アオバジャパン・インターナショナルスクールを訪問

公立か私立だけでなく、最近では小中一貫校が設立されるなど、子どもを小学校に入学させる段階で選択肢は格段に増えてきた。さらには今後のグローバル社会を見据え、国際人に育てたいとインターナショナルスクールに通わせたいと考える親もいるかもしれない。

しかし親自身がインターナショナルスクール出身でないと、「英語で授業をやっているほかは、普通の学校と何が違うの?」と、学校の様子がイメージできない人も多いことだろう。

そこで今回は、1976年に幼稚園として設立され、現在では幼小中高一貫の15学年あるアオバジャパン・インターナショナルスクール(A-JIS)の光が丘キャンパス(東京)を訪問した。

日本のほか、アメリカやヨーロッパなど約40か国からの生徒が在籍

同校は、国際バカロレア(IB:International Baccalaureate)の「初等教育プログラム(PYP)」「中等教育プログラム (MYP)」「ディプロマプログラム(DP)」の認定を受けたIBワールドスクール。

文部科学省I B教育推進コンソーシアムのHPでは、国際バカロレアについて「国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム。国際バカロレア (IB)は1968年、チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる生徒を育成し、生徒に対し、未来へ責任ある行動をとるための態度とスキルを身に付けさせるとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与え、大学進学へのルートを確保することを目的として設置されました」と説明している。

なお、A-JISに通う生徒は15学年全体で約55%が日本人(もしくは日本と外国籍の両親を持つ)で、その他は、アメリカやヨーロッパ諸国、インド、韓国、サウジアラビアなど約40か国からの生徒が通っている。1学年は3クラスで、1クラスには約20人の生徒が在籍する。日本語の授業以外は、すべて英語で行われている。

今回は、特に初等教育において、実際どのような授業を行い、どのような子どもの育成を目指しているのか? 同校入学課ディレクターの木村愛さんに話を聞いた。

先生が一方的に教えるという授業はない

木村愛さん(画像提供:A-JIS)
木村愛さん(画像提供:A-JIS)
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ーー初等教育では、具体的にどのようなカリキュラムで進んでいくのか?

A-JISでは国際バカロレアのPYPを採用しています。対象は幼稚園の年少から小学5年生までの8学年で、このカリキュラムを通して様々なことを自主的に学び、知識を得て、生徒の考え方や思考プロセスを伸ばして自立した学習者に育てることを目指しています。

具体的には「何のために学ぶ=学習テーマを理解し、課題に向けて、どのような知識を既に持っていて、自分たちはどのような知識を見つけたいのか?」を考えることから始まり、その知識は「誰に聞けば?どこで探せば?どのようにリサーチすれば答えが出てくるのか?」ということを考えながら探究学習を進めていきます。そのため、先生から生徒へ「今日はこの勉強をします。○○を教えました」というような一方通行な授業はありません。


ーーということは、理科や算数を教えるという授業はない?

はい、理科や算数だけを学ぶという授業はありません。PYPカリキュラムでは1年間に「自主自立」や「共存共生」など6つの大きなテーマを学んでいきます。そのテーマの中で、さらに1つのユニット(課題)を6週間に渡って取り組むのですが、そのユニットの中に理科や社会、算数、国語などのトピックが教科横断的に含まれているイメージですね。

例えば、「共存共生」では、「水」というユニットがあります。「水は生命において欠かせないものであるけども限りある資源でもある」というタイトルの下、生徒は水に関することをいろいろ調べてまとめていきます。

このユニットでは、まず生徒は自宅の水道使用量や、1日に洗濯する回数、食洗機の使用有無、シャワー派か湯船派か、トイレの水は1回で何リットル流れるのかなど身近な情報を調べて学びます。

図書室での授業風景(画像:A-JIS公式Youtubeチャンネルより)
図書室での授業風景(画像:A-JIS公式Youtubeチャンネルより)

