労働者が続々…雪降る駅で「帰朝ラッシュ」の異変

北朝鮮との境界の町、中国・遼寧省丹東市の鉄道駅。私たちが訪れた12月21日、雪が降るなか、駅舎の前に続々とキャリーバッグを引きずる女性の集団が現れた。「北朝鮮に帰るんですか?制裁のためですか?」取材スタッフが朝鮮語で呼びかけると、驚いたように「聴不憧」(ティンブドン=「わかりません」の意)と、明らかに片言の中国語が返ってきた。地元の人によると、彼女たちは北朝鮮からの出稼ぎ労働者。12月下旬に入って突然、1日1本ある平壌行き列車の発車時刻の前に、行列ができるようになったという。

北朝鮮行き列車に乗るため行列をつくる女性たち 12月21日撮影
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この異変の理由とみられるのが、国連の北朝鮮制裁決議だ。2017年12月、安全保障理事会は北朝鮮の核やミサイル開発の資金源を断つため、出稼ぎ労働者を「24カ月以内」に送還することを各国に義務付けた。この「24カ月」の期限を迎えるのが12月22日。なかでも注目されたのが、中国政府の動向だ。中国はこの制裁決議に賛成しているが、言うまでもなく北朝鮮への圧力の緩和を繰り返し訴えてきた「後ろ盾」であり、さらに、ここ遼寧省を含む東北地方の工業地帯では低賃金の出稼ぎ労働者に依存する立場でもあるからだ。この年末の「帰朝ラッシュ」は、中国政府が期限直前になって制裁決議の履行、つまり出稼ぎの取り締まりに本腰を入れ出したということなのだろうか。

北朝鮮レストランが突然の閉店 警察から呼び出しも?

鉄道駅に続き、私たちが目指したのはいわゆる「北朝鮮レストラン」。北朝鮮の女性たちが歌や楽器演奏を披露するレストランは、北の重要な外貨獲得手段であり、丹東市内にも数軒が存在しているのだが、このうちの1軒を訪ねると、看板の明かりは消え、ドアも固く閉ざされていた。この店を12月初旬に取材した際、従業員の女性は、年末年始も変わらず営業を続けると話していたので、急な閉店だったことが伺える。

丹東市内の北朝鮮レストランで歌う女性 店員は少ない

別の北朝鮮レストランは営業を続けていたが、やはり出稼ぎの女性の多くはすでに北朝鮮に戻り、今いる数人も「帰朝ラッシュ」で列車の切符が取れないために残っているだけだという。中国人マネージャーは「さっきも担当者が警察署に呼ばれ文書にサインさせられた。違反すれば、罰金では済まない」と打ち明けた。中国政府が急きょ、締め付けを厳しくしているのは間違いなさそうだ。

ところが…

「制裁破り」? 笑顔の北朝鮮労働者の姿を捉えた

早朝 作業場に向かう北朝鮮の女性たち 12月23日撮影

労働者送還の期限を過ぎた12月23日。まだ暗い午前6時すぎ、丹東市内の縫製工場近くで息をひそめていた取材班の前に、女性たちの一団が現れた。国連決議に従えば、すでに送還されていなければいけないはずの北朝鮮の出稼ぎ労働者だ。零下10度ほどの冷え込みのなか作業場に駆け込んでいく彼女たちは、見たところみな20歳前後。なかには腕を組み合い、笑顔を交わす姿もある。

実はこの工場、私たちは以前も取材し、女性たちが朝鮮語を交わしながら作業する場面などを放送していた。また今回の取材の直前、同じ工場の様子が、中国国内でも見られるNHKの国際放送でも報じられたため、当局が「指導」に乗り出している可能性もあると予想していたが、全く影響は見てとれなかった。

工場の担当者は取材に「作業するのはすべて北朝鮮労働者で、約700人と契約している。政府からは何も言われていない」とあっけらかんと話した。

縫製工場で働く北朝鮮の女性 12月23日撮影

「労働者は帰らない」ブローカーが明かす制裁の“抜け穴”

どうやら出稼ぎの取り締まりには「抜け穴」があるようだ。私たちは現地で北朝鮮労働者のあっせんをしているというブローカーの男性に話を聞くことができた。

雑居ビルの中にあるブローカーの事務所

「200人の女の子を働かせることができる―」。
男性は自信満々に切り出した。

「契約書に『労務輸出』と書いてはいけない。でも実際は働いている状態だ」。
詳しい「手口」ははぐらかされたが、国連制裁の期限である12月22日以降も、これまであっせんした労働者の状況に変わりはないという。

「期限かどうかは知らないが、私たちの労働者は帰らない」

中国には「観光」や「親族訪問」を目的としたビザで出稼ぎをする北朝鮮労働者もいるとみられているが、国連決議では、名目はどうあれ、各国で収入を得ている労働者全員の送還を義務付けている。中国政府が黙認をしているのであれば、この決議に違反している可能性がある。

中国政府は「二枚舌」?本音はどこに

中朝境界の橋を渡る平壌行きの列車

中国は期限直前の12月16日になって、出稼ぎ労働者送還を含む対北朝鮮の制裁を緩和する案を国連安保理の理事国に提示した。これまで中国外務省は会見でこの問題について問われると「国際的な義務を真剣に履行する」と繰り返してきており、「二枚舌」にも見える唐突な動きだ。その本音はどこにあるのだろうか?

北朝鮮レストランなど、目につきやすい部分での取り締まり強化と、「黙認」しているようにもとれる工場労働者の状況からは、中国の微妙な立場が透けてみえるようだ。自らが賛成した国連決議を無視するわけにはいかない一方で、北朝鮮の後ろ盾として存在感を保持し、米朝非核化交渉で一定の影響力を発揮したい、との思惑があるのだろう。また、そのアメリカとの貿易戦争を背景に中国経済が急減速しているなか、国内に5万人(米国務省の推計)いるとされる安価な労働力を手放すのは痛手、とも考えられる。

当の北朝鮮はアメリカとの交渉期限を2019年末と一方的に区切り、ミサイルのエンジン開発とみられる実験などの挑発を繰り返している。国際社会の足並みの乱れを、金正恩委員長はどう眺めているだろうか。中国各地の北朝鮮労働者の動きは、半島情勢をめぐる大国間の駆け引きの縮図とも言え、これからも注目だ。

【執筆:FNN北京支局 岩佐雄人】