中国・武漢市で発生した、新型コロナウイルスによる肺炎の感染が世界中に広まっている。

日本国内では武漢の渡航歴がない人の感染も確認され、厚生労働省はヒトからヒトへの感染が認められたという見解を示し、気が気でない人もいるのではないだろうか。

こうした中、心配されるのが妊婦への影響だ。
平常時には重篤とならない風邪などの病気でも、妊娠中にかかると胎児の健康に影響する可能性が出てくる。新型コロナウイルスの詳細が解明されていない状況を考えると、感染は絶対に避けたいはずだ。

妊婦や妊娠を希望する人への注意喚起を公開

一般社団法人の「日本産婦人科感染症学会」は2月1日、妊娠中や妊娠を希望する人に向けて、新型コロナウイルスに関する注意喚起をウェブサイトで公開した。


日本産婦人科感染症学会のウェブサイトより
日本産婦人科感染症学会のウェブサイトより
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その内容を見てみると、まず新型コロナウイルスについて説明した上で、妊産婦、妊娠を希望する人へのアドバイスとして、

「新型コロナウイルスでは感染者数の最も多い中国湖北省でも、現時点で妊婦における重症化や胎児障害の報告はありません。しかし、⼀般的に、妊婦さんの肺炎は横隔膜が持ち上がり、うっ⾎しやすいことから重症化する可能性があります。妊婦さんは特に⼈混みを避ける、マスクをかける、こまめに⼿洗いするなどの注意が必要です。」

と、現時点で妊婦の新型コロナウイルスによる重症化の報告はないが、一般的な肺炎の症状には注意が必要としている。
妊娠周期にもよるが、妊娠中の母体は胎児の成長とともに子宮が大きくなり、臓器全体が上部に押し上げられる。この影響で肺呼吸に関わる横隔膜も持ち上がるため、肺炎にかかるとより呼吸が苦しくなり、肺もうっ血しやすくなるという。


妊婦は呼吸がより苦しくなりやすいという(画像はイメージ)
妊婦は呼吸がより苦しくなりやすいという(画像はイメージ)

新型コロナウイルスにはアルコールなどの消毒薬が有効

さらに、⾝近にできる予防法として

「外出後や⾷事前などこまめに流⽔と⽯鹸で⼿洗いをしてください。このウイルスにはアルコールなどの消毒薬(アルコールスプレーやアルコールジェルなど)が有効です。発熱や咳などの症状がある⼈との不必要な接触は避けましょう。」

基本的だが手洗いは大切(画像はイメージ)
基本的だが手洗いは大切(画像はイメージ)

また、マスクの着用については、⼿指を不⽤意に⼝や⿐にもっていかないという効果はあるが、空気中のウイルス粒⼦は花粉や細菌に⽐べてはるかに⼩さく、またマスクの周辺から⼊り込むことがあるので過信は禁物で、マスクをかけていても⿐を出したり、⼝のまわりを開けたりすると効果がないとしている。

むやみな行動は感染拡大につながるので、まずは落ち着いて連絡を(画像はイメージ)
むやみな行動は感染拡大につながるので、まずは落ち着いて連絡を(画像はイメージ)

そして、2020 年1⽉31⽇の時点では、⽇本国内で⼤規模な⼆次感染、三次感染は発⽣しておらず、本⼈や家族が中国から帰国(来⽇)した、あるいは⾝近に確定診断された患者さんがいるという場合以外は、新型コロナウイルス感染の可能性は低いと思われるとした上で、心配な場合は

「インフルエンザのようにその場では結果が出ず、また感染症診療に対応できない病院・医院も
ありますので、来院前に受診先と保健所に電話でご相談ください。」と対応をアドバイスしている。

このほか、厚生労働省が公開している「新型コロナウイルスに関するQ&A」など、公的機関の信頼できる情報をもとに行動するように呼びかけてもいる。
(関連記事:【新型コロナウイルス】 疑問に答えるQ&A…厚労省や首相官邸が公開中

なぜ、このような注意喚起を行ったのか。日本産婦人科感染症学会の担当者に伺った。

妊婦からは心配の声が相次いでいた

――なぜ、新型コロナウイルスについて注意喚起を行った?

産婦人科でも、多くの患者さんが新型コロナウイルスのことを心配する声が聞かれます。
私たち産婦人科医、特に感染症を専門とする者が、率先して正しい情報を提供する社会的責任があると考え、公開させていただきました。


――妊婦や妊娠を希望する人はどんな様子?

妊婦健診に来る人の半数以上がマスクをしている状態です。そして、「これで大丈夫ですか」「旅行に行けるのですか」とか、「通勤や買い物でうつることはないのでしょうか」「有効な薬やサプリはありませんか」ということをよく聞かれます。


――妊婦が特に注意すべきことはある?

免疫機能全てが低下するわけではありませんが、妊娠中はウイルスへの抵抗力が弱くなります。そのため症状が重症化しやすかったり、母体が炎症することで胎児の体調が悪くなることも考えられます。不要な外出は控え、マスクの正しい着用や手洗いを徹底してください。現時点ではワクチンや薬がなく、サプリメントなどの有効性もないので注意が必要です。


感染症に特化した医療機関を受診しよう

――感染が心配なときは、どうすればよい?

無症状の場合は、ご自身や家族が中国から最近帰国したとか、中国の来客が多い施設や医療機関に勤務しているのでなければ、それほど心配することはないと思います。ただ、発熱、せきといった風邪や気管支炎の症状があれば、病院の受診をお勧めします。

特に心配なときは、感染症に特化した医療機関を受診してください。保健所で教えてくれます。もしも受診するときは、必ずマスクを着用するようにください。


――妊婦や妊娠を希望する人に、呼びかけたいことはある?

現時点では国内の患者も少なく、大規模な二次感染三次感染は起きていません。患者の多い中国でも特に妊婦が重症化したとか、胎児に異常があったいう報告はありません。ただ状況は日々変わるので、今後の成り行きに注意してください。SNSなどのネット上では、不正確な情報が拡散していることもあるので、正しい情報をもとに行動してください。


日本産婦人科感染症学会の注意喚起の一端(提供:日本産婦人科感染症学会)
日本産婦人科感染症学会の注意喚起の一端(提供:日本産婦人科感染症学会)

日本産婦人科感染症学会は、「現時点では過剰な⼼配は不要です」としているが、様々な情報が飛び交う中、やはり「正しく怖がる」ことが大事なようだ。

(日本産婦人科感染症学会のホームページはこちら

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プライムオンライン編集部
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