見覚えありすぎ?ユニークな採用プランが登場

今年、化粧品を扱う伊勢半グループが「顔採用、はじめます。」というキャッチコピーで、「自分らしいメイクや服装」を重視した自由な採用スタイルを発表し、話題になった。

さらに、ヘアケアブランド「パンテーン」が、就活生にありがちな“ひっつめ髪”をやめ、自由な髪型を推奨するキャンペーンを立ち上げたことも記憶に新しい。
(参考記事:顔採用、はじめます。」攻めたコピーでもネットは好意的…その狙いを聞いた
「まだ黒のひっつめ髪で内定式は出席しなきゃいけない?」…“就活ヘア”提起の広告が企業を巻き込み今年も話題!

個性を重視した採用姿勢をさまざまな企業が打ち出している中、またひとつユニークなものが登場した。

それが、プラント(生産設備)の建設工事や部品組み立てなどを行う、千葉県・市原市の生塩(うしお)工業株式会社。その名も「くちヒゲ配管工採用」だ。

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「くちヒゲ」に「配管工」という組み合わせにすでに頭をよぎるものがあるだろうが、さらに案内の画像を見ると、カラフルなロゴや土管のモチーフ、特徴的な赤シャツにオーバーオール姿の男性があり、やはりどう見ても某大人気ゲームを思わせる……

この採用プラン、なんと「くちヒゲが似合う配管工希望者は書類選考をパスして面接に進める」というもの。

(出典:生塩工業株式会社公式サイト)
(出典:生塩工業株式会社公式サイト)

さらに、公式サイトを見てみると、他の応募条件は

・オーバーオールが似合う
・ジャンプ力がある
・キノコが好物
・土管に潜るのが好き
・ライバル(例:爬虫類)がいる
・守りたい人(例えば姫など)がいる
・車やカートの運転が好き
・テニスが趣味


というもので、さらに某ゲームの主人公がチラつく内容となっている。


インパクト大の採用案内だが、なぜくちヒゲだけで書類選考をパスできるのか? そしてもし「くちヒゲ採用」で入社した場合、ずっと“くちヒゲキャラ”として生きていかなくてはならないのだろうか…

いろいろと気になってしまい、生塩工業株式会社に詳しくお話を伺った。

若い力の獲得を目指し3つの採用プラン

――ユニークな採用プランを打ち出したきっかけは?

今までホームページもない状態で、10年程度ハローワークへの求人及び、近隣高等学校への訪問・技術専門学校への訪問等を行ってきましたが、思うような結果へ繋がっておらず、先ずはホームページを作ろう!と動き出し、せっかく作るなら、他にはない面白いホームページを作りたいという思いから、クリエーターであります、佐藤ねじ様(ブルーパドル)とタッグを組み、ホームページ制作から面白採用を、打ち合せや会話の中から、弊社の良さや売り出すポイントを見出して頂いたのが発端です。

(出典:生塩工業株式会社公式サイト)
(出典:生塩工業株式会社公式サイト)

生塩工業によると、新卒の応募者は通常2~3年に1人、経験者の中途採用が年に1人ほど。

そんな状況を打開すべく、昭和50年の創業以来初めてのホームページの制作に踏み切り、11月2日の開設と同時に、これらの採用プランを発信したのだという。

実は今回打ち出した採用は3種類あり、「くちヒゲ採用」の他に「溶接面接」「千葉ロッテマリーンズファンの現場監督採用」がある。

「溶接面接」は仮に選考に通らなくても、一流の溶接工から教えてもらえるワークショップに参加できるという実践型のプラン、また「千葉ロッテマリーンズファンの現場監督採用」は、生塩工業が千葉ロッテマリーンズが取り組んでいる野球観戦を通じた社会貢献活動である「絆シート」という取り組みに協賛していることにちなみ、マリーンズファンの応募者は書類選考をパスできる、というものだ。

――3つのプランはどのようにして決めた? 他にはどんな案が?

やはり本業の売りであります弊社の職種の「配管工・溶接工・監督者」へ興味を持って頂きたかったのが一番のきっかけであります。

また、今回の3つのアイデア以外には、溶接技術を利用した「溶接習字」をやってみたり、今回は見送られましたが、溶接技術を利用し「面白構造物を溶接で作成」というプランも上がっておりました。これはまた今後煮詰めて出したいと思います。


――同時に3つのプランを打ち出した理由は?

