公明党重鎮の言葉と、過去の忘れられない“失言”

政治家が失言・迷言をするたびに、この言葉を思い出す。

「口から出た言葉は二度と元に戻らない」
「政治家の口から出た言葉は必ず外に出る。漏れたくなかったら何も言わないことだ」

私が公明党の番記者をしていた頃、当時の漆原国対委員長から聞いた言葉だ。今から10年以上前、2008年の麻生政権の頃だった。麻生首相は、当時、連日の高級バー通いが「浮世離れしている」などと国会で野党の批判にさらされていた。その年の10月、野党議員が国会で、格差社会の問題を質問する際に、麻生首相に対し「カップラーメン、今一ついくらぐらいすると思います?」と尋ねたところ、麻生首相は、「最近買ったことがないからよく知らない」と前置きしたうえで、「今、400円ぐらいします?…そんなにはしない?」などと答弁し、場内の笑いを呼んでいた。日本経済が大きな打撃を受けた、あのリーマンショック後の国会では、衆議院の解散、国民生活の安定、格差社会が一つのキーワードになっていた。漆原氏は、麻生内閣で「失言・迷言」が繰り返されていることを念頭に、上述のような戒めの言葉を述べたのであった。

2008年・参院外交防衛委員会で答弁する麻生首相(当時)
2008年・参院外交防衛委員会で答弁する麻生首相(当時)
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SNSで発言が拡散される時代に政治家は

SNSが発達した今、麻生氏のような発言をしていたら、と思うと恐ろしくもなる。麻生氏は当時、「最近買ったことがないからよく知らない」と明確に前置きしているのだが、おそらくSNSでは「400円」が独り歩きし、瞬く間に拡散され、当時以上の議論が沸き起こっていただろうと思う。(良くも悪くも情報が伝わる速度は飛躍的にアップしている)

私は当時、記者として麻生首相の発言を聞いていた。真剣に麻生首相が答えているところが場内の笑いを呼んだのかもしれないが、与野党からほどなくして、「首相はカップラーメンの値段も知らないのか?」という声が沸き起こってきた。これは、私にとっては知らないことを決して軽々に口にしてはいけないという教訓でもあったが、最近の永田町ではむしろ、「え?どうしてこの人がこのテーマでこれを言ったの?」という、「その道のプロによる失言」が多い。なぜなのか。

2つの「失言」はナゼ起きたのか?

「予測されて色々言われていたことからすると、まずまずに収まったという感じ」

(10月13日・自民党緊急役員会)
(10月13日・自民党緊急役員会)

自民党の二階幹事長が先月、台風19号の被害についてこのように発言し、野党から「これだけの被害が出ているのに、まずまずとは何だ?」との批判を受け、事実上発言を撤回するに至った。

「裕福な家庭の子どもが回数を受けてウォーミングアップできるというようなことがあるかもしれないが、自分の身の丈に合わせて2回をきちんと選んで頑張ってもらえれば」

(10月24日・BSフジプライムニュース)
(10月24日・BSフジプライムニュース)

これは、大学入学共通テストに導入される予定の英語民間試験について、萩生田文科相が発言したものだが、その後、「受験生に不安を与えかねない説明不足な発言だった」と謝罪に追い込まれている。

失言の背景にある“共通点”

二階氏は、2012年の野党自民党時代に、国土強靭化総合調査会の会長に就任するなど、災害に強い国づくりを目指し、防災・減災対策の先頭に立ってきた人物である。そもそも、「まずまず発言」が飛び出した緊急役員会自体も、二階氏の号令で招集されたものだ。自民党職員によると、二階氏が「まずまず」と発言した緊急役員会では、二階氏が発言するためのペーパーが事務方によって用意されていたが、そこに「まずまず」という記載はなかった。二階氏がアドリブで付け足したものだった。二階氏はのちに自身の発言を事実上撤回しているが、その後の本人の言葉からは、真意が伝わっていないという不満が滲んでいる。

「日本がひっくり返るほどの大災害、色々言われておったことからすると、あの発生当時はそういう状況であったじゃないですか。そんな言葉尻捉えて云々しても災害復旧は始まらないよ」(10月17日・福島空港)

