近畿大学が「黄色いイクラ」を開発中

完全養殖のマグロ「近大マグロ」で知られる近畿大学が一風変わったイクラの開発を進めている。

それは、黄色いイクラで、名前は「近大イクラ」。

養殖する淡水魚の「アマゴ」から採取したイクラで、サケのイクラに比べて赤みが少なく、ほんの少しだけ黄色いのが特徴。
ただし、今はまだ開発中のため、赤みが残り、完全な黄色にはなっていない。

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この黄色いイクラを生む「アマゴ」はサケ目サケ科に属する魚。
河川で生まれて一生を河川で過ごす個体をアマゴと呼び、海へ降りた個体をサツキマスと呼ぶという。分類上はアマゴもサツキマスも同じ魚だ。


近畿大学水産研究所の新宮実験場で、1976年から養殖研究を開始し、完全養殖を達成。

選抜育種(=品種改良において、ある特定の有用な形質をもつ品種を選びだし、その品種同士のかけあわせを繰り返して育種すること)を重ねた結果、優れた形質のアマゴを生産することに成功した。

そのアマゴから採卵し、加工した「近大イクラ」を使った軍艦巻きが、11月28日から12月4日までの期間限定で、近畿大学の養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所」の大阪店と銀座店で提供されている。

提供するのはディナーのみで1日20食限定。
価格は2貫で700円(税別)と、ややお高めの価格設定となっている。

味が気になるところだが、そもそもなぜ、アマゴのイクラは、サケのイクラに比べて黄色くなるのか?

その理由を近畿大学水産研究所の稻野俊直准教授に聞いた。

「淡水には卵を赤くする餌生物が少ないため」

――アマゴのイクラはなぜ黄色くなる?

サケのイクラは赤みが強いオレンジ色ですが、この色は、サケが海洋生活をしていた頃に食べたオキアミなどの甲殻類に由来するアスタキサンチンなどの成分によるものです。
卵だけでなく身も赤くなります。

一方、アマゴやヤマメなどの一生、淡水で過ごすサケの仲間の卵は、赤みが少ない黄色が主流です。
これは、淡水にアスタキサンチンなどの成分を含む餌生物が少ないからです。

アマゴやヤマメの卵をイクラにすると透き通った黄色になるため、「黄金のイクラ」と呼ばれています。


――開発した理由は?

イクラを生産することを目的としてアマゴの養殖技術を開発したわけではありません。

4年前にアマゴのイクラを試作する機会があり、これを地元のお寿司屋さんに試食して頂いたところ、非常に好評でした。

このため、機会があれば消費者の皆様に味わっていただきたいと考えていたところです。

イクラの製造には徹底した衛生管理が必要ですが、2018年にキャビア加工実験用のクリーンルームを完備したことから、イクラの製造に踏み切りました。

市販のえさでは赤みを帯びてしまう

――開発するうえで苦労した点は?

目標は、「黄金のイクラ」ですので、黄色い卵をたくさん必要としますが、市販のアマゴのえさ(配合飼料)ではアスタキサンチンが含まれているため、どうしても赤みを帯びた卵になってしまいます。

今回のイクラも本来の黄金色は出せませんでしたので、今後、工夫が必要と考えています。


――今後の課題は?

サケのイクラに取って代わることはできないと考えていますが、資源が減少傾向にあるサケの漁獲圧(=漁獲資源への影響)が少しでも軽減されるよう、養殖アマゴのイクラを消費者に知っていただきたいと思います。

そのためには、より多くのイクラを製造できるように、大型のアマゴや抱卵(=魚などが産卵前に腹の中に卵を抱えていること)量の多いアマゴを作り出す必要があると考えています。


――大量生産するためにはどうすればよい?

2年間の養殖コストに合うような価格で販売できなければ、量産は困難だと思います。

多少、価格が高くても、養殖アマゴのイクラが良いと消費者が判断して頂ければ、そのニーズに応える必要があると思いますが、近畿大学の養殖規模では容易ではありません。

まずは、選抜育種で1個体から、より多くの卵が採れるように研究していきたいと考えています。

皮がしっかりしてプチプチした食感が楽しめる

まだ完成には至っていない「黄色いイクラ」だが、一体、どんな味なのか?
養殖魚専門料理店「近畿大学水産研究所・銀座店」の杉村卓哉料理長に話を聞いた。

――「黄色いイクラ」はどんな味?

一般的なサケのイクラに比べて成熟してから卵を採取しているので、皮がしっかりしてプチプチとした食感を楽しむことができます。


――お客さんの感想は?

「とても美味しかった!」と、シンプルですが一番嬉しい感想をいただいています。

開発の目的はイクラの安定的な供給

――その他に、サケのイクラと比べて異なる点は?

味と色については個体による差があるかと思いますが、基本的にはサケのイクラとほとんど変わりないと感じています。

また、今回、近大イクラを生産する最大の目的としているのが、養殖アマゴからイクラを生産することで、天然資源の変動に左右されない持続可能な資源として安定的な供給を行っていくことです。

近年はサケの漁獲量の低下が懸念されており、天然の安価なイクラを生産し続けるには、今後、多大なる努力と労力が必要になる可能性があります。

その中で、養殖アマゴのイクラがサケの漁獲量の低下をカバーできれば、美味しいイクラが今と変わらず、今後も食べ続けられることになります。


近年、サケの漁獲量の低下が懸念されている中で、イクラの安定供給を目指すのが開発の目的だった。
「黄色いイクラ」の軍艦巻きは、期間限定で現時点では2貫で700円とややお高めだが、今後、大量生産が可能になれば、もう少し安くなる可能性もあるのだという。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。