26年ぶりに国内で感染発生

江藤農水相;
発生から1年以上経過し、13万頭以上の命を食肉せず処分してしまったことについては、農林水産省として大いに責任を感じている

江藤農水大臣は2019年9月、CSF=豚コレラの発生状況についてこのように述べた。

江藤農水相(2019年9月20日)
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CSFは豚やイノシシ特有の病気で、高い伝播力と致死率が特徴だ。
人間には感染せず、感染した豚の肉を食べても人体に影響はない。

2018年9月に26年ぶりに岐阜県で発生して以降、関東地方にまで感染が拡大し、イノシシや飼育豚の感染は12月12日時点で13県に拡大している。
当初は殺処分や衛生管理の強化で封じ込めを図っていたが、終息の目処は立たなかった。
そこで、自治体や養豚業者などからは感染拡大を防ぐため、ワクチンの接種を求める声が上がっていた。
しかし、ワクチン接種をめぐる国と自治体との溝は大きく、国が最終的にワクチン接種に舵を切ったのは発生から1年が経過した頃だった。

方針大転換!ワクチン接種へ

9月14日の土曜夜。
農林水産省に緊急招集された幹部らを前に、江藤大臣は厳しい表情を浮かべていた。そしてゆっくりとこう述べた。

江藤農水相;
ステージは確実に変わった。長野県と埼玉県は非常に大きい

この前日の13日 埼玉県で、関東地方で初となるCSFの感染が確認された。
さらに翌日14日には長野県でも感染が確認されたのだ。
全国有数の養豚山地を抱える関東地方での発生は、養豚農家をはじめ関係者に大きな衝撃を与えた。
そこから農水省は連日のように対策本部を開き、対応について協議した。

そして9月20日の午後3時。
江藤大臣は緊急会見を開き、養豚場の豚へのワクチン接種に向けた手続きを進める方針を正式に表明した
関東地方での発生から1週間、まさに方針を大転換した形だった。

「もっと早く決断できなかったのか」相次ぐ疑問の声

感染拡大を防ぐワクチン接種の解禁は、発生県にとっては朗報であったが、接種をめぐる農水省の対応には疑問の声も多く飛んだ。
「なぜ今のタイミングなのか」「後手に回りすぎだ」
農林水産委員会や自民党で開催された会合などでは、このような声が多く挙がった。
11月、参院農林水産委員会で議員から「状況の判断が甘かったのではないか」と問われた際、江藤大臣は

江藤農水相;
飼養衛生管理基準に沿ってやってきたこと自体は間違っていないと思う。吉川大臣(前農林水産大臣)も本当に悩み葛藤していた。その時の判断は悩みぬいた結果なので、甘かったとか間違っていたと申し上げるつもりはない
現実にこれだけの区域でCSFが蔓延している事には責任を感じ、反省すべき点が多々あると自覚している

…と、当時の判断について見解を述べたうえで、反省の意を示した。
こうした批判が噴出する事態を引き起こした背景には、政府の“ある苦悩”があった。

政府のジレンマ・・ワクチン接種による失う“お墨付き”

ワクチン接種の決断に二の足を踏んだ理由、それは「輸出への影響」だ。
政府は農畜産物の輸出拡大を目指していることがあり、豚肉輸出の流れを止めたくなかったという事情がある。
ワクチンを用いない防疫体制が確立されていることで、国際機関が認める「清浄国」という“お墨付き”がもらえることとなり、欧米などの「清浄国」への輸出が可能になるほか、「非清浄国」からの輸入を拒むことも出来る。
しかし、ワクチン接種に踏み切れば、「清浄国」の格付けから外れ「非清浄国」に格下げされることとなり、輸出に悪影響が及ぶ可能性がある。
また、ワクチンを接種した豚と感染した豚の見分けがつかないため、感染豚を発見できないまま域外に出荷・感染拡大の可能性があるというデメリットもある。
こうした問題から、ワクチン接種の決断に大きく二の足を踏んでしまったのだ。

13年ぶりにワクチン接種、名称も変更

そして10月25日、ワクチンの接種が富山、石川、福井、岐阜、愛知、三重の6県で開始され、11月にはワクチンを接種した豚の肉や加工品が一部地域で出荷された。
「豚コレラ」という名称も、人間の病気である「コレラ」を想起させてしまう恐れがあるとして、「CSF」(Classical swine fever=古典的な豚の熱病)という名称に変更して定着を図っている。

ワクチン接種に関しては、農水省は「抑制的」として接種範囲を限定し、「接種したことで安心するのではなく、常に飼養衛生管理の徹底を」と呼び掛けている。
しかし近隣県などからは、「一刻も早くワクチンを打ちたい」などの要望が相次いでいる。
ある農水省幹部は「感染のリスクに応じて接種地域の優先順位を決めていく」と話していて、近く 感染未発生県でもワクチン接種を認める可能性がある。

迫る影…アジアで猛威を振るう「アフリカ豚コレラ」

江藤農水相;
(国内に)入った段階で、もう最終ステージだと自覚を持つ必要がある

江藤大臣が『最終ステージ』と呼ぶのは、ASF=アフリカ豚コレラの存在だ。
2018年8月に中国で発生して以降、アジア各国で猛威を振るっているASFは、感染した豚の致死率が高く、有効なワクチンがないため、日本国内に侵入すれば畜産業に大きな打撃となる。
政府は、国内への侵入を防ぐための水際対策など防疫体制を強化している。
しかし、ある農水省幹部は「もう時間の問題だ」と話すなど、日本に上陸する危険性は高まっている。

(農水相HPより)

江藤大臣は11月下旬、ASFが国内の養豚場で発生した場合、周辺にある養豚場の豚を予防的に殺処分できるよう法改正を行う考えを示した。
また、空港などでの水際対策について、日本へ入国する旅行者が肉製品などを持ち込んでいないか確認する探知犬を増やすほか、家畜防疫官の権限を強化するなど、さらなる管理強化を目指す方針だ。

今回のCSFを巡っては、対応が後手に回り事態が拡大してしまったとの指摘もある。ASFでも同じ事態を招いてしまえば、さらに深刻な打撃を地域経済に与える懸念もある。
CSFを封じ込めASFの侵入を阻止するためには、国や生産者らが連携を強め、飼養衛生管理の徹底や防疫体制の強化に全力を尽くす必要がある。

(フジテレビ報道局経済部 入戸野綾記者)