各地で甚大な被害をもたらした台風19号の上陸からおよそ1カ月。

この台風では水害による被害が大きく、全国71河川が堤防決壊。長野県の千曲川や東京と神奈川の境を流れる多摩川などが氾濫し、広い地域で濁流が住宅街に流入した。

家屋に取り残された住民もおり、消防などのヘリコプターによる救助活動も行われた。

台風19号では全国71河川が堤防決壊し、住宅街に濁流が流れた
台風19号では全国71河川が堤防決壊し、住宅街に濁流が流れた
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復旧がいまだに進んでいないところがあるなどと被害は大きく、改めて自然災害への備えの重要性を認識することとなったのではないだろうか。

そのような中、静岡市の住宅メーカーが、津波や洪水を想定した“水に浮くシェルター”の開発した。

サムライフ 最大15人用
サムライフ 最大15人用
サム 最大8人用
サム 最大8人用

開発したのは小野田産業で、最大15人用の「SAMLIFE(サムライフ)」と最大8人用の「SAM(サム)」だ。ふたつとも高さは同じ約2.2メートルだが、サムライフが約3.3メートル×約3.2メートル、サムは約2.3メートル×約2.2メートルとなっている。

材料には、水に浮かぶように発泡スチロールが使われている。

しかし、発泡スチロールは耐久性が低いイメージがある。台風では樹木が倒れてきたり、水害では流木がぶつかってくることも想定される。壊れたり、浸水したりしないのだろう?

小野田産業の滝川真哉プロジェクトリーダーに詳しく話を聞いてみた。

元々は火山対策を目的に開発 水に浮くことから津波・洪水用へ

――開発のきっかけは?

元々は火山対策のシェルターを作るためのものでした。

発泡スチロール製のシェルターなら軽量なので運搬が容易だろうと考えたのですが、火山用となると、耐衝撃性の基準が非常に厳しくコストもかかります。

一方で発泡スチロール製だから必ず水に浮くはずということで津波や洪水用シェルターとしても開発を同時に進めていきました。

そして、普段使いができることを第一目標に掲げ、より多くの人に使っていただけるように試行錯誤を繰り返しました。

アメリカ国防総省の壁にも使われる素材でコーティング

――なぜ発泡スチロールに注目した?

弊社社長が幼少期に発泡スチロールを使った自作の船で川を渡ったことがありました。
そんな経験もあって身近に感じている発泡スチロールに社長はさらなる可能性を感じていたので、これを素材にしたシェルターを作ることになりました。

しかし発泡スチロールだけだと、耐候性が低い。紫外線に当たると数日でボロボロになってしまいます。そこで、表面に“ポリウレア”という特殊なコーティング剤を塗っています。

これは、アメリカ国防総省の外壁にも使われているもので、爆破実験などにより強度は実証されています。弊社ではSAMLIFEに10メートルの高さから乗用車を落とす実験をしましたが、問題ありませんでした。

――内部はどうなっている?

中央にはテーブル、側面には長椅子があります。

椅子は大容量の収納スペースになっているので、いざというときの備えのために、水、寝袋、救急箱など収納できます。また、床のフラットボードを使えば、ベッドスペースになります。

中の様子。青色の床のフラットボードと椅子を組み合わせるとベッドスペースになる
中の様子。青色の床のフラットボードと椅子を組み合わせるとベッドスペースになる

普段は遊び場や宿泊所に。最後の手段として逃げ込む場所

――どのように使えばよい?

庭、屋上、駐車場などに設置していただいて、普段は、遊び場、集会所、宿泊所として使用することができます。

津波や洪水が起きた際には、まずは安全な場所に避難していただくのが一番ですが、逃げられずに家の中が危険になった時、最後の手段として、シェルターに逃げ込む。水が一定以上になると浮かび上がります。中に水や食料を備蓄しておけば、家の中より助かる可能性は上がります。

また、水害の恐れのない地域では自宅から一番近い避難所となります。大地震のあとには繰り返し大きな余震に見舞われますが、弊社のシェルターなら地震で壊れることはありません。またプライバシーも確保できるので精神的負担の軽減は非常に大きいです。

――水の上での乗り心地は?

シェルターの底の部分が平らなので、かなり安定しています。シェルターの横を大きな船が通った場合、波が起きますが、大きく揺れることはありません。

――でも、もし津波などで横倒しになったらどうなるの?

横倒しになった場合、復元力(波などの外力が作用して左右どちらに傾斜した場合、その傾きを元に戻そうとする力)はありません。しかし、沈むことはありません。天井部分には、脱出口があるので、脱出することもできます。

横転した状態。手前に見える穴が天井部分の脱出口
横転した状態。手前に見える穴が天井部分の脱出口

――反響はある?

サムライフ、サム、合わせておよそ10台ほど売れています。湿地開発しているインドネシアの大型重機メーカーも1台買っていただきました。



近年の自然災害の被害をみると、水害がまたいつ起きてもおかしくないのではないだろうか。

非常用持ち出し袋の準備や避難所の確認など、できる範囲で準備を進めておくことがまずは重要だが、このような津波・洪水用のシェルターが今後は必要になってくるのかもしれない。

(画像:小野田産業)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。