「終活」という言葉は最近広まりつつあり、準備を始めている人も多いだろう。

では、「住活」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

この「住活」の必要性を訴えるのは、約2300件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた司法書士の太田垣章子さん。賃貸トラブル解決のパイオニア的存在で、『老後に住める家がない! 明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書)の著者でもある。

70歳を超えると家を借りにくい現実を踏まえ、超高齢化社会に突入した日本で、今後重要になってくるのは「住活」だとしている。

ライフプランの見直しを!

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まず、「住活」とは、自分のライフプランに合った“終の棲家”を得ることで、60代以降の自分の収入を確認して、最期まで家賃を払っていくことのできる住居を決めること。

今後は、長期のローンを組むことを怖がり、持ち家を選ぶ人よりもライフプランに合わせて家を変えられるというメリットが大きいことから賃貸が主流になっていくだろうと、太田垣さんはいう。もちろん、持ち家だからと言って安心できるわけではない。

また賃貸物件に住む高齢者には、自身よりも建物の寿命の方が先に来てしまい、高齢になって家を借りにくくなる中で、改めて物件探しを迫られてしまうという現状もある。

だからこそ、ポイントとなるのは「お金」と「ライフプランの見直し」であり、太田垣さんは60代での「住活」を推奨している。

「具体的には60代で自分の収入を確認し、80~90歳まで生きると仮定して、年金と合わせて毎月使えるお金を計算して、自分たちがどんな生活をしたいのか、どんな生活ができるのか考えてみてください。70~80代は体が元気であっても、行動を起こすのは難しいです」

また、自分の子どもに頼るのではなく、ご近所とのつながりを作っておくことも重要になる。ご近所も含めて自分でコミュニティを築き上げることで、「最近、見かけないね」と会話が生まれて気にしてもらったり、サポートしてもらったり、部屋で亡くなっていたとしてもすぐに発見してもらえる。こうした関係はすぐに築くことができないため、今から少しずつ関係を築いていくことが、自分のこれからにつながっていくのだ。

強烈に印象に残っている事例

高齢者の賃貸トラブルでは、孤独死の現場や理不尽な状況に追い込まれることも多く、著書の中にはさまざまな事例と共に、太田垣さんが奮闘する姿が綴られている。

中でも特に印象に残っているのは、大阪の中心部にあった築60年以上の建物での出来事。家主は相続で引き継ぎ、「今にも崩れ落ちそうだから、建物を取り壊したい」と、太田垣さんのもとを訪れた。

昭和の名残を漂わせるこの建物はかなり古く、他の入居者は退去していたが、唯一残っていたのが83歳の男性。しかも、70代後半から目の病気を患い、あまり見えていない。

男性はこの部屋で社会人生活をスタートさせ、生涯独身で定年まで勤め、退職金ももらっていた。しかし3年ほど前から5万円の家賃を払っておらず、気づけば滞納額は200万円まで膨れ上がっていた。最終的に裁判で明け渡しの判決はもらえたが、高齢なため強制執行をしてもらえない。

そこで、男性と話し合いをするためにたびたび、男性のもとへ訪れるも話ができず、解決まで難航する。

司法書士・太田垣章子さん

「私たちがお弁当を渡したり、コミュニケーションを取ろうと、通い続けましたね。(退去後に住む)施設探しに奔走しました。最終的には、身内の承諾がなくても健康診断もいらない施設が見つかり、救急車や施設の関係者も来て、連れ出したんですけど、関係者はみんな泣いていましたね。1年かかった案件ということもあり、情も移っていたので。今も強烈に印象に残っています」

壮絶な現場に遭遇することもあり、決して楽な仕事ではないが、太田垣さんは何を支えにしているのだろうか。

「私は、その人の“幸せ”を基準に行動しています。建て替え交渉をしなければならないときに、『この人が生きている間は、この建物は大丈夫』と考えられなければ、どこかで退去せざるを得ない日も来てしまう。それならば一生懸命寄り添って次の転居先を探し、気持ち良く退去してもらう方がその人の幸せ。 “互譲の精神”でないですけど、そういった気持ちは大切にしています」

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『老後に住める家がない!明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書)

太田垣章子
章司法書士事務所代表。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2300件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた家賃トラブル解決のパイオニア的存在。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)などがある。

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