兵器の削減目標」を達成したので、戦略核兵器の今後も大きな課題として残されている。

ロシアのプーチン大統領は3月1日に、MiG-31型超音速機に搭載する極超音速ミサイル・キンジャールや原子力無人潜水艇に核爆弾を積む兵器、それに原子力巡航ミサイルなど、これまでの軍備管理・軍縮条約には当てはまらない新兵器を開発し、これらの映像を公開している。

MiG-31から発射されるキンジャール

こうなると、従来の米露の核軍備管理・核軍縮交渉で定義されてきた戦略核兵器のトライアド(大陸間弾道ミサイル・戦略ミサイル原潜・戦略爆撃機とその搭載兵器)を見直なくてもよいのか。見直すなら、どんな兵器を交渉対象にするのか。そもそも“戦略兵器とは何か”も新たに定義しなおす必要があるのかもしれない。

中国は極超音速飛翔体の飛行試験に成功

中国もまた、極超音速兵器の開発に踏み出している。2018年8月に、極超音速飛翔体「星空二号」の試験を実施し、高度30km・マッハ5.5~6の極超音速で約400秒飛行することに成功。この他に「WU-14(DF-ZF)」の名前で知られる極超音速飛翔体計画があるとされる。

中国「星空二号」

米オバマ政権のように、中国が非核化のために、極超音速兵器の開発をすすめるのか。それともロシアのように、核弾頭を米弾道ミサイル防衛からかわすために、すすめようとしているのかは不明だ。

USNIの記事が正しければ、米海軍が開発する「極超音速滑空体」は、海軍以外でも開発される「CPGS=全地球即時打撃通常兵器構想」に沿った兵器で使用されることになり、米海軍は、極超音速滑空体を水上艦や潜水艦から打ち上げる、ロケットブースターも開発することになる。

オハイオ級潜水艦「ミシガン」@横須賀(撮影:ナカムラさん)

そして、戦略システム・プログラム(SSP)局は既にCPGS構想に沿い、ハワイの地上発射試験場で、オハイオ級巡航ミサイル原潜の垂直発射装置から発射できるように開発される兵器を発射したとしている。つまり、米海軍が新たに開発するのは、やはり非核の「戦略的」兵器ということになるのだろう。

もちろん米海軍が、完全に核兵器開発をやめるということではない。低出力核兵器の開発というのも、USNIは指摘している。

極超音速兵器を迎撃する「グライド・ブレーカー」

さらに興味深いのは、アメリカが極超音速ミサイルを迎撃するための「グライド・ブレーカー」という構想も進めようとしていること。
どのように迎撃するシステムなのか、見当もつかないが、ロシアが現実にICBMに極超音速滑空弾頭を搭載し、中国も極超音速ミサイル兵器を開発しようとしているなら、米国にとっては当然のことかもしれない。

日本の安全保障にとっての極超音速兵器

日本を射程にするミサイル兵器が今後、極超音速化するかどうかは、日本の安全保障という観点からも無視できないことだが、今後の米露交渉または、米・中・露の3カ国が、極超音速兵器や戦略兵器、INF条約で規定されてきた射程の兵器の開発・生産・配備に、何らかの規制を相互に掛けることが可能となるかどうかも、要注意事項だろう。
世界規模での抑止、安全保障の秩序が揺らぐことに繋がりかねないからだ。

このような観点から、30日のG20で戦略兵器とINF条約について米露は、どのような姿勢・方向性を打ち出すのか。
それとも、方向性すら先送りになるのか。日本の防衛省もまた、2019年度概算要求で、極超音速誘導弾の研究・開発を盛り込んでいるが、もちろん、戦略的な兵器レベルでなく、島嶼防衛用だ。

しかし、日本の防衛の当面の基礎となる防衛計画の大綱の策定を来月12月に控え、各国の動向に無関心ではいられないことではある。


【動画】「能勢伸之の週刊安全保障」(11月24日配信)

【関連記事】「能勢伸之の安全保障」をまとめて読む