日韓関係節目の日に韓国へ

済州空港
済州空港
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輸出管理で優遇措置をとる「ホワイト国」指定解除閣議決定の日に韓国に行ってきた。目的地は、済州島。友人が済州島で勤務していて「在任中に一度は伺う」という約束をしていた。実現の運びとなったのは、日韓関係の節目とも言える一日だった。

旅行サイトのアプリで予約したときに、割引が相次いでいたので日本からの観光客は少ないのだろうなと想像していた。行きは羽田を午前中に出発するソウル経由の大韓航空だったが、3人掛けの席を1人占め、ガラガラだった。韓国のエアラインは飛行機の入り口に置かれた机の上に取り放題の新聞が並べられているが、日本の新聞と韓国の新聞を一部ずつ手に取った。日本の新聞では、ホワイト国指定の解除を前提にその影響などを書いてある。韓国の新聞では、指定解除後の影響は同じように書いてあるが、解除されない可能性に重点を置いた報道で、温度差が感じられた。

機内食が提供される時間になりCAが手際よく配膳していく。僕は出発前に羽田空港でサンドイッチを食べていた。それから、乗り換えの時間を使って金浦空港の食堂で韓国メシを食べようと思っていたので、機内食は辞退した。ビールだけ注文した。スーパーなどでの日本製品の不買運動が既にニュースになっていたが、大韓航空の機内では日本のビールも提供されていた。せっかく韓国に行くのだから韓国のCASSを飲んだ。ちびちび飲みながら入国審査カードと税関申告書を記入していると、金浦空港に到着した。

「よい一日を過ごして下さい」

入国審査は、管理官のチェックと指紋・顔写真の3点セット。すんなり終わり、管理官から「よい一日を過ごして下さい」と声をかけられ気持ちよく入国した。国内線のターミナルに巡回バスで移動し、予定通り韓国メシの食堂に入った。8000ウォンのクッパブの味付けは日本で食べるものより「しっかり」辛かった。食事中に日本から電話があり、日本語で会話をしていると、近くで食事をしていた空港職員の3人組が会話をやめて、チラリとこちらを見たが、職場の愚痴が続いていた。少なくとも僕がいる間は、日本の話題になることはなかった。一般市民にはそれほど深刻な問題ではないかも知れない。

出発ロビーには、サムソンやLGの8Kテレビが並んでいた。そこで観たニュースで「ホワイト国家指定の解除」の閣議決定を確認した。8Kテレビは数メートルおきに配置されていて、それぞれ違うチャンネルだったが、いずれもこの問題での報道特番を放送していた。韓国の経済担当の閣僚は「我々もホワイト国家指定を外す。強力な対抗措置を講じる。」と激しい口調で話していた。乗り換えの待ち時間の間、特別番組は続いていた。

済州島に着くと猛暑だった。観光案内所でホテルまでのバス路線を尋ねた。ポストイットに路線番号と下車するバス停をハングルで書いてくれた。バスはソウルに駐在していたころによく使っていて慣れてはいたが、ソウルで使っていた交通カード(スイカのようなカード)は、ここ済州島では使えなかった。結局、現金1200ウォンを支払った。僕と他の外国人旅行客以外に現金で乗車する客はいなかった。バスの運転はソウルと同じように荒く、制限速度50キロの道路を70~80キロでとばし、あっという間に目的の停留所に着いた。

韓国での報道は?

済州島の登山道入り口
済州島の登山道入り口

ホテルにチェックインする際に、ツインで予約されていた部屋を親切にダブルに換えてくれた。その部屋でテレビをつけると、特別番組がまだ続いていた。文在寅大統領は「これから起こることの責任はすべて日本にある。」と更に批難のボルテージを上げていた。「今の韓国は過去の韓国とは違う。」「我々は二度と日本に負けない」と100年以上前の日韓併合を持ち出してまで日本への対決姿勢を強調しているのには驚いた。

また、「これは韓国人の国民感情に訴え、政府への求心力を醸成する」という意味では計算された効果的戦術だとも思った。ザッピングしながら各局の特番を観たが、ほとんどの局のキャスターがこの大統領の言葉に同調し「経済戦争」という言葉を使い「力を合わせて闘おう」と鼓舞して番組を締めくくっていた。中には、何を狙ったのか特番のエンディングに1980年代後半、民主化運動盛んなりし頃のフォークソングを流している局もあった。この他、アメリカの仲裁に期待する声や、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄で対抗をという意見もあった。

「幸いだ」と思ったのは、特番に出演した識者の中には、「日本は韓国ほど経済的に相手に依存していないので対抗措置は効果がない」との指摘や、「GSOMIAはアメリカ主導で日米韓の情報交換を円滑化するために導入されたもので、破棄はアメリカを悩ますだけだ」「安倍総理は1ヶ月に3回もトランプ大統領に会っていて、今回のことも報告済みだろう」という文大統領追従だけでない意見が出ていたことだ。

日本人より中国人観光客が増加

韓国で味わったボッサム(蒸し豚)
韓国で味わったボッサム(蒸し豚)

旅の目的であった友人と再会し地元の料理を食べた。蒸し豚のボッサムには、済州島らしい「魚を発酵させたようなしょっぱい味のソース」と一緒に食べた。友人の勧める済州島のマッコリは、甘すぎずサラサラとした喉ごしで料理としっくりきた。鯖の塩焼きをつつきながら現地に長く住む友人の話に耳を傾けた。

済州島は第二次大戦後に、民衆の蜂起を軍が制圧したことがあり、その際に日本に逃げた人が多くいた。在日韓国人に済州島出身者が多いのはそのためだという。その中で成功を収めた人が済州島の開発のため投資をした。昔は日本からの観光客の誘致に積極的だったが、最近は中国の観光客が圧倒的に多い。確かに街中の食堂は中国語の看板が並び日本語の看板を見ることは無かった。路上でも中国語で呼びかける店員が多く見られる。

友人は現在の日韓の厳しい状況にも触れた。
「済州島の人は、経済制裁の応酬になり、日本に輸出している海産物へ影響が及ぶことを危惧している」

僕らは、トコブシなどの海産物がてんこ盛りの辛い鍋「ヘムルトッペギ」に舌鼓を打ちながら日韓関係の将来を憂うばかりだった。

韓国人の友人にも意見を聞いてみた。
「文在寅大統領のうちは良くならない」
「日本は保護主義やブロック経済に向かうのか」
「韓国は北かアメリカのどちらを選ぶかにかかっている」
「これ以上悪くならないことを祈っている」

僕も祈っている。

【執筆:フジテレビ FNNプロデュース部長 森安豊一】

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森安豊一
森安豊一

論より証拠。われわれの仕事は、事実の積み上げであり、事実に対して謙虚でなければならない。現場を訪れ、当事者の話を聞く。叶わなければ、現場の近くまで行き、関係者の話を聞く。映像は何にもまして説得力を持つ証拠のひとつだ。ただ、そこに現れているものが、全てでないことも覚えておかなければならない。
1965年福岡県生まれ。
福岡県立東筑高校卒、慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒。
警察庁担当、ソウル支局特派員、警視庁キャップ、社会部デスク、外信部デスク、FNN推進部デスク、FNNプロデュース部長を経て報道センター室長。
特派員時代は、アフガニスタンや北朝鮮からも報告。