一方、萩生田氏は、安倍首相が国会で答弁しているように、長年文科行政に携わってきたスペシャリストといっていい人物だ。また、萩生田氏自身も、これまで経済格差による教育格差の問題に長年取り組んできたという自負があるだけに、発言が大きく批判されたことには、本人も不本意な面もあるだろう。萩生田氏は国会で、野党から「文科大臣に相応しくない」と質され、次のように不満を漏らしている。

「私はどちらかというと、経済的困難者の応援団であるということは、党内でもお認め頂けると思います」

(11月8日・参院予算委員会)
(11月8日・参院予算委員会)

結局、文科省は11月1日に、2020年からの英語民間試験の導入見送りを決定したが、萩生田氏の「身の丈」発言が、導入の是非をめぐる議論が活発化する一因になったのは否定できない事実だ。

これらのことから明白なのは、二階氏と萩生田氏は共にいわゆる得意分野で失言したことである。二階氏の「まずまず」発言について、自民党関係者は「単純に、災害に対する二階氏の思いが強く前に出過ぎたものではないか」と擁護するが、「やはり、自分が得意だと思っている分野で言葉が出すぎるのは失敗に繋がりやすい」と自戒を込めて語る党関係者もいる。

萩生田氏の発言については、「格差があることを認めたうえで、格差是正に向けた政策を立案することは重要なことだ」と擁護する声もあるが、「格差そのものを容認するような発言は許せない」という怒りの声もあがる。言葉というものは、なかなか難しい。

また、2人の発言の共通点を尋ねると、「言った本人の認識と、聞いた人の受け取り方に違いがあることを理解しない政治家が結構多い」と解説する自民党のベテラン議員もいた。なるほど、これは一般社会にも通用する、言われれば当たり前のことだがつい忘れがちな事実なのだろうなと思う。二階氏と萩生田氏が、これから国会の内外で「得意分野で」どのような発言をしていくのか注目したい。

「得意な人事」で失敗はなかったのか

話は飛ぶが、もう一つ、忘れてはならないのは、閣僚の相次ぐ辞任である。改造内閣が発足して2カ月の間に、菅原前経済産業大臣と河井前法務大臣が、「政治とカネ」の問題に絡んだ週刊誌報道を引き金に相次いで辞任した。事実上の更迭だった。2人は辞任に際して「説明責任を果たす」と述べたが、いまだそれが行われる気配はない。野党側は、国会に招致し説明責任を果たすよう求めているが、与党側は「前例がない」として検討するそぶりもない。これでは、政治不信を超えて政治無関心が加速してしまう。

安倍首相は、第一次政権で、自身に近い議員を数多く登用し、お友達内閣と揶揄され、その深い反省から、第二次政権以降は、派閥のバランスや能力を重視する人選を重ねてきた。それが、今に繋がる安定政権を築いてきたとされる。たしかに、「ここにこの人を登用するのか、上手いなあ」と唸らせる人事もあった。しかし、改造を重ねるごとに、いわゆる「入閣待機組」を順送りで入閣させ、そのたびに、「適材適所」が薄れてきた感は否めない。

また、安倍首相や菅官房長官に近い議員の初入閣も目立つようになってきた。求心力維持の観点からやむを得ない面もあるのだろうが、改造内閣の顔ぶれについて、9月の時点で私は政府関係者から「2~3人辞めることは織り込み済み」との声を聞いていた。それが今、現実のものになった。

安倍首相は「人事が得意」と言われている。しかし、ここまで短期間で2人も相次いで辞めることは想定していたのだろうか。問題発覚後のリカバリー(更迭)は確かに早かったが、日米貿易協定など、重要案件を抱える臨時国会はすでに窮屈な日程になっている。与党がこの国会で成立を目指す、憲法改正に関連した国民投票法改正案の行方も不透明だ。(国民投票法改正案は4国会にわたり継続審議になっていて、与党内からは今の国会での成立を目指すべきとの声が強い)

「得意分野こそ口にチャック」「慎重に」が今後、局面打開のカギになるのだろうか。

(政治部・官邸キャップ 鹿嶋豪心)

鹿嶋 豪心
鹿嶋 豪心