やはり我々の業種でありますプラントの配管工事自体が、世間の人々にはあまり知られていないのが実情ですが、人々の暮らしには欠かせない職種であることをホームページでも紹介し、配管工事とは何か?というものをインパクトあるもので知ってもらいたいとの事で、1度に3本立てで配信しました。

入社後は「ヒゲを保持していただけると…」

ユニークな採用プランの背景には「ライフラインを支える職について知ってほしい」という真面目な理由があったが、それにしても気になってしまう疑問をぶつけてみた。


――「くちヒゲが似合ってる」は誰がジャッジするの?

採用担当の独断で決めさせていただきます。ですがお会いする前の判定になるので、くちヒゲに自信がある方から応募があった時点で、だいたい通過することになる気がしています。


――書類審査をパスできる、とあるけれど「くちヒゲ採用」に応募したい人はどうすればいい?

メールでのやりとりになりますので、「くちヒゲ採用を見て応募しました」と言って頂ければと思います。


――くちヒゲが似合いすぎている人は面接もパスして一発採用!なんてことは…

しっかり面接はさせて頂きますし、配管工やプラント、弊社のカラーを理解して頂き、相性をみて判断したいなとは思っています。ただ、あまりに似合いすぎている場合、心が緩んでしまうのは確かです。


――「くちヒゲ採用」で入った人は入社後もトレードマーク決定?

剃りたくなったら、いつでも剃って頂ければと思いますが、採用側の気持ちとしては、立派なくちヒゲを保持して頂けると嬉しいなとは思います。


――女性でも「くちヒゲ採用」に挑戦していい?

もちろんです。
というか、興味をもって頂ければ、通常採用でウェルカムです。「くちヒゲ採用」は男女平等のこの時代に、不平等な採用を出してしまっているという危惧はありましたが、今回の優先度として「配管工っていう仕事を知って頂く」ことが上位でしたので、今回の企画でいこうという判断をしました。

「原石が埋もれてしまうよりも…」 若手にかける期待

――すでに「くちヒゲ採用」や「マリーンズファン監督採用」への応募はあった?

まだ配信間もないこともあり、電話での問い合わせ程度ですが、今後様々なメディア様に取り上げられ、増えていくことを切に願います。


――どんな人材からの応募を期待する?

我々の建設業界では「石油会社等の施主 → 大手ゼネコン・エンジニアリング会社 → 中小企業」、このような形態がほとんどと思います。

会社の規模や、ネームバリューから、新卒者のほとんどが、大企業へ就職されていきます。しかし、大手企業に就職したからと言って、必ずしも出世や、重要なポストへ昇進出来るとは限らず、数千人の中に若い原石の人たちが埋もれてしまっています。

そんな数千人の中に埋もれてしまう人生ではなく、実際に現場で技術を発揮する我々中小企業へ入り、大手企業の方々と対等な立場で力を発揮する面白さを見出してくれるような、若手が入ってくれることを期待しています。

――プラント配管工事の魅力はどこ?

請負形態の通り、実際の工事を行うのが、我々の役目になります。一概に工事といっても、いきなり現場で工事をする訳ではなく、エンジニアリング会社が図面を発行し、それを基に我々が、工事の施工順・工程を加味し、まずは工場での内作作業を行います。※現地で100%の工事を行うと、時間も労力もものすごい為、工場で60%くらいの状態まで組み立てるイメージです。

その出来上がったパーツ(配管)を現場で、クレーン等で組み上げ・溶接を行い、完成を目指していきます。

これらを、まともに説明すると、皆さん拒否反応が出てしまうので……(笑)
今回のホームページのテーマであります「世界で最もやりがいのあるプラモデルを作る会社」を打ち出し、工事の壮大さや、大規模な工事のやりがいを知ってもらえれば、自ずと「プラント配管工事の魅力」へ気付いてもらえると思います。


――最後にお聞きします。生塩工業の皆さんは“某ゲーム”のファン?

はい!



生塩工業では、今回のプランに対する反応をふまえ「プラントのことを知って頂く機会にできるなら、またこのような採用プランを実施するかもしれない」とのこと。

「くちヒゲ採用」と聞いたときには、一瞬ふざけているのかなとも思ったが、その裏にはプラントの配管工事の仕事になんとか興味を持ってもらおうとする努力があった。

今回のプランを見て興味を持った人やくちヒゲ自慢の人はぜひ応募してみてほしいが、「千葉ロッテマリーンズファンの現場監督採用」のページにはひっそりと「社長は巨人ファン」との注意書きがあったので、一点、そこだけは注意したほうがいいだろう。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。