不祥事を起こした時や不用意な発言をしてしまった時、企業や著名人であれば、記者会見を開くという対応が通例。しかし、ここ数年のSNSの普及により、ネット上に謝罪文を掲載して反省の意を表し、事を収める場合も増えてきている。

SNSでの謝罪は、緊急時にスピーディーに発信できるというメリットはあるが、その反面、誠意が伝わりづらいというデメリットもあるように感じられる。果たして、正しい対応といえるのだろうか。

企業の危機管理の第一人者である中島茂弁護士に、SNS上での謝罪が世間に与える印象について、教えてもらった。

批判を集めたツイートの即削除は反感を買う可能性大

著名人がツイッター上で失言し、炎上に発展しているケースは少なくない。また、一般人のツイートに批判が集中することも稀にあるが、問題となった投稿はすぐに削除した方がいいのか。

「削除すると、非を認めたと思われてしまうので、印象はよくないですね。また、すぐに自分の投稿を消したとしても、コピペやスクリーンショットで世に出回っていることは、忘れない方がいいでしょう。ネット上では、『人の噂も七十五日』というわけにはいきません」(中島さん・以下同)

中島さんは、「ネットの世界の恐ろしい部分は3つある」という。1つ目は、数千、数万人単位で瞬時に広がっていく「拡散性」。2つ目は、一度投稿したものが半永久的に残り続ける「残存性」。そして3つ目が、書き込んだ人の素性が暴かれる危険がある「特定性」。

「この3つの特徴を自覚して、発信することが大前提です。ただし、炎上した場合の対応は、リアルの社会と同じく、真正面から正攻法で行うしかないでしょうね」

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「自分のツイートの客観的な分析」が炎上鎮静化の近道

炎上した場合の正攻法とは、どのような対応を指すのだろうか。

「自分の発言に批判が集中した理由を分析し、事案の性質から見て必要であればきちんと謝罪をして、自分の発言にどういった意図があったかを説明することですね。もっともしてはいけないことは、批判に対する反論です」

ネット上での匿名での批判は、必ずしも本心とはいえず、炎上目的であることも多い。その場合、反論をすることで、炎上がますます大きくなってしまうという。

「反論するということは、批判の意見に食いついたということなので、ネット上は大喜びです。さらに批判が激化し、被害が広がっていくだけなので、反論したい気持ちはぐっと抑え、冷静に対応してほしいです」

トップの“個人的見解”が企業の運命を左右する

一般人の場合は、ツイッターを含めたSNS上で、経緯の説明や謝罪をしていくことになるだろう。では、著名人の場合はどうだろう。最近、企業のトップの失言が取り沙汰されることも多いが、その場合もSNS上での対応でいいのだろうか。

「企業のトップであれば、ツイッターではなく企業のホームページに発言の意図や炎上の原因、謝罪文などを掲載するべきでしょうね」

中島さんは、「そもそもトップのSNS利用は、リスクが高い。トップである以上、個人的な利用はやめるべきでしょうね」と話す。

「いくらトップ自身が、ツイッターに書いたことを『個人的見解だ』と弁明しても、一般市民の目から見たらトップの意見=企業の意見。そこで偉そうな発言をすれば、『この会社は上から目線なんだな』って思われるのは当たり前です」

トップの不用意な発言に関しても、企業のホームページを通じて客観的かつ冷静に説明・謝罪することで、トップないしは企業の誠意を伝えることにつながるという。

「どんな場であれ、トップの言葉は公式見解として受け取られます。書き込みの一字一句が企業の運命を左右することをわかっていれば、SNSでの発言は容易にできなくなるはずです。勤めている企業のトップが危なげなツイートをしていたら、その事実を気付かせてあげてほしいですね」

多くの人が日常的にSNSを利用している今、いつ誰が批判のターゲットになるかはわからない。不特定多数の人が見ているという意識は、一般人でも持っておいた方がよさそうだ。炎上を避ける意味でも、不用意な発言はすべきではないだろう。

中島茂
中島経営法律事務所代表弁護士、弁理士。1977年東京大学法学部卒業。83年に、企業法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。主な担当業務はコーポレートガバナンスやコンプライアンス体制の構築に関するアドバイスなど。著書に『人気弁護士が教える ネットトラブル相談室』『その「記者会見」間違ってます!-「危機管理広報」の実際』など多数。
http://www.ntlo.net/

取材・文=有竹亮介(verb)

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プライムオンライン編集部
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