人口1600万人を誇る中国の地方都市、成都。中心部に立ち並ぶ巨大な建築物にはクリスマスの装飾が色とりどりに煌めいている。

12月24日、実に1年3か月ぶりとなる日韓首脳会談が行われ、安倍総理と文在寅大統領が45分間に渡って相まみえた。この首脳会談で何が話し合われ、日韓関係は今度どうなっていくのか、その展望を報告する。

冒頭からかみ合わない日韓

やや硬い表情で握手を交わす日韓首脳
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首脳会談の冒頭、多くのフラッシュがたかれる中で、両首脳はやや硬い表情で握手を交わした。ここまでは想定内の動きだったが、その後の展開は意外なものだった。

今回の日韓首脳会談は中国で行われた日中韓首脳会議の日程の中で時間が割かれて行われたのだが、安倍首相が2泊3日の訪問だったのに対して、文大統領は1泊2日だった。そのためタイトなスケジュールになってしまい、日韓首脳会談の予定時間はわずか30分だったのだ。

カメラ撮影が許された冒頭の場面、安倍総理は短い会談時間を意識してか、通訳を含めて1分の短い挨拶を述べた。一方文大統領は、安倍首相が歴代最長任期となった事へのお祝いの言葉や両国関係や対話の重要性などを縷々述べた。文大統領の発言が3分を超えた時に、日本の外務省職員がしびれを切らしたかのように韓国側通訳の発言中に報道陣に退席を求めたのだ。

1分の短い挨拶をのべた安倍首相

首脳の発言の最中に慌ただしくカメラを外に出すのは、あまり無い事だ。

報道陣のいない場所での虚心坦懐な議論が出来る貴重な時間を無駄にしたくない日本側と、カメラの前で自分の主張をしっかり出したかった韓国側との思惑がかみ合っていないように見えた。現在の日韓のすれ違いを象徴するようなシーンで会談は始まった。

3分を超える挨拶となった韓国の文在寅大統領

具体的進展なく…対話による解決では一致

日本政府によると、会談で安倍総理は「日韓関係は非常に厳しい状況にあるが、根本原因は元徴用工問題にかかる最高裁判決にある」と従来からの立場を述べたという。文在寅大統領は「解決の重要性は認識していて、早期に問題解決を図りたい」と応じたが、具体的な解決策の提示は無かった。

一方韓国政府によると文大統領は日本の輸出管理強化について「早急に原状回復しなければならない」と求め、安倍総理は「今後も輸出当局間の対話を通じて問題を解いていこう」と述べたという。首脳会談は予定を15分越えて45分間に渡って行われ、日本側の出席者は「張り詰めた空気があったが、とげとげしくもなく、極めて率直な忌憚のない会談だった」と評している。双方がそれぞれの主張を述べたが、具体的な解決に至る道は示されなかった。

ただ、今後当局者間の対話を通じて解決していくということでは一致した形だ。

元々この会談一つで懸案が解決するとの見通しは日韓双方ともに少なく、予想通りの内容と言える。1年3か月ぶりに開いた首脳会談だったが、結局は対話による解決が重要だと双方が確認するだけに終わった。ただ議題に上るのか注目されながらも、今回の首脳会談では議論されなかった事がある。それは、徴用工問題の解決策になり得るのか注目されている、いわゆる「文喜相案」だ。

文議長の徴用工解決法案は成立するのか?

韓国の文喜相議長

韓国の文喜相議長は今月、韓国政府が資金を出して運用する「記憶・和解・未来財団」が、日韓双方の企業と個人が自発的に寄付した資金を、元徴用工らに慰謝料として支払うという解決法案を国会に提出した。韓国での裁判で日本企業から勝訴した原告については、財団からの慰謝料の支払いをもって賠償金が支払われた事になり、裁判は和解により解決されたとみなされる。また寄付を強要してはならないという条項も法案には含まれている。

日本政府は、日本企業が何らかの形で資金拠出を強制される方式は絶対に認められないという立場であるため、自発的な寄付のみを求めるこの法案については比較的肯定的に捉えている。一方である日本政府関係者は「どの程度の資金が必要で、どのくらいの資金が寄付で集まるのか全く分からない。原告側が慰謝料を受け取らないかもしれない。法案に注目はしているが、法案が通れば問題が解決するとは考えていない」とも話す。日本企業と韓国企業が資金を出し合って解決するという韓国政府の「1+1案」よりはマシという位置づけだろう。

韓国側はどう受け止めているのか?原告や市民団体からは、「日本企業の責任が明確でない」と反対する声が相次いで出ていて、労働組合に至っては文議長を「親日売国奴」とまで罵っている。当の文議長も12月22日、自身のホームページに「『文喜相案』とは『日本の真の謝罪』を前提とした法です」「市民団体による『日本の謝罪が抜けている』という指摘には同意できない。日本の謝罪は政治的なもので首脳間の合意と宣言に含まれなければならない」との声明を発表した。法案が成功するのかどうかは日韓首脳会談での日本の謝罪次第だとし、突然日本側にボールを投げてきた形だ。

一方ソウルの街中で一般市民に聞いてみると、法案の中身を把握している人はほとんどいなかった。関心が低いのだ。韓国国会議長室の世論調査によると、法案賛成が53.5%で、反対の42.1%を上回ったというが、法案審議が進む中で、関心や知識が乏しい人たちは声の大きい市民団体や活動家の意見に引っ張られ、反対世論が高まる可能性は高い。

法案発表当時は、「立法府の事についてコメントしない」という立場だった韓国政府だが、大統領府関係者は12月20日「日本の加害企業が寄付しなければ問題は解決しない。被害者の意見が重要だ」と述べ、寄付を強請しない文議長法案に否定的な立場を示した。

慰安婦問題をめぐる日韓合意も憲法違反に?

来年上半期には原告が差し押さえた日本企業の資産の現金化が行われる。日本政府はこれをレッドラインと捉えており、残された時間は少ない。

また懸案がさらに増える可能性もある。12月27日には、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決する」ことで合意した2015年の日韓合意が韓国の憲法に違反しているのか、韓国憲法裁判所が初の判決を下す事が決まったのだ。韓国政府は日韓合意について、元慰安婦らに資金を支給する「和解・癒し財団」を一方的に解散するなど合意を実質的に無効化しているが、日本の強い反発を考慮して合意は破棄しないとの立場だ。もし憲法裁判所が「憲法違反」と判断すれば、韓国政府は合意を破棄せざるを得ない事になりかねず、そうなると日韓関係がさらに悪化する事は避けられない。

日韓関係の荒波はまだまだ続きそうだ。

執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘

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渡邊康弘
渡邊康弘


1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月より経済部記者として経産省・内閣府を担当。

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