何をするにもつい気にしてしまう、他人の口コミや評価。

商品を購入したり、飲食店を選ぶときにも、周囲が高評価をしていると一度は利用してみたくなるものだ。

大衆に影響力を持つ人は「インフルエンサー」と呼ばれるようになった(画像はイメージ)
大衆に影響力を持つ人は「インフルエンサー」と呼ばれるようになった(画像はイメージ)
この記事の画像(7枚)

こうした時代に存在感を高めてきたのが、人気のSNSユーザーやYoutuberなど、インターネットでの影響力を持つ人たち。彼らは「インフルエンサー」とも呼ばれ、大衆の共感を自然に集められることから、企業のマーケティングにも採用されるようになった。

そのような人物を、選考面で優遇する「インフルエンサー採用」があることはご存じだろうか。

選考フローの一部免除に特別手当!でも意外な反応も?

この選考方法のパイオニア的存在が、メガネチェーンを展開する国内企業「OWNDAYS」。

ここはインフルエンサーであれば、書類選考や一次試験といった選考フローの大半が免除。面談、最終面接の段階から選考をスタートできる。もちろん、合格すれば内定獲得だ。

インフルエンサー採用では選考フローの大半が免除される
インフルエンサー採用では選考フローの大半が免除される

選考フローを比べてみると、その差は一目瞭然。

・通常の選考フロー
エントリー、会社説明会、書類選考、一次面接・筆記試験、最終面接、内定

・インフルエンサー採用の選考フロー
面談(試験などは行わない)、最終面接、内定

毎月の特別手当も出るという
毎月の特別手当も出るという

そして、優遇されるのは選考面だけではない。
入社後も毎月5万円の「インフルエンサー手当」があるという。
つまり、通常業務もしつつ、インフルエンサーとしてこの会社についての投稿をすることで手当もつくということなのだ。

応募条件は「Twitter」「Instagram」どちらかのフォロワー数が1万人以上であることのみ。年齢・学歴は問わず、採用ウェブサイトからいつでも応募できる。OWNDAYSによると、2017年10月にこの採用枠を導入してから、計3名を採用。現在も多い月で10〜15名ほどの応募があるという。

フォロワー数が多ければ、誰でも内定のチャンスが広がる。まるで夢のような話だ。
しかし、Twitterでは意外にも、この選考方法が賛否両論を呼んでいるのだ。

フォロワーは買える時代、フォロワー数の判断で問題ない?

Twitterユーザーからは、「共感する人の集まりができるって凄いこと」「今らしくていい」との反応があった一方で、「真面目に試験受けて合格した人らがバカらしくなる」と不公平感を訴えたり、合格者が“ネット炎上”したときを心配する声も目立った。

そして多数のユーザーが懸念していたのは、フォロワー数だけで判断するのかという点。
例えば、インターネットオークションサイトには「フォロワー ○○人」という出品がゴロゴロ。実はこれ、フォロワーをお金で売買しているのだ。価格は出品者などで異なるが、1フォロワーあたり1~15円が相場。1万人なら、5万円ほどで集められる可能性もある。

売買されたフォロワーはフォロワー数の水増しにも使われているという(画像はイメージ)
売買されたフォロワーはフォロワー数の水増しにも使われているという(画像はイメージ)

このような手法や炎上商法でフォロワーを増やしたユーザーと、発信力が評価されたユーザーは見分けられるのだろうか。そしてネットは流行り廃りが激しいもの。炎上してしまう危険性などは、ないのだろうか。

OWNDAYSの担当者に、聞きにくいことも含めて伺った。

業務として投稿ノルマはあるが、スタイルは自分次第

――インフルエンサー採用を導入した理由は?

弊社はスタッフにSNSの活用を奨励していて、職務規定に含まれるメディア利用ルールを順守していれば、自社商品やサービス、人事制度や職場の様子などを、業務中でも自由に発言・投稿できる環境を整えてきました。そして今は、ソーシャルメディアの情報があらゆる場面に影響を及ぼす時代です。弊社も会社としてだけではなく、個人の視点を通じて「生の声」を自由に発信することで、ブランドが認知されるキッカケになればと始めました。


――採用されたらどの部署に採用され、どんな活動をする?

