弾劾案可決もトランプ大統領の支持率は過去最高

アメリカ議会下院本会議で18日、トランプ大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾決議案が可決・成立した。アメリカ史上3人目の大統領弾劾訴追となる。2020年1月には、上院で弾劾裁判が始まる見込みだ。上院は与党・共和党が多数派で大統領が罷免される可能性は低いが、弾劾が2020年に迫った大統領選にどのような影響を与えるかが最大の焦点だ。

19日午前10時半(日本時間)トランプ大統領の弾劾決議案が可決・成立
19日午前10時半(日本時間)トランプ大統領の弾劾決議案が可決・成立
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最新の世論調査(キニピアック大学 12月11日~15日実施)では、トランプ大統領の弾劾・罷免について、賛成が45%、反対が51%となり、反対が過半数を上回った。また、支持率は前回から2ポイント上昇し、自己最高の43%に達した。弾劾調査が大統領の支持率に影響を及ぼしておらず、好景気や低失業率を背景にむしろ支持が高まったことがわかる。

一方、その内訳をみると、共和党支持者からの支持率が92%を占めたのに対し、民主党支持者は94%が不支持と回答。支持政党による差が鮮明に表れ、アメリカ世論の分断を如実に示す結果となった。

このような分断は、今、アメリカ社会の随所に現れている。学生も例外ではない。最近でもインターネット上に、トランプ支持を表す「MAGAハット」を被った生徒が反トランプ派の生徒から何度も殴られる動画が投稿され、話題となった。リベラル傾向が強い首都ワシントンの学生に話を聞けば、「うちの大学にトランプ支持者なんて一人もいない。いたとしても、関わりたくない」と敵意をむき出しにする。こうした場で、ひとたび誰かがトランプ支持を公言すれば、「差別主義者なのでは…」と冷たいまなざしを向けられる事は避けられない雰囲気だ。トランプ大統領就任から3年で社会の亀裂は広がり、人々の本音がよりむき出しになっていると言える。社会の分断により“肩身の狭い”思いを強いられているトランプ大統領の支持者は今何を考えているのか、聞いてみた。

投稿された動画 保守系のメディアが取り上げた
投稿された動画 保守系のメディアが取り上げた

深まる亀裂でトランプ支持者は肩身が狭い?!

2020年の大統領選で大きな鍵を握るとされるのは、激戦州の無党派層、女性票とともに、若者の票の動向だ。一般的に若者はリベラル傾向が強いと言われるが、民主党の大票田・カリフォルニア州サンフランシスコ在住のジョンさん(仮名 29歳)も“肩身の狭い”思いをしているトランプ支持者だ。

「トランプ大統領は確かに愚かなことをするし、ツイッターでも馬鹿げた投稿する。だが何といっても経済は好調だ。トランプ大統領はアメリカのために仕事をしている」

ジョンさんは「好調な経済」をトランプ支持の大きな理由に挙げる。自身もアジア系移民だが、トランプ大統領の不法移民対策は適切で、差別的だとはみなしていない。逆に、税金を投入し不法移民を支援する民主党の政策は「おかしい」と話す。

ただ、このような考えを公言することは容易ではないという。地域社会も、自身が通っていた大学院もリベラル傾向が強く、トランプ支持を公言すればどうなるかは明白なのだ。

激戦州では“移住ビジネス”でトランプ支持

そんな中、“肩身の狭い”トランプ支持者に着目したビジネスも登場している。2年前にカリフォルニアからテキサス州マッキーニーに移住したポール・シャボーさんは、リベラルな州に住む共和党支持者に対し、テキサスへの移住を勧める事業を展開している。その名も「コンサバティブ・ムーブ(保守派の移住)」。着目した理由は、カリフォルニアなどではリベラル傾向がより強くなり、ジョンさんのような共和党支持者が「住みづらさ」を感じているからだという。

「コンサバティブ・ムーブ」を経営するポール・シャボーさん
「コンサバティブ・ムーブ」を経営するポール・シャボーさん

また、移住先がテキサスなのにも大きなワケがある。空前の好景気に沸くテキサスは、近年、新たなビジネスチャンスを求めてリベラル層が大量に流入。そのため、「保守の牙城」と呼ばれたテキサスが、「赤(保守)」と「青(リベラル)」の勢力が拮抗する「紫の州」になると指摘されている。

ポールさんは、リベラルな州で死票となってしまう共和党支持者をテキサスに移住させることで、テキサスのリベラル化を防ごうとしている。テキサスは大統領を選ぶ選挙人数が全米2位の大票田で、その動向は大統領選に大きな影響を与えるからだ。ポールさんは危機感をあらわにする。

「テキサスは保守派の政策のおかげで大きな発展を成し遂げた。テキサスがブルーになってしまったら、今起きている良いことが全て台無しになってしまう。だから、テキサスを赤い州のままにしたい」

同僚と銃談義をするポールさん 「銃所持の自由」は保守派のシンボルだ
同僚と銃談義をするポールさん 「銃所持の自由」は保守派のシンボルだ

実際にテキサスに移住したトランプ支持者のウィンさん夫妻に話を聞くと、3頭のロバや鶏が放し飼いになる自宅の庭で、穏やかな表情でこう語った。

夫・マイケルさん:
「カリフォルニアは人間関係がとても敵対的だった。人々が常にくだらない競争をしているようだった。テキサスは私たちにとって心地よく安全だと感じる場所だ。赤い州だからこそここを選んだし、このまま維持してほしい」

妻・エイミーさん:
「カリフォ ルニアでトランプ支持を公言するのは難しいけど、テキサスではみんなが支持していてワクワクするわ」

広大な自宅の庭でインタビューに応じるウィンさん夫妻
広大な自宅の庭でインタビューに応じるウィンさん夫妻

2020年の大統領選に向け、両陣営はより対決姿勢を鮮明にし「赤」と「青」の分断がさらに進む可能性もある。今後の動向に注目だ。

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】

瀬島 隆太郎
瀬島 隆太郎

フジテレビ報道局政治部 元FNNワシントン支局