死者58人、行方不明者が5人となっている2014年の御嶽山の噴火から時が流れた。
噴火で息子とその恋人を亡くした一人の男性は、絵本作家の女性と一緒に、亡くなった2人の人生を1冊の本に。「風化させたくない…」とこの本であの日の出来事を後世に伝えようとしている。
御嶽山噴火から時を経て 麓の町で子供たちに息子を亡くした男性が講演
この記事の画像(12枚)9月12日、御嶽山の麓、長野県木曽町にある三岳小学校を訪れた愛知県一宮市の所清和さん。
2014年の噴火で、息子の祐樹さん(当時26)とその恋人の丹羽由紀さん(当時24)を亡くした。
所 清和さん:
噴火って皆さん知ってますか?噴火ってどういうことでしょう。これは(息子の)祐樹が持っていたリュックサックなんですけども、ここに穴が開いています。この穴は噴石が飛んできたのがあたって破れて入った穴です
遺品からかき集めた火山灰…粉々になった携帯電話に降り注いだ噴石…。噴火の恐ろしさを子どもたちに伝えた。そして所さんがもう1つ伝えたかったこと…。
亡くなった2人の一生を綴った本を子供たちに
所さん:
こちらの『ひまわりの花よ 永遠に』という本を10冊、校長先生に預けました。自分で読んで、ご両親にも読んで頂きたい
表紙はひまわりに囲まれて微笑む2人の写真。タイトルは『ひまわりの花よ 永遠に』。亡くなった2人のこれまでを描いた本だ。
生い立ち、出会い、週末に出かけたデートの日々。
しかし、あの日の噴火が幸せな2人を襲った。
本には当日の2人の行動だけでなく、無事を祈る所さんたちの当時の思いも綴られている。
(本の文章より)
『「無事でいてほしい」心はあせるばかりでした。(噴火から)3日、4日と過ぎると、絶望感にとらわれるようになりました』
子どもたちにも読んでもらえるように、文字を少なくして、写真を多くした。
心を動かされた『子を思う親の気持ち』…作者は面識のなかった絵本作家
この本を書いたのは愛知県小牧市の渡辺和子さん、ペンネーム・浅茅依子で活動する絵本作家だ。元々、所さんと面識はなかったという。
渡辺さん:
1枚の新聞記事だったの、一番最初は。所さんがひまわりの苗を植えて、花が咲いたら(御嶽山の)9合目まで登って、ひまわりの花を手向けたと
本を描くきっかけになった、ひまわりの写真。
(本の文章より)
『由紀ちゃんにはひまわりの花が一番ふさわしい。ひまわりの花を植えて弔ってあげよう。どこかで見ていてくれるに違いない』
所さんは自宅で育てたひまわりを御嶽山へ持っていき、2人に手向けていた。
渡辺さん:
私が親だったら(子どもが)亡くなったら諦める。もう戻ってこないからって諦めるんですけど、所さんは諦めるのではなく、まだひまわりの花を植えていて…あれに私は頭が下がったんです。『子を思う親の気持ち』だなと思う
連絡先を調べて、所さんたちと会い、背中の手術なども乗り越えながら原稿を書きあげた。
所さんたちと本の最終チェックの日。誤字脱字や表現に間違いがないか確認する。
所さん:
(本の途中に入っている)ブルーの紙は何なんですか?
渡辺さん:
第1章、第2章、第3章を区分けする境目にいれたいなと。前に由紀さんが水色が好きだと言ってましたよね。この色で区分けをしようと思うんですけど、よろしいですか?
所さんの妻・喜代美さん:
こうやって残してもらっただけでありがたい。ふつう亡くなったらそれで終わりですよね、その時点で。それに御嶽のことは(世間の)皆さんにとっては終わりの話。こうやって子どもたちが過ごしたことを残してもらえて、感謝の気持ちでいっぱい
2年の月日をかけて完成した一冊…最後に綴られた『残された遺族ができること』
2年かけ、ようやく完成した本。およそ400冊の費用は全て渡辺さんが出した。
2019年6月、長野県の御嶽山の麓までやってきた所さん。図書館、地元の住民、役場に本を配った。
所さん:
こういった本ができたんですよね。できれば大勢の方に親の気持ちとかを読んでいただきたいなと思いまして
『2人の生きた証』ともいえる本は、御嶽山の麓でたくさんの人をつないでいる。
本の最後のページ。残された家族から天国の2人へ…。
(本の文章より)
『残された遺族が、2人のためにできることは何か?素敵なあの写真にあるような、ひまわりを育てよう。すべて自己満足だけど。『風化させたくない』』
所さん:
悲しいだけでは前に進んでいかないから。自分なりにやれることを。私の場合だったら、ひまわりを育てて、御嶽の麓をひまわりでいっぱいにするのが1つの夢。息子が好きだった山ですからね
『ひまわりの花よ 永遠に』は市販はされていないが、愛知県では、愛知県図書館、一宮市立中央図書館、小牧市立図書館で読むことができる。
(東海テレビ)