切っても曲げても撥水性が落ちない「超撥水材料」を開発
サメ肌に着目した流体抵抗の低減やヤモリの脚をヒントにした粘着力…。
自然界に生息する生物や植物をヒントとして技術開発することは、今の時代ではもはや普通のことなのかもしれない。
今回は新たに、切ったり曲げたりしても、撥水性が落ちない…そんな夢のような材料が誕生したというのだ。開発したのは、国立研究開発法人「物質・材料研究機構(NIMS)」の研究グループ。
“ハリセンボンのトゲ”に着想を得て、切ったり曲げたりしても、撥水性が落ちない「超撥水材料」を開発したと、9月10日に発表した。
従来の撥水材料は、「切る」「曲げる」といった力が加わると撥水機能が損なわれるという問題があったが、ハリセンボンの表皮の構造を参考にしたことで、この問題を改善。
切ったり曲げたりしても、撥水性が落ちない「超撥水材料」が出来上がったのだというのだ。
でもなぜ、切ったり曲げたりしても、撥水性が落ちないのか?そして、ハリセンボンの構造にどんなヒントがあったのか?
「超撥水材料」を開発した研究グループのリーダー、内藤昌信さんに“仕組みのヒミツ”を聞いた。
剛直なトゲと柔軟性に富んだ皮膚の組み合わせに着目
――「超撥水」とはどのような状態を指す?
水を垂らすと、水滴が転がるような状態です。蓮の葉の上に水を垂らした様子をイメージしていただけるとよろしいかと存じます。
――従来の撥水材料は、切る、曲げるといった力が加わると、撥水機能が失われた。これはなぜ?
撥水性を発現する方法として、蓮の葉の表面構造を模倣したものがあります。
これは、表面に微細な凹凸構造を有していますが、繊細な構造なゆえに、簡単に壊れてしまうという欠点がありました。
――今回の超撥水材料は、切っても曲げても撥水機能が失われない。これはなぜ?
ハリセンボンの表皮は、テトラポッド型の剛直なトゲ(鱗)と柔軟性に富んだ皮膚という相反する力学特性を持った材料からできています。
超撥水材料を開発するうえで着想を得た、ハリセンボンのトゲは、テトラポット状の構造をしています。このような構造にすることで、必ず一つの針が上に向くという特徴があります。
超撥水材料では、凸凹構造がどのような配置になっても、必ず生まれるような構造として、ハリセンボンのトゲに注目しました。
これによって、切る、曲げるといった力が加わっても、表面は常に多数の針が生えた状態なので、超撥水性能が落ちないということです。
”水の問題が発生する場所”で活用
――超撥水材料はどうやって作るの?
テトラポット型の酸化亜鉛「ウィスカ」と「シリコーン樹脂」を混ぜるだけで、出来上がります。
切る、曲げるといった外力が加わった際には、柔軟な「シリコーン樹脂」は伸びるのですが、その下から硬い材料である「ウィスカ」が出てくるというメカニズムです。
――超撥水材料はどのような“もの”“こと”に活用することを想定している?
建材や衣料、食品包装、衣料、など、水に起因する問題が発生する場所では、あらゆるところで使えると考えております。
水に起因する問題としては、たとえば、金属材料のさび、航空材料の凍結、窓ガラスの曇り、外壁の汚れ、内視鏡の曇りなどが考えられます。
「切っても曲げても大丈夫」だという夢のような素材の「超撥水材料」。例えば、塗料にし、船の底部に塗れば、船の燃費が向上し、CO2排出量を低減する効果も期待できるのだという。応用範囲が広そうなので、これからの開発が楽しみだ。