2021年1月に鳥取市河原町でおきた死体遺棄事件の裁判。被告は、父親の死体を自宅の納屋に隠していた53歳の息子。鳥取地裁は6月29日の判決公判で、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。

この事件の背景には、山間の限界集落でひっそり暮らした末の貧困があった。事件に至る被告の環境と心情を深層調査した。

「病院にも連れて行けず葬儀代を払えなかった」

鳥取市街地から車で約40分の鳥取市河原町小河内新田。

住民は6世帯8人で、ほとんどが高齢者のいわゆる限界集落である。この集落の外れにある一軒家で、被告は貧しさ故の犯行に至った。

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裁判長:
被告を懲役1年に処す。3年間、その刑の執行を猶予する

大型の補聴器を耳にあて判決を聞いていたのは、谷本達男被告、53歳。

谷本被告は2021年1月、低体温症で死亡した88歳の父親・政治さんをドラム缶に入れ、自宅の納屋に隠していたとして、死体遺棄の罪に問われていた。

これまでの公判で谷本被告は、検察の質問にこう答えた。

検察:
なぜ遺体を隠したのですか

谷本達夫被告:
葬儀代を払えなかった。父親の年金が亡くなると生活できないと思った

谷本被告は父親と2人で暮らしていたが、収入は月に4万円ほどの父親の年金だけだった。父親は死亡する1週間ほど前から体調が悪かったもののお金がなく、病院にも連れて行けなかったという。

弁護人:
どうして生活保護を相談しなかった?

谷本達夫被告:
父から「以前、相談して無理だった」と聞いていたので、どうせ無理だと思った

29日の判決で鳥取地裁の多田裕一裁判長は、「本件の犯行は死者に対する尊重の念を損なうもの」とした上で、「被告はこれまで父の身辺の世話をしながら前科前歴なく生活してきた」などと判決理由を説明した。

社会問題化する親の年金不正受給「消えた高齢者問題」

地域福祉を研究する鳥取大学の竹川俊夫准教授。谷本被告の心理を探るため、取材に同行してもらった。

鳥取大学地域学部 竹川俊夫准教授:
父や息子が生活に困っていたことは、周りはわからなかった?

集落の住民:
わからなかった。銭に困ってたかもしれないけど、人の家のことはわからない。自分のことで精一杯な者ばかりで、年寄りなので

被告の生い立ちについては…

集落の住民:
(谷本被告は)職業訓練所に1年通って、戻ったら街に出るかと思ったら出ずに、母親の具合がリウマチで悪くて、父親の助けをするために家に残らせた

ほとんどの若者が仕事を求めて集落を離れる中、谷本被告は両親のためにこの地に残り、農業などで生計を立てていたという。

しかし、10年程前からは収入がなくなっていた。

竹川准教授によると、谷本親子のようなケースは「消えた高齢者問題」という呼び名で社会問題化しているとしている。

つまり、実際には死亡している高齢者の年金を子どもが不正受給する問題。

また、近年は「8050問題」という引きこもりを続ける50代の子どもが、80代の親のわずかな収入で生活し、結果的に親子共倒れになる事例も深刻化しているという。

――中高年の親子の貧困はどうして起こる?

鳥取大学地域学部 竹川俊夫准教授:
何らかの働けない要因を抱えている。親の介護のために仕事を辞めざるを得ないケースもあるが、ずっと親の介護をして50、60歳近くになって、いきなり社会に出ろと言われても難しい。そのまま行き詰るケースは全国数多ある

――なぜSOSが出せない?

鳥取大学地域学部 竹川俊夫准教授:
私たちは、「自分で解決しろ」という教えを規範として受けてきている。なおかつ今回は、集落の中で働いていないことに対する負い目が、相当つらかったと思う。助けてくれとは決して言えない

受けられたはずの生活保護…「SOS」出せない市民をどう助けるか

そして、事件の要因については…

鳥取大学地域学部 竹川俊夫准教授:
本人はSOSを表に出せない。生活保護受けられないと思い込み、我慢するしかない。これが今回の大きな事件の要因の1つ

救済手段だった生活保護。福祉問題に詳しい弁護士は、谷本親子の場合、年金のほかに月7万円ほどの生活保護費を受給できたはずだと話す。

鳥取県弁護士会 大田原俊輔弁護士:
月4万円で生活してるのは本当に生活が困窮してるので、基本的に生活保護を受けられた。職を探している間に生活ができないから受給したいと、この場合は生活保護を受け付けないといけない

弁護士会では、窓口まで同伴し生活保護の申請を援助する制度を設けていて、相談さえあればすぐにでも無料で弁護士のサポートが受けられるという。

利用できたはずのセーフティネット。鳥取市は、こうした問題の早期発見に取り組んでいるとしているが…

鳥取市福祉部 植田修三さん:
虐待のケースなら強制的にでも見させてもらうこともあるが、今回はそういったケースではなかったので、それ以上のところは難しかった。相談をもらえれば支援できる部分もあったが、周りや本人からの声がないと難しい

今回の事件では、市の担当職員の自宅訪問が事件発覚の端緒となったが、未然に防ぐことはできず、現場では今の福祉行政の限界を訴える。

こうした見落とされがちなケースについて、鳥取市は「地域と連携し、自らSOSを出しやすい雰囲気を醸成していく」と言うが…

――具体的にどうやって、その雰囲気を作っていく?

鳥取市 梶地域福祉課長:
そこについては、これからの研究です

赤木優志記者:
今回の事件は単なる刑事事件に留まらず、地域福祉の厳しい現状をあぶり出した象徴的な事例だとも言えます。SOSを出しづらい、また出し方すらわからない、そんな人たち救うためには、やはりより積極的に見つけ出す、そして手を差し伸べることができる新たな体制づくりが求められています

公判の中で谷本被告は、掠れた声で「今後は生活保護を受けながら、できる仕事を探してやっていきたいと思っています」と話した。

(TSKさんいん中央テレビ)