逆説の投稿は読まれやすく広がりやすい

スマートフォンの普及にともない、多くの人にとって身近な存在となったツイッターやインスタなどのSNS。
しかし、活用方法を一歩間違えると、不確かな情報に振り回されてしまうケースもある。
その一つが育児情報。

「SNSをメインに情報収集をしているお母さんたちは、医師よりインスタの情報を参考にする傾向があります」そう語るのは、自身も1児の母である、ITジャーナリストの高橋暁子さん。

その上で、「インスタ上では、根拠のない情報も多く蔓延しています。『ワクチンは体に悪い』など、逆説の投稿は不安をあおるため、読まれやすく広がりやすい。誤った育児情報を実践することで、子どもに悪影響を及ぼすケースもある」と、警鐘を鳴らす。

近年、世界各地で大流行した「はしか」についても、流行が広がった原因の一つとして、「反ワクチン」運動があり、この運動が広まったきっかけになっているのがSNSだという指摘もある。


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実際に、日本で妊娠・出産・育児の情報サイトを運営する「株式会社ベビーカレンダー」が実施した、SNSに関する意識調査でも、子育て世代の約7割が育児情報の収集にインスタを利用していて、人気であることがわかる。

だが、「SNSのよくないと感じる点」の質問に対し、約2割が「SNSの誤った情報を信じてしまった」と、回答している。
しかし、「これは自覚している数に過ぎない。誤った情報と気がついてない人もカウントすると、この数はもっと多くなる」と、同社の担当者は話す。

なぜ、母親たちはSNS上の根拠のない育児情報を信じてしまうのか?
SNSなどのウェブサービスにくわしい、高橋暁子さんに話を聞いた。

SNSは偏った情報が集まりやすい

ーーなぜ根拠なき情報を信じてしまうのか?

大きく2つの理由が考えられます。

まず1つは、「フィルターバブル」「エコーチェンバー現象」です。

「フィルターバブル」とは、検索エンジンなどの学習機能によって、インターネットでユーザーが好ましいと思う情報ばかりが表示されてしまう現象ですが、SNSでも友人関係がフィルター化し、偏った情報が集まりやすいケースが見受けられます。

またSNSにおいて、このように似た意見の者同士で交流し合うことで、特定の意見や思想が増幅することを「エコーチェンバー現象」といいます。
人は元々見たいものしか見ないものですが、SNSによって多くの人が自分と同じ意見を持っていると錯覚してしまうのです。

もう1つは、「利用者の不安」です。
社会との接点が低い中、育児に集中している環境にいると、子どもの健康や発達などの心配事が起こった場合、不安を解消するためにネット上で情報収集し、社会的に合致しない情報にも惑わされてしまう傾向があります。

ーー人は不安があるとだまされやすい?

震災時は、デマ情報が広がりやすいと言われていますが、それは、命の危険があり、情報を強く求めているから。
子育て中も、1人で子育てや家事を長期間行うことで、体力的にも精神的にも追い詰められ、震災時と似たような状態が起こっていると考えられます。

そういった心理的状況から、よりネットリテラシーが低くなり、根拠のありなしよりも、「誰が言っているか?」を重視するようになります。

偏った情報が集まりやすい傾向があるSNSで、同じような意見ばかり見ることでそれが正しいと錯覚してしまうという心理状態に、子育ての不安の中では陥りやすいとのことだった。

では、正しい情報を得るにはどうしたらいいのだろうか?
「パパ小児科医(papa_syo)」のアカウント名で、医療情報をSNSで発信する、小児科医の加納友環さんに話を聞いた。

「子育てに関心が高い人」が陥りがち…

ーーSNSで医療情報を発信し始めたきっかけは?

2016年からツイッターを始め、医療情報を発信していましたが、一番情報を届けたい場所(幼い子どもを持つ母親たち)に、十分に伝わっている実感がありませんでした。
そこで、ママ世代のユーザーが多いと思われるインスタで医療情報を見たところ、いわゆる「反医療」の情報が多く、強い危機感を感じました。

ツイッターはリツイート機能により、もし間違った情報が拡散されても指摘を受け、修正されやすいが、インスタはハッシュタグなどで、考えに共感しあう人たちが結束しやすい環境と言えます。


ーー反ワクチン、脱ステロイド…これは正しい情報?

反ワクチンも脱ステロイドも、科学的な根拠はありません。
以前、「MMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しんの混合ワクチン)が自閉症を引き起こす」という論文が発表されましたが、関連性はなく撤回されています。

現在は、ワクチンで感染症を予防することが、個人のレベルでも集団のレベルでも重要で、アトピー性皮膚炎では、ステロイド軟膏を使用して皮膚の炎症を抑えることが、標準治療となっています。
日本にいると多くの人が予防接種を受けているので実感は薄いですが、感染すると死亡や後遺症を残す病気は多くあります。

ーー正しい情報を得るにはどうしたらいいのか?

理想は、医療情報を入手する際、厚生労働省や学会、日本赤十字社など、公的団体の発信を確認することです。
複数の医療従事者のチェックが入っている情報源が望ましいです。
個人のものでも、出典先がはっきりしている情報がいいでしょう。

ーーもし家族が偏った情報に夢中になっている場合、どうすべきか?

反医療にハマってしまうタイプは「子育てに関心の高い人」が多いと思われます。
問題の根本にあるのが「子どもを思う気持ちや不安」のため、頭ごなしに周囲が「間違っている」と、声をかけても効果はないでしょう。
まずは、第三者の正確な情報を伝え、不安を解消してあげることが重要だと思います。

反ワクチンは、子どもが集団行動を始める年齢になると、自分だけでなく、周囲にも迷惑をかけてしまうことにつながります。
ロタワクチンは、年齢が上がると腸重積のリスクが高まりますが、麻しん(はしか)、日本脳炎、肺炎球菌など、そのほかのワクチンは、病気にかからないようにするため、遅れて接種しても価値があると言えるでしょう。

身近で手軽に情報収集できるSNSだが、ネガティブな情報は印象に残りやすく、不安をあおる内容は、ついクリックしたくなる。
しかし、わが子の健康に悪影響を及ぼしてしまっては意味がない。
誤った育児情報に惑わされないために、情報の正確性を見極めるリテラシーを身につけることが大切なのではないだろうか。

(執筆:清水智佳子)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。