基本的には全役職で募集しています。これまで採用した3名は、店舗の販売員として活動しています。このうち1名は、インフルエンサーとしての豊富なSNS知識を生かして、OWNDAYSオフィシャルインスタグラムの投稿内容のプランニングなども担当しています。

インフルエンサー採用者が実際にしている投稿(Instagram)。彼女は日本語・台湾語で情報発信をしている
インフルエンサー採用者が実際にしている投稿(Instagram)。彼女は日本語・台湾語で情報発信をしている

――具体的には、SNSでどんな活動をする?

OWNDAYSに関する投稿を、社内外でしてもらいます。投稿内容は会社が決めるのではなく、気に入った商品や店舗での出来事などを自発的に投稿しています。インフルエンサーが実際に商品を着用するパターンが多いですね。Instagramは特にアカウントの世界観を大事にする人も多いので、投稿のトーンやマナーも自身のスタイルに合わせてもらっています。



実際はこのような頻度で、自社に関する投稿してもらうという。
【Instagram】
一般投稿:2投稿/月
ストーリーズ:4投稿/月(要相談)


【Twitter】
一般投稿:4投稿/月(要相談)


合格者にはSNSアカウントでの情報発信が求められるが、そのスタイルは個人の裁量に任せられているようだ。フォロワーや投稿内容については、どう判断しているのだろう。

怪しい点は事前チェック&面談で質問

――ネットでは賛否両論。不公平という声もあるが、これについてはどう思う?

特に気にしていません。企業が商品販売をする以上、その企業を宣伝することは当然のことだと考えています。機械化が進むと役割を失う職種も出てきますが、そんな世界で求められる人材は魅力があり、それを周囲が認め、信頼、関心を持たれる人です。彼らの意見が物事を決める基準となり、購買の動機にもつながります。だからこそ、その魅力を持つインフルエンサーは「たくさんの人から信頼される人」として、評価に値すると考えています。


――買収・炎上でフォロワーを増やすとどうなる? 本来採用したい人との見分け方は?

応募段階で「フォロワーを購入していないか」「不適切な投稿をしていないか」などは事前チェックします。どんな人にフォローされているのか、コメント欄でのやりとり、コミュニケーションなどを見て、気になる点は最終面接前の面談で質問させていただきます。

OWNDAYSでは一般社員も自発的にSNSを活用しているという(採用ウェブサイトより)
OWNDAYSでは一般社員も自発的にSNSを活用しているという(採用ウェブサイトより)

――最終面接の前に行う面談では、どんなことを聞く?

採用された場合の投稿頻度、他の活動に関する説明などをします。ここを大切にしていて、インフルエンサー手当がもらえるといっても、これまで作りあげてきたSNSの世界観にOWNDAYSが加わると、投稿内容が変わってしまうなどのリスクもあります。面談ではそこをどう投稿すれば納得できるのかも話し合うので、そこのマッチングがうまくいって、面接を受けたい!という意思が固まった段階で、最終面接にご案内しています。


――最終面接では、どこを評価する?

基本は採用職種に関する質問で、志望動機やどの点に興味を持ったのかなどを伺います。SNSを発信する際に気を付けていること、入社後の具体的ビジョンなども伺います。具体的な評価基準はお話できませんが、やりたいことや目標を持つ人が好ましいと考えています。

投稿内容は職務規程で炎上しないように指導

――入社後に炎上したり、フォロワー数が激減したときはどうなる?

本人のトーン&マナーで投稿している限り、フォロワー数が激減することは考えにくいです。また、弊社は職務規定としてメディア利用規定を定めていて、こちらには「見る人が不快に思う投稿はしない」「会社に関する投稿を通じて第三者を中傷する投稿はしない」ことなどが含まれています。入社時の研修でも、このような内容を伝えています。


――インフルエンサー採用を目指す人に伝えたいことはある?

情報の流れや人々の行動が大きく変化してきているなかで、SNSに強い方の採用はこれからの企業にとって大事な戦力になると考えています。自分の発信力や魅力を活用して、OWNDAYSを一緒に盛り上げてくれる人はぜひ選考を受けてみてください!



選考フローは一部免除されるが、フォロワーが集まった経緯や投稿内容はしっかりチェックされるようだ。採用試験を受けたい人は、自分のSNSアカウントで会社をどうPRできるかも考えておく必要があるかもしれない。

先日、編集部でも「くちヒゲ配管工採用」の企業を取材したが、社会が多様化する中、ピンポイントに人材を求める動きが増えつつある。就活をする際には今一度、自分の特技や特徴を見つめ直すことからはじめてほしい。

(参考記事:“くちヒゲ”採用って何!? 「配管工」はやっぱりあのイメージが重要なのか担当者に聞いた

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。