40人が流された“離岸流”とは

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今年の夏は、例年に増して多くの海難事故のニュースを耳にする。

お盆休み二日目の8月11日は、特に多かった。高知県香南市で60歳の男性、愛媛県伊予市では63歳の男性、長崎県対馬市では8歳の男子小学生が水難事故により死亡している。そのほかにも水難事故が相次ぎ報告された。

8月11日の正午過ぎ、千葉県勝浦市の太平洋に面した守谷海水浴場では、およそ40人が100メートルほどの沖にまで流されている。8人のライフセーバーが救助に対応したが、千葉県の44歳の男性の死亡が確認された。守谷海水浴場は、東と西を岬に包み込まれるように南側を太平洋に開いた湾状の入り江になっている。通常は波も穏やかな海水浴場だが、太平洋からうねりが入ると、まるでそれまでとは違う海のように荒い波が打ち寄せる海岸となる。

湾状になった海岸では、海岸全体に打ち寄せた波が、一か所に集まり強い流れを作り沖合に引いてゆく。これが離岸流である。幅10メートルから30メートル、沖に向かう長さは100メートルに達することもある。海岸が太平洋や日本海、東シナ海などの外洋に面した遠浅で、波が海岸に対して真直ぐに入ってくる海岸に多く見受けられる。

波は穏やかに見えている時でも、周期的に3回に1度ほど少し高い波が起こり、100回に1度は、少し驚くほどの高い波が打ち寄せる。その時に、足を波に救われ溺れてしまう人も多い。また、沖合に台風が発生している時には、1時間から2時間に一度の割合で、突然、その時の波の倍以上の高さの波が打ち寄せることがある。この高波を船体に受け、船が転覆してしまうことさえあるのだ。

“離岸流”が起きやすい海岸

この日、太平洋上の日本本土から1000キロほど離れた海上に台風10号が発生していた。この台風の強風が起こした「うねりが、日本全土の太平洋岸の海岸に少しずつ打ち寄せていた。遠くの台風によるうねりが覆いかぶさるように重なり合って、突然、思いのよらない高波をおこしたようだ。強い波が打ち寄せると、それまで感じなかった離岸流が、沖に向かい急に流れ出すのである。台風は遠いので、まだ大丈夫と思っていても、このような高波が被害をもたらすことに注意しなければならない。

離岸流が起きやすい海岸を見分ける方法がある。まず、砂浜の幅が周囲よりも狭く、そこだけ波が砕けず、白波が寄せない場所は離岸流が起きている可能性が高い。海岸を見て、漂着ゴミが多い場所の水辺も要注意だ。さらに、海を見て、周りに比べて海面がざわついていたり、周囲よりそこだけ濁った流れができていた場合、離岸流が起きていることを示している。

ジタバタせずにできるだけ長く「浮いて」待て

離岸流に流れた人を独力で救助に行くことは、絶対にしてはならない。離岸流の速度は、毎秒1~2メートル。時速4キロ~7キロになる。水泳のオリンピック金メダリストである北島康介の速度と同じぐらいの速さである。いかに泳ぎに自信があっても、離岸流の流れには立ち向かえないのだ。離岸流に流された人を見た場合には、いち早く救助を要請することが必要である。

離岸流に流された場合には、海岸に向かって戻ろうとするのではなく横に向かって泳ぎ、流れから抜け出すことが良いとされている。しかし、流れから抜け出すことは、そう簡単ではない。むしろ、体力を温存し、ジタバタせずにできるだけ長く浮いているようにして、救助を待つことが得策である。

“逆潜流”に飲み込まれたら息をとめて数秒待て

離岸流が発生しやすいような海象で、急速に海が深くなっている湾状の入り江では、逆潜流を起こすことがある。強い引き波が、海底に向かって沈みこんで行くのである。逆潜流に飲み込まれた場合、もがくと水を飲み込み死に至る。息を止めていると数秒後には、海面に浮かび上がることが多いので、自然体が良いようだ。

赤いパンツに黄色いシャツのライフセーバー
赤いパンツに黄色いシャツのライフセーバー

海洋水浴を楽しむためには、まず、遊泳禁止等の警告が出ていないかの情報を確認し、もしもの時に救助してくれるライフセーバーがいる海岸を選ぶことが良いだろう。多くのライフセーバーは、赤いパンツに黄色いシャツを着ているので一目でわかるだろう。

ちょっとした準備さえしていれば、海は危険な場所ではないのだ。多くの人に海を楽しんでもらいたいと願う。

【執筆:海洋経済学者 山田吉彦】

山田吉彦
山田吉彦

海洋に関わる様々な問題を多角的な視野に立ち分析。実証的現場主義に基づき、各地を回り、多くの事象を確認し人々の見解に耳を傾ける。過去を詳細に検証し分析することは、未来を考える基礎になる。事実はひとつとは限らない。柔軟な発想を心掛ける。常にポジティブな思考から、明るい次世代社会に向けた提案を続ける。
東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。