もしあなたの家の郵便受けに、「間違い手紙」が大量に届いたら…?
それがすべて「おもちゃを送ってください」、「洋服を送ってください」といった内容だったら…?

この冬、複数の地元メディアに「ホリデー・ミステリー」という見出しが躍った。
その、「間違い手紙」が届き続ける理由はいまだ、ナゾに包まれたまま
「間違えられた住民」に会いに行き、“一大決心”を取材した。

ごく普通のアパートの一室に大量の手紙

「サンタさんへ。僕の名前はアーロン、7歳です。今年のクリスマスにはゲーム機と洋服が欲しいです」

この冬、7歳の男の子から届いたイラスト入りの手紙。12月になると世界中の子供がワクワクしながら書く手紙だが、封筒の宛先は北極ではなく、アメリカ・ニューヨーク。おしゃれな飲食店も立ち並ぶ「チェルシー地区」の一角だ。

実際に行ってみると、レンガ造りのアパート。市内では至る所で見かける「ウォーク・アップ」というタイプの建物だ。この住所の、特定の一室にだけ、毎年こういった手紙が届くのだ。しかも、毎年数百通と、大量に。

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アパートに届いたサンタクロース宛ての手紙(ロイター通信)
アパートに届いたサンタクロース宛ての手紙(ロイター通信)

この部屋の現在の住人は、サンタクロースとは似ても似つかない、22歳の女性だ。

現在の住人 メレディス・マカーナンさん:
「最初は変だと思ったけれど、実際手紙を見たら興奮したわ。本当にサンタあての手紙なの!って」

現在の住人 メレディスさん(画像:ロイター通信)
現在の住人 メレディスさん(画像:ロイター通信)

手紙が届くようになったのは少なくとも11年前からだ。
メレディスさんの前にこの部屋に住んでいた、ジム・グラウブさんは、この部屋に住み始めた2008年、サンタクロース宛ての手紙をはじめて受け取った。

最初は、すごく奇妙だ、と思った。何かの間違いが起きているのかも、と思った。郵便局に知らせたり、自分たちの住所をネットで検索したりしたよ」

最初の年は「1〜2通」だったが、翌年には「サンタ宛て」の手紙はなんと、400通にのぼっていた。

この部屋の元住人 ジムさん
この部屋の元住人 ジムさん

手紙の差出人は・・・

いったいなぜ、この一般の人が住むごく普通のアパートにこんな手紙が大量に届くのか?

一説には、19世紀前半に『'Twas the Night Before Christmas(クリスマスの前の晩)』という詩を書いたとされる、クラメント・クラーク・ムーアがこの地域に住んでいたから、という説もあるが、関係があるかははっきりとはわかっていない。

元住人・ジムさんも頭をかしげる。
「いろんな説があるけれど、理由はわかっていないんだ」

しかし、この謎の手紙についてジムさんは、
400通も来たんだから、何か行動を起こさなくては
と決意をしたという。

その理由は、手紙に書かれた差出人の切実な思いだ。
差出人の多くは、経済的に困窮していたのだ。

私は2歳の娘のシングルマザーです。仕事をしていますが、勤務時間を減らされたので生活していくのに十分なお金がなく娘にプレゼントを買うお金がありません。娘には洋服が必要です。また、娘は、お姫様の人形が大好きです
とつづられた母親からの手紙。

冒頭のアーロン君の手紙にも、
今年は、僕の家族にとってはとても大変な一年だった
と書かれている。

2歳の娘を持つシングルマザーからの手紙
2歳の娘を持つシングルマザーからの手紙

こういった手紙の数々受け取ったジムさんは、その時の気持ちをこう語る。

手紙を読んだとき、打ちのめされたし悲しいことだと思った。これは現実の問題だ、と。
サンタクロース宛ての手紙に、こういった生活の問題を書く人たちがいるってことは、私たちの社会に警鐘を鳴らしているということだと感じた。クリスマスは僕たちの肩にかかっているんだと決意した

来年も続く「22丁目の奇跡」

こうしてジムさんは、数年前にNPO団体を立ち上げ、手紙の贈り主で支援が必要な家族と、プレゼントを寄付したい人をマッチングする活動を、アパートから引っ越した今も続けている。

団体の名前は、「22丁目の奇跡」。
アパートの所在地である「22丁目」からとったものだが、同じニューヨークを舞台としたクリスマス映画「三十四丁目の奇蹟」をほうふつとさせる名前だ。

「間違い手紙」がきっかけで始まった活動。

当初は「奇妙だ」と思いながらも「何か行動しなければ」と決意したジムさん。いまはこの団体の活動を知った人たちからの手紙も多くなっているようだが、ジムさんの思いは確実に実を結び、今年のクリスマスは350の家族にクリスマスプレゼントが届けられた。

ジムさんは断言する。
もちろん来年もやるよ!

沢山の想いがつまった手紙を見せてくれ「来年もやるよ!」と意気込むジムさんと取材する中川記者
沢山の想いがつまった手紙を見せてくれ「来年もやるよ!」と意気込むジムさんと取材する中川記者

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。