そして「東京に住む小学生のいる一般的な家庭ではシャワーで1番水が使われる」などというふうにデータをまとめ、それを分析します。さらには、アフリカ諸国など水を気軽に使える環境にいない人々は、どれくらいの距離を歩いて水を入手しているのかなどを知りたいと考えた場合は、インターネットや本、またはビデオで社会的かつ国際的な視野をもって調べ、可能な場合には現地の子どもたちに連絡して情報を集めたりします。

そのほか、「水はどこからきてどのように濾過され、私たちの台所やトイレに届けられるのか、その水が汚染された場合、人間、動物、植物、地球にどのような影響があるのか」という水の流れなどを理科的視点ももって生徒自らがリサーチするのです。

最後には課題として、「汚染を少しでも減らし、みんなが平等に水を使えるために、私たち地球人として課せられている責任は何か?」を考え、資料をまとめて自分の最終的な意見をプレゼンするところまでが1つのユニットとなります。

ーー確かに、1つのユニットにたくさんの科目の要素が含まれている

はい。「1回にトイレで流す水量を調べ、1日5回流すということならばその合計は?」と計算したり、クラスの全家庭の水の使用量を用途別にグラフにして、そのグラフをもとに分析するのも算数です。

他国と比較して、日本はどれだけ恵まれているのか、他国の子どもが使える水分量は一緒なのか、違うのか、などの情報を収集するのは社会科分野であり、汚染問題について探究するのは理科という風に1つのユニットの中でいろいろな科目の視点から見て、触れながら学年に応じた知識の深さで学んでいきます。

もちろん1年生と5年生で学習内容は異なりますが、アプローチとしてはどの学年も同じです。またこれらを学ぶ中で、先生がホワイトボードに書いて何かを教えるということはあまりありません。授業はディスカッションをベースにしながら、先生がファシリテーターとなって生徒たちの分からないことや必要な情報の取り方などを一緒に探しながら授業を進めていきます。

ユニットでまとめた内容は廊下に張り出している
ユニットでまとめた内容は廊下に張り出している

ーー他にはどんなユニットがあるの?

そのほかのユニットでは、例えば1年生では「時間」があります。「時間」といっても時計の読み方だけではなく、「数字ってそもそもどういう概念?」「数字が時計の形になったときにはどういう意味を持つの?」「1分はどれくらい?」など「時間」に対して深い探究学習をします。

そして自分たちが生活していく中で、「何時から何時までは寝る時間」「何時から何時までは学校にいる時間」というような形で、時の間(ときのま)という意味で時間の概念を学び、「時間」を用いてどう上手く生活できるかなどを勉強します。

ですので、一般的な学校のように、学んだ内容の習熟度をはかるテストや暗記テストはありませんし、決まった教科書もありません。学習の必要に応じた最新の資料を教材とし、授業が進められていきます。

幼稚園からiPad、4年生からはMacBookを授業で使用

ーー2020年度から日本の小学校では新たにプログラミング教育が必修化される。5年前にA-JISで始まった「Edu-Tech」は同じような授業なのか?

いえ、「Edu-Tech」はテクノロジーの授業という意味ではありません。「Edu-Tech」とは教育ツールであり言語の一環という認識です。コーディングなど現在は1つの言葉として扱われている中で、A-JISでは幼稚園からiPadを使い、1年生からは各々のご家庭に用意してもらうiPadを自分の責任で管理させ、宿題も家でiPadを使っています。

そして4年生からは全員MacBookを用意してもらい、自分で管理して毎日充電が100%された状態で持参するように指導しています。初等教育課程から宿題や課題もGoogleDocsで内容を友達と共有したりしながら、生徒自身がプレゼンの準備をしています。

特にA-JISでは教科書を使わないので、「Edu-Tech」ツールが教材であり、ノートであり、コミュニケーションツールであると言えます。


ーープログラミングを教える授業があるわけではない?

