死去1か月前 書きかけの文章が明らかに

7月、死去したIAEA=国際原子力機関の天野之弥事務局長が、亡くなる1か月前に書いていた文章が明らかになった。
途中で終わっているのは、それ以降書き続けることができなかったためということだ。

天野氏は2018年9月、療養を理由にIAEAの年次総会を欠席し、7月10日に行われたイラン核合意を巡る特別理事会も欠席していた。
IAEAは天野氏の死去を発表した際、天野氏が2021年11月末の任期を前に辞任する意向を伝えていたことを明らかにしていた。

天野事務局長 死去1か月前の姿
天野事務局長 死去1か月前の姿
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天野氏の絶筆となった文章の全文は以下の通り。

イランめぐり米高官と会談 最後の文章“全文”

しばらく小康状態を保っていたイランをめぐり、緊張が高まっている。
単純化して言えば、イラン合意に反対しているトランプ政権が、昨年5月にイラン合意から脱退し、次々に制裁を導入し、今年5月には全世界に対しイラン産の石油を輸入しないよう圧力をかけるに及んだ。

これに対し、イランは辛抱強くイラン合意の下で行った核関連の約束を履行してきたが、今年5月の石油関連の制裁を機に強硬策に転じ、今年の5月8日付をもって核合意の一部を実行しないとの政策を打ち出した。
 

イランの言い分は分かりやすく、米国が約束した制裁解除が実行されないのであれば、欧州諸国など肩代わりすべきだ、それができないならイランにとって核合意は何の利益もないというものだ。

だが、果たしてそれだけだろうか?
そうだとすれば、イランが今まで核合意を履行してきた理由が説明できない。
私見ではあるが、交渉上手のイランのこと、核合意履行の結果得られる外交上、安全保障の利益を見逃すはずがない。

 
 

アメリカの主張については、今一つ知られていないので、今年の4月にワシントンを訪問した際、ポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン国家安全保障会議議長の意見を聞いてみた。

特に、ジョン・ボルトンの意見は明快で、アメリカは北朝鮮、イランの双方に対してビッグディールを目指す、両国の間で差異を認めることはできないというものであった。
もちろん、アメリカにとってはイランが核合意によって得た外交上、安全保障上の利益が面白かろうはずがない。
 

私がイランの核合意を巡る日本の識者、マスコミの反応に関し不思議でならないのは、国際機関の役割りに対する認識が缺如していることだ。
端的にいえば、IAEAはイランの核兵器開発活動に警鐘を鳴らし、完全とは言えないが過去と現在の活動を解明し、核合意成立後はイランによる履行状況の

(※注:文章はここで終了 原文ママ)

 
 

外務省時代では天野氏と文字通り机を並べて働いたこともあるという外交評論家の岡本行夫氏は30日「BSフジLIVEプライムニュース」に出演した際、天野氏の最後の文章について次のような考えを述べた。

岡本行夫氏:

ボルトン補佐官の回答には天野さんは相当がっかりしたのではないか。
北朝鮮はIAEAを脱退しIAEAの枠外で核兵器を開発し世界中の非難の中、完成させ貯蔵している。
かたやイランはIAEAのルールを守り国際合意を守っている。
北朝鮮に比べれば善玉なのに、アメリカは悪玉を持ち上げ、トランプ大統領は北朝鮮を抱きしめイランを蹴っ飛ばす。
イランも北朝鮮も同じで、差は付けないという。
そもそもこの出発点がおかしいのではないかと天野さんは思ったのではないか。

国際取材部
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