日本初の月面探査用ローバー「YAOKI」
2つの車輪で砂の上を走る、小さなリモコンカー。
まるでおもちゃのようにも見えるが、2021年の夏、月の上を駆けめぐることになった日本初の月面ローバーという。

それを実現したのは、ものづくりに懸ける日本人エンジニアの突破力だった。

元自動車エンジニアでベンチャー企業を経営する、中島紳一郎社長。
1人でコツコツと作っているのは、月面探査用のローバー「YAOKI」。
ダイモン・中島社長:
基本的な構成や設計は完成できた。
月面でも活躍できるモビリティーというものは、ひとつの究極の形だろう。

月の上を走りながら小型カメラで撮影した映像を地球に送信
月の上を走りながら、ボディー中央にある小型カメラで撮影した映像を地球に送信する。 特徴は、2つの車輪を駆使して、転んでもすぐに起き上がって走ることのできる構造。
「YAOKI」(八起ヤオキ)という名前の由来にもなった。

中島さんは、自動車技術が電気化、自動化する中、それに代わる究極のモビリティーを作りたいと起業。
以来8年、自分が理想とする月面ローバーができ上がったが、どうやって月まで運ぶのかについては、まったく計画がなかった。
そこで、自分で動画を作成、YouTubeにアップして、アメリカの宇宙産業にSNSで売り込んだ。

ダイモン・中島社長
YouTubeの動画を撮る方が初めての試みだったので、どちらかというと、そっちの方がチャレンジだった。
その結果、アメリカの宇宙開発企業アストロボディック社が手がける、月着陸船に搭載されることが決まった。

町工場の力を借りて金属用3Dプリンターで部品を改良
しかし、次の難関が…
月面ローバーの試作車は、樹脂の3Dプリンター製。カメラなどの部品は、市販品を改良したもの。このまま宇宙に行けば、確実に壊れてしまう。

そこで、中島さんが助けを求めたのが、金属加工専門の東京・大田区の町工場だった。
中島さんの突破力に押され、用意してくれた秘密兵器は、日本に数台しかないという金属用3Dプリンターで、月面ローバーの部品を改良してくれることになった。

東新製作所・石原幸一社長
この金属造型機を宇宙のスペックに合わせて、部品を作っていこうと考えている 。
これを使えば、複雑な形の金属部品も自在に作ることができる。

ダイモン・中島社長
きょう見た感じだと、(開発)期間が半減できるという感覚。
アメリカ企業との交渉にも備えて、手を打った。英語での契約文書作成のため、交渉のプロ・元石油プラントエンジニアをスタッフに迎えた。
アメリカ企業との交渉担当のギャレット・レオパルディさんは、「月面ローバーをこんな小型にするなんて、革命的な技術だと思う」と話した。

中島さんの突破力が実現した、日本初の月面ローバー。
ダイモン・中島社長
本当にやる気ですね。やる気さえあれば、コストをかけずに誰でもハイレベルな技術開発ができる時代になっている。

自動車産業で培った技術が一番生きるのが宇宙産業
三田友梨佳キャスター
YouTubeへの投稿がきっかけというのも凄いですが、石倉さんはどうご覧になりますか?
(株)キャスター取締役COO・石倉秀明氏
自動車のエンジニアだった方が宇宙へという話を見ると、日本の未来の形が見えるなと思う。自動車産業で培ってきた技術が一番生きると言われているのが宇宙産業なので、今後自動車関係で働いていた人達が宇宙開発に移ってくることは可能性として非常にあると思います。

三田友梨佳キャスター
宇宙開発は欧米やロシアが先行しているようですが、日本企業は勝負できますか?
(株)キャスター取締役COO・石倉秀明氏
自動車というのはもちろん鉄だとかガラスといった素材もそうですし、モーターだったり様々な精密機械など技術の結集のようなもの。産業の総合格闘技とよばれるぐらい技術が結集していますが、今はEV化が進んでいて、自動車を作るときの部品がかなり少なくて済むようになってきている。なので今まで培ってきた技術を生かせる機会、仕事が減ってきている。
ただ、この技術を一番生かせるのは宇宙産業だと言われていますし、宇宙産業で使われる部品は基本的に輸出入ができないものなので、技術のコアなところを日本は持っているという点では非常にチャンスが広がっている産業です。
三田友梨佳キャスター
宇宙ビジネスが本格化した今、日本の宇宙産業は自動車のように世界をリードできるのでしょうか、期待したいです。
(「Live News α」1月21日放送分)