現在はプログラミングだけを学ぶテクノロジーの科目はありません。ただし、春休み、夏休み、秋休み、冬休み中などにキャンプを実施しており、そこでコーディングやプログラミングの授業も提供しています。

1人1台ずつノートパソコンを授業で使う(画像:A-JIS公式Youtubeチャンネルより)
1人1台ずつノートパソコンを授業で使う(画像:A-JIS公式Youtubeチャンネルより)

「なぜ勉強しているのか?」という視点から考えさせることを重視

ーー初等教育において重視していることは何?

暗記を重視するのではなく、「なぜ自分は勉強しているのか?」「なぜこの情報が必要なのか?」という視点から学び、考えさせることです。冒頭にも述べましたように、様々なことを自主的に学び、知識を得て、生徒の考え方や思考プロセスを伸ばして自立した学習者に育てることを目指しています。

さらに、判断力の向上にもつながってほしいと考えています。例えば、子ども同士のケンカがあったとします。このような場合、一般的な日本の学校ですと、まず保護者に連絡し、とりあえず謝り、謝ってもらい、生徒同士も互いに謝らせて終わりということが多いように思いますが、そこから生徒本人たちは何を学ぶのでしょうか、と疑問に感じます。

ーーでは、A-JISではどんな対応を取るの?

A-JISですと、問題を起こした当本人たちに罰を与えるのではなく、まずは「振り返り」をさせます。「なんでこうなったのか?」「その言葉を言ったことで、相手、友達はどう思ったのか?」「もし同じ場面になったらどのような行動を取りたいか?」などと、振り返させるのです。

時間は掛かるのですが、このような人間教育をする事によって、テストで高得点を取ることを重視するのではなく、社会に出てから必要となるスキルの重要性を理解し、身に付け、結果として、子どもたちはケンカから「やってしまった。怒られる」という考えで終わるのではなく、「やってしまった。では、次はどのようにして仲良くできるか考えてから行動しよう」と考えるようになるのです。

こうした身近で小さな出来事や体験に対しても、日常的に考えをもって行動することで、子供たちは自身の人間力を育み、未来を自ら切り開いていける力が育っていくのだと思います。

教室内のホワイトボード
教室内のホワイトボード

生徒にもっと自身のアイデンティティーに自覚を持って育ってほしい

ーー最後に、これからもどのような子どもを輩出していきたい?

A-JISには、日本に長期でいる外国人や、国際人に興味がある日本人がたくさん在籍します。そのような中で、私たちは生徒を“外国人”にしたいと思っているわけではなく、国際学校で学ぶからこそ、生徒にもっと自身のアイデンティティーに自覚を持って育ってほしいと考えています。

いろんな情報がある中で、例えば、A-JISの生徒として日本を勉強した時に、日本に対する正しい認識をしてほしいのです。そうすれば、例えば日本について考えを巡らせた時に「日本人は優しいし、日本では失くした物は返ってくるという良い面があるけれど、環境問題に対しての意識が低く、プラスチックを減らす対策を強化したらもっといい国になるのではないか」などの意見が出てくるはずです。

客観的な視点で日本や世界を理解し、そのうえで「これからの日本社会ならびに国際社会で活躍していくのは、僕たち、私たちだ」と考えるような生徒の育成を目指しています。

日本のパワーとなる若い世代を少しでもよくするために、文科省、そして他の学校と一緒に、私たちも社会に貢献できる大人を育てていきたいですね。

教室内の様子
教室内の様子

インターナショナルスクールの初等教育は授業のスタイルも違うことがわかった。
同校によると、インターナショナルスクールへの関心は年々高まっており、受験者も増えているという。また同校の卒業生は、日本と海外の大学に半々の割合で進学している。

まずは子どもをどのように育てたいか親が考えることが重要だが、今の時代は小学校の段階から選択肢はたくさんあり、これからの時代に必要な力も変化してきている。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。