元日休業発表…「台風19号」の経験も

ファミリーレストランのロイヤルホストが大晦日と元日の休業を発表し、すかいらーくグループも、初めて全国の8割の店舗で一斉に営業時間を短縮すると発表した。
そうした中、大手スーパーのイトーヨーカドーが、一部店舗で元日に休業すると発表した。
従業員の働き方改革の一環で、元日休業をするのは初めてだ。

この一報を聞いたとき、私は思わず「やっぱり」とつぶやいた。
あの台風19号の経験が後押ししたのではないかと思ったからだ。

台風19号が上陸した10月12日(土)、イトーヨーカドーは創業以来初めて、約8割の店舗にあたる124店で一斉休業した。
私は、休業日前日の店舗取材で、広報担当者から「準備には1年もかかったんです」と聞いた。
1日休むというのはそんなに大変なのか…と興味を抱き、後日 休業までの準備を取り仕切った経営企画部総括マネジャー(当時)天勝啓介さんのもとを訪れた。

“初の臨時休業”実行までのドキュメント

〈台風19号が上陸する4日前。10月8日(火)〉
イトーヨーカドーの本部には、大型で猛烈な台風が、週末に関東を直撃する恐れがあるとの情報が入っていた。
千葉を中心に大きな被害をもたらした台風15号が上陸してわずか1ヶ月後に、さらに大きな台風がやってくる。
本部では、台風が上陸する土曜日の営業について話し合う対策会議を開くことになった。

天勝さんは、対策会議の数時間前、社長に呼ばれていた。
「従業員たちに絶対に無理をさせるな、休業も視野に」という内容だった。
はじめは「え?」と驚いたという。災害時に時短営業することはあったが一日「休業」するのは初めてだからだ。

対策会議には、施設管理からシステムまで各部署の担当者30人ほどが集まった。
「休業」は本当に可能なのか。
売り上げは、台風の時は大幅に落ち込むが、閉めれば「ゼロ」になる。
日持ちのしないものを前日のうちに売り切ることができるのか。
物流体制はどうするのか、納品は前倒しできるのか・・・。
数時間にわたって会議が行われた。
しかし、「休業」という選択に反対するものは誰もいなかった。

〈台風上陸の2日前。10月10日木曜日の夕方〉
124店舗に「臨時休業」を知らせる通達をした。
従業員たちは、台風の日もいつものように営業するつもりではいたものの、その一方で、まず自分自身が出勤できるのか、家に残していく家族は大丈夫なのかなど、不安もあった。
そんな中、休業の知らせが飛び込んできたことで、安堵の気持ちがあふれた。
食堂で聞いた従業員たちから、思わず拍手が湧き上がった店舗もあったという。
一気に従業員のモチベーションを上げた。
一番心配していた客からの反応も、批判的なものは一切なく、好意的だったことも従業員の背中を後押しした。

〈台風上陸の前日。10月11日金曜日〉
事前に「臨時休業」を知らせたこともあって、店内には朝から多くの客が訪れた。
いままでの経験で、水・パン・カップ麺など日持ちのするものは2倍から3倍用意していた。

商品の補充やレジ対応など、従業員がスピード感を持って対応した。
想定外だったのは、蓄え用の分だけではなく、日持ちのしない弁当などが売れたことで、製造が追いつかないところもあったという。
しかし、なんとか大きな混乱はなく一日を終えた。

<そして、10月12日 台風が上陸>
一部店舗で雨漏りはあったが被害は小さく、翌日はほとんどの店舗で通常通り営業できた。
納品も搬入も問題なく、心配していた売り上げも、台風の前後でカバーできたという。

1年前から“準備”は始まっていた!

初めての臨時休業を、大きな混乱なく乗り越えたイトーヨーカドー。
実は、“準備”は1年以上前からスタートしていた。

西日本豪雨や大阪北部地震、北海道胆振東部地震と災害の年となった2018年。
天勝さんは、店舗を統括する部署の責任者として地域の災害状況などの把握に奔走していた。
そんな中、関西に大きな被害をもたらした台風21号が上陸する。
その日が近づくにつれ、百貨店や同業者が休業を決める中、従業員の家族から、なぜイトーヨーカドーはこんな危険な時に、営業するのかという声も出始めていた。
「お客様のためにライフラインを絶やすな」
災害時こそ積極的に営業してきたが、従業員やその家族が安心できるような環境作りが必要なのかもしれない。
天勝さんは、社内の災害時の対応の見直しに着手した。
台風など、ある程度の予測ができる災害については事前に準備して休業対応もとれるようにし、店舗設備の補強も進めていった。
時短営業を想定したものではあったが、売り上げや搬入などのシミュレーションもしていた。
1年をかけて入念に“準備”していたことが、今回の休業につながった。

「大事な一日」従業員のモチベーションに変化も・・・

一番、想定外だったことはなんだったのか。
「従業員の気持ちの変化が一番大きいと思う」と天勝さん。
ツイッターなどで「よくやった」という声を目の当たりにしたこと。心配していた家族を安心させることができたこと。そして、会社が自分たちのことを考えてくれているということを実感したこと。
それらが、従業員のモチベーションを大きく変えた。

「言い過ぎかもしれないが、イトーヨーカドーにとって大事な1日だったのかもしれない」

あの日以来、従業員の積極性が増した。
現在ゾーンマネジャーとして店舗を回る中でも、従業員が「こういうことをやったら売れますよ」などと、以前に比べて明るく話しかけてくれるようになったという。

「もしかしたら、従業員のみなさんのモチベーションをあげるのは一日のお休みかもしれませんね」
私からの問いかけに、天勝さんは「そうかもしれませんね」と笑った。

(フジテレビ報道局経済部 冨田憲子記者)