世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は8月1日、ニューヨーク・タイムズのツイート。



モーリー:

A federal judge overseeing the sex-trafficking case against Jeffrey Epstein set a tentative trial date for next June


ジェフリー・エプスタインの買春事件を扱う連邦裁判官は、来年の6月に裁判を行うと決定した。

「federal judge」は連邦の裁判官、「sex-trafficking」は人身売買や未成年の買春などを指す言葉です。
アメリカ有数の大富豪であるジェフリー・エプスタイン氏が、いまエベレストの頂上から海底へと沈みつつあります。

彼は大変な人脈とお金の持ち主ですが、日本のメディアではあまり報じられていませんね。しかし、ニューヨーク・タイムズは掘れば掘るほど情報が出てくると、続報を伝えています。

一体どのような人物なのか?まずはプロフィールから紹介します。

(7月に逮捕されたジェフリー・エプスタイン被告は8月10日、ニューヨークの勾留施設で意識の無い状態で見つかり、搬送先の病院で死亡が確認された。)

告発者続々…華麗な経歴に詐称疑惑も

ジェフリー・エプスタイン氏(66)は元高校教師。その後、トレーダーに転身し、成功を収めます。総資産は1200億円ともいわれ、トランプ大統領によると「美しい若い女性が好き」とのこと。含みのあるコメントですね。

性的搾取を目的とする未成年者の人身取引の罪と、同様の犯行を共謀した罪の2件で逮捕・起訴されました。
また、これ以外にも被害を訴える人が「#Me Too」運動のように続出しています。全ての案件が裁判になるわけではありませんが、大きな騒動になっています。

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逮捕以前にアメリカの雑誌が取材した内容によると、エプスタイン氏はある高校の数学教師として働いていましたが、金融業界に勤める教え子の親に見い出されてトレーダーになったそうです。

そして、投資銀行の重役になった後、独立して大成功。エプスタイン氏の弁護士は、2008年時点で「総資産は1200億円は下らない」と明かしています。
しかし、これにもいわくがあって、「多くのセレブと交流することによって自分の価値を盛っていた」あるいは、「自分の経歴も含めて詐称していた部分がある」と言われています。そのため、実際の総資産は現在のところ不明です。

そんなエプスタイン氏が、現地時間の7月6日に逮捕されました。
有罪の場合、最高で懲役45年の禁固刑となります。エプスタイン氏は一貫して無罪を主張していますが、“大富豪の一事件”に収まりそうにないのが今回の騒動です。

政財界にも波紋 元執事の“手帳”に王族の名前

2007年、エプスタイン氏は人脈を生かし、やり手の弁護士などを通じて、フロリダ連邦警察官と秘密裏に司法取引を行い、重罰を免除されたという経歴があります。
この取引をまとめた当時の検事が、トランプ政権で労働長官を務めていたアレキサンダー・アコスタ氏なのです。思わぬところで人脈が繋がってしまったわけですね。

その“甘い取り引き”の内容はどのようなものだったかというと、エプスタイン氏は週に6日間、自由に外出することが可能でした。自身の会社に出社して12時間働き、刑務所には寝るために帰ってくるだけ。
ほとんど毎日、刑務所から自由に出入りできるという大変に甘い判決でした。

それを手引きしたのが、フロリダ州の検事だったアコスタ氏です。この事実が明るみに出たことでアコスタ氏への批判の声が高まり、身を引くことが適切だとして労働長官を辞任しました。

さらに、2004年頃にエプスタイン氏の元で働いていた元執事が保管していた手帳の存在が明らかになり、波紋が広がっています。

その手帳に記されていたのは、トランプ大統領、大富豪のデイヴィッド・ロックフェラー、イスラエル元首相のエフード・バラク、大富豪のジョージ・ソロスの甥などの連絡先。イギリスのチャールズ皇太子の弟、アンドリュー王子の名前もあったといいます。
この名前が何を意味するのかはわかりませんが、さまざまな憶測を呼んでいます。

「ロリータ号」とあだ名されるエプスタイン氏の自家用機で、自身が所有するヴァージン諸島やカリブの島に着陸し、そこで未成年を交えた性的な“おもてなし”をしていたという情報もあります。

クリントン元大統領とも交流があるエプスタイン氏。誰かがそこへ一緒に行ったかどうかはわかりませんが、どのような著名人・権力者とどのような繋がりがあったのかは、今後の争点になってくるでしょう。

「永遠の命」を求めて…驚きの“農場”計画

また、ニューヨーク・タイムズは、エプスタイン氏がいかにぶっ飛んだ人物かということにも触れています。

大富豪のエプスタイン氏は、とうとう「永遠の命を得たい。自分のDNAを残したい」という思いに至り、ニューメキシコの広大な敷地内にベイビーファーム=赤ちゃん農場を建設しようと計画していたというのです。

周囲に吹聴していたその“農場”の内容は、一度に20人以上の女性たちを妊娠させ、自分の子どもを量産していく、あるいは、そのためのスクリーニングとして、Ph.D.(博士号)を持つような賢くて美しい女性を侍らせるというものです。

また、パーティーに招待したノーベル賞を受賞した科学者たちに「人間の遺伝子を操作できるのか。どうすれば長く生きられるか」ということをやたらと質問し、煙たがられていたといいます。

さらに、「クライオジェニックス」という人間を凍結させて永遠の命をもたらそうとする疑似科学に没頭していて、自身の死後には「頭部と性器を氷漬けにして保管してほしい」と言っていたそうです。
体の一部が残っていれば、未来の科学でクローンを復元できると考えたのです。

大富豪だから法律も守らなくていい、民主党も共和党も含めた多くの政治家を手懐けている、ノーベル賞受賞者をパーティーに招待できて、セレブとも交流がある…と平清盛のように栄華を極めたエプスタイン氏が、ロリコンの性的欲求の他に最後に欲しかったのが、死への恐怖からくる永遠の命への欲求でした。

その結果、子どもを無限にコピーして自身のDNAを人類のDNAの中に潜り込ませ、自分を復元できるように体の一部を保管するためアイスボックスへ、と考えた。

大富豪の行き着く先がこのような末路かと思うと、何とも言えない気持ちになります。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 8/7 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。