世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は11月7日、CNNのツイート。



モーリー:

25-year-old New Zealand lawmaker Chlöe Swarbrick was giving a speech supporting a climate crisis bill when she was heckled by an older member of Parliament. She simply said, "OK boomer," and kept talking, unfazed.


ニュージーランドの25歳のクロエ・スウォーブリック議員が、気候変動問題についてスピーチしている際、年長の議員がヤジを飛ばした。彼女は「OK boomer」とだけ言って、話を続けた。

興味深いのは、女性名Chloeの「o」の上にあるウムラウト。昔はこのような表記はあまり見られませんでしたが、これも多様性ですね。

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では、背景を説明します。ニュージーランドのクロエ・スウォーブリック議員は「緑の党」所属。

彼女は、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにすることを掲げた「ゼロカーボン法」についての演説で、「この議会の平均年齢は現在49歳。若い世代が地球に住めなくなった頃には逃げ切っているから、当事者意識がないのでしょう」と言いいます。

すると場内から、25歳という彼女の年齢をからかうようなヤジが飛んだのです。それに対して彼女は「OK boomer」とだけ返し、何事もなかったように演説を続けました。

ベビーブーム世代への冷ややかな返答


「OK boomer」は今年、TikTokを通じて若者世代に爆発的に普及した新語です。

ここでのOKには、「わかった、わかった。もうそれで全部ですか?」と相手の言い分を受け流し、揶揄するようなニュアンスが込められています。boomerはベビーブーム世代のこと。日本では「団塊の世代」ですね。

「あぁ、わかった、わかった、承りました。黙れ老害」

意訳しましたが、このような一言をポンと放って、相手を黙らせてしまったのです。

ベビーブーム世代もかつてはヒッピーが登場したり、ベトナム戦争に反対したりということがありました。若者が年を取ると保守化して既得権益となり、それに対して次の若い世代が冷や水を浴びせる…よくある構図かと思うのですが、調べてみると実は今回は少し違うようです。

「シニアデモクラシー」状態のアメリカ

アメリカの人口構成は、シニアの4人に3人が白人で、トランプ大統領の目はここに向けられています。

そして、8000万人の若者世代や生まれたばかりの子どもたちの約半分は、非白人です。アメリカ社会では、人種と世代の断層が構造的に生まれているという状態にあるのです。

自らの利益が確定している年金受給者の有権者は、高確率で選挙の投票に行きますから、シニア世代の投票率は上がります。

一方で若い世代は、「どうせ政治から阻害されるのだから」と投票に興味はなく、テクノロジーの発展で未来が拓けるのだというユートピア思考に陥りがちです。

この構造を見ていれば、シニア世代が勝つことは明らか。

このような状況にあって、自分たちが50歳になる頃には環境も年金も医療もないと追い詰められた若者が、「OK boomer(分かったよ、もう黙っていてくれ)」と言い始めたのです。

しかし、中長期的に考えると、若者世代8000万人という“こぶ”が、30代~40代になると次第に投票率が上がっていき、きつい言い方になりますがboomerたちが亡くなると、比率が逆転して白人男性・高齢者のアメリカではなくなり、本当の「合衆国」になります。

トランプ大統領も過去の記憶となって、新たなアメリカが誕生した時には、環境問題の活動家グレタ・トゥンベリさんも相当な力を持っているのではないでしょうか。

こういった構造の亀裂と、いまアメリカが変わろうとしている産みの苦しみが、ニュージーランド議会での「OK boomer」発言という形で表出したのだと思います。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 11/13 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。