連日報道されていた吉本興業を巡る問題。きっかけとなった闇営業に加え、所属する芸人の告発や、事務所にとって不利益となるような発言を当事者ではない所属芸人もしたことで、騒動が大きくなったともいえるが、そのどれもが事務所と芸人の間で契約書を交わしていないことが原因という見方もされている。

では、もし一般的なサラリーマンが、SNSなどで、勤めている企業に不利益な発言をした場合、吉本興業の問題との違いはあるのだろうか。

企業と従業員の関係性について、企業の危機管理の第一人者である中島茂弁護士に、注意すべき点や設けるべきルールを教えてもらった。

中島茂弁護士
中島茂弁護士
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社員が守るべきルールは「就業規則」に記されている

「芸人さんの発言と一般的な社員の発言は、同一視できないと思います。というのも、芸人さんの多くは個人事業主で、事務所の社員ではないので、企業側が制限できる範疇は限られています。一方、社員は就業規則などのルールに従う必要があります」(中島さん・以下同)

企業の就業規則では、企業の信用を傷付けるような行為を禁止している場合があるため、注意が必要だという。

「多くの企業では、就業規則に『社員は会社の信用を傷付けるような言動をしてはいけない』という条文が入っていると思います。発言の内容が真実かどうかは別として、『この商品にはリスクがある』といったように世の中に発信することは、禁止されているのです」

何気なくツイートした内容が、規則に抵触する可能性があるというわけだ。就業規則の内容は、改めて確認しておいた方がいいだろう。

経営陣も社員も自覚するべき“SNSの危険性”

中島さん曰く、「企業側は、会社を守るためにも、現代の流れを汲んだルールも設けるべき」とのこと。

「まだまだ浸透していませんが、就業規則の延長として『SNSガイドライン』を作った方がいいでしょう。一般人が世の中に発信するツールとしてはSNSが主ですから、そこをカバーすることは重要です。具体的なルールを整備しておけば、企業側も安心ですよね」

中島さんの提案する「SNSガイドライン」は、社員のSNS利用そのものを制限するものではない。「SNSに開発中の商品に関して記載してはいけない」など、企業の内部事情への言及や、信用を損なう発言に対するルールを明文化したものだ。

「『SNSガイドライン』を設けるだけでなく、社員に誓約書を書いてもらい、自覚を持ってもらうことも大切です。同時に、経営者や幹部が、SNSが世論に与える影響の大きさを知る必要もあると思います」

SNSは個人が手軽に意見を発信できるツールだが、意図せず不特定多数に拡散してしまう危険性もある。その理解が深まることで、今後さらにルールは整備されていくはずだ。

企業に不満がある場合の“最終手段”が「告発」

吉本興業の問題の風向きを大きく変えた、芸人による告発。社員が自主的に行うものというイメージが強いが、思い立ったらすぐに実行していいものではないらしい。

「何の努力も準備もせず、ある日突然SNSで企業の体制を暴露するのは、ルール違反です。社員が告発する場合は、公益通報者保護法の考え方に従って進めていく必要があります」

例えば、上司のパワハラや社内に蔓延している不正行為に悩まされているとしたら、社内の法務やコンプライアンス部門、上司に進言し、自助努力での解決を目指すことが第一歩となる。それでも解決に至らない場合は、監督官庁への申告を行う。そして、最終手段となるのが、できれば弁護士の助言を受けながら、世の中に見解を発表すること。いわゆる告発だ。

「ルールを飛び越えて勝手に告発すると、就業規則や公益通報者保護法の考え方に反してしまうため、告発者が不利になる場合があります。いち社会人として、勤める企業や業界に関する規則・法律を把握しておくことが、自分の身を守る盾になると思いますよ」

企業や上司に関する愚痴は、誰しもついつい口にしてしまうもの。同僚との飲み会であれば許されるが、ひとたびSNSとなると問題に発展する可能性は高い。芸能人が自由に発言しているからといって真似をしたら、自分が痛い目を見るかもしれないと、肝に銘じておきたい。

そして、吉本興業は先日、経営の改善を話し合う「経営アドバイザリー会議」の会合を開催し、「反社会勢力との決別」や「所属タレントとの契約」に関して議論を行った。今後は社内プロジェクトチームを作り、委員会からの助言をもとに社内改革を進めるとしているが、どのように変化していくのか注目していきたい。

中島茂
中島経営法律事務所代表弁護士、弁理士。1977年東京大学法学部卒業。83年に、企業法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。主な担当業務はコーポレートガバナンスやコンプライアンス体制の構築に関するアドバイスなど。著書に『人気弁護士が教える ネットトラブル相談室』『その「記者会見」間違ってます!-「危機管理広報」の実際』など多数。
http://www.ntlo.net/

取材・文=有竹亮介(verb)

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プライムオンライン編集部
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