長かった夏休みも終わり、新学期を迎える学生も多いと思うが、そんな時期に社会問題となっているのが“若い自殺者の急増”だ。

2015(平成27)年版「自殺対策白書」の「18歳以下の日別自殺者数」によると、18歳以下の未成年者の1年間で最も自殺が多い日が、夏休み明けで新学期開始となる9月1日前後なのだ。次いで多い、新年度が始まった4月上旬~中旬の自殺者数を大きく上回っている。

「自殺対策白書」の「18歳以下の日別自殺者数」より抜粋
「自殺対策白書」の「18歳以下の日別自殺者数」より抜粋
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こうした中、秋田県で初めての試みとなる子どもの自殺防止策に注目が集まっている。
インターネット検索と連動した広告を使った取り組みで、例えば「学校 死にたい」のように、若者が「自殺を連想させるような語句」の約350組(8月22日時点)の組み合わせを検索すると、自殺を思いとどまらせるようなサイトが広告として検索結果の冒頭に表示されるというものだ。

そして、表示されたリンクをクリックすると

「夏休みの終わりに苦しい気持ちを感じているあなたへ」

という表題の秋田県庁のサイトに飛び、そこでは「秋田いのちの電話」や「24時間子供SOSダイヤル」の電話相談、QRコード付きで「よりそいチャット」や「チャイルドライン」のチャットSNS相談サービスを紹介している。

過去の検索履歴などから利用者の年齢を推定し、こうしたサイトを検索結果に表示するということで、若者にとって身近なインターネットを使った試みは8月15日に開始したという。

どうしてこの取り組みを始めたのか?「自殺を連想させる組み合わせ検索」とはどのようなものがあるのか?
秋田県庁の担当者に詳しい話を聞いた。

従来の相談窓口の周知では若者に届いていない

ーー今回の取り組みを始めたきっかけを教えて?

何かを調べるとき、若い人を中心にGoogleなどで検索することが多いですが、それでは従来の県のウェブサイトや広報誌などによる相談窓口の周知は及んでいないのではないかと考えました。そこで情報を届けるべく、悩みや自殺に関連する検索を行った際に、相談窓口に誘導する広告を表示する「検索連動型広告」を行うことにした次第です。
また、全国的に若者の自殺が急増する夏休み明けに合わせ、事業を開始しています。

ーーどういった企業とこの施策をやっている? 県側で特に要望したことはある?

東京都にあるNPO法人OVAに広告提出の運営を委託しています。インターネットゲートキーパー(自殺を防ぐべく、すぐにそのサインをとらえて相談機関へつなげる活動をする人々)など、検索サイトを活用した自殺予防活動について早くから取り組んでいるほか、他の自治体などの事業で「検索連動型広告」を実施した実績もありました。そのノウハウが蓄積されていることからお願いしております。

秋田県にとって今回のような事業は初めてなので、OVAには、検索ワードの設定や広告に表示する文言について提案していただきました。

ーー県とOVAとでどのような役割を負っている?

県側では、広告の誘導先となるサイトの新設、OVA側では、先の提案に加えて、Googleに広告を掲載するための手続きなどを行っています。

「学校 死にたい」「勉強 つらい」など

ーー広告の表示対象はどんな利用者? またどうやって判定される?

県内の学生や生徒(小学生~大学生)を今回の広告のターゲットとしており、そのために「秋田県内」「24歳未満のみ」を条件として設定しています。
判定はGoogleのシステムの中で行われるため、当方では詳細は分かりません。Googleアカウントの情報やスマートフォンの個人情報、検索履歴などから判断しているのではないでしょうか。一定の割合については「年代不明」で整理されるものもあると聞いています。

ーー「自殺を連想させる組み合わせ検索」の例とは?

施策の性格上、最小限とさせていただきます。「学校 死にたい」「勉強 つらい」などがあります。

ーー検索するとこうした広告が出てくることで、自殺の抑止力になると思う?

検索連動型広告の実施により、ごくわずかであっても、これまで情報を届けることができなかった人に情報を届けることができ、相談窓口などにつながる機会が生まれることは、自殺の抑止力になるものと考えています。

秋田県の高い自殺率

秋田県がここまで真剣に自殺防止対策に取り組む背景には、県の非常に高い自殺率がある。
秋田県庁が発表している「秋田県における自殺者数等の現状」の「自殺者数・自殺率の年次推移」によると、平成の30年間を通じて、県の自殺率が常に全国を大きく上回り、47都道府県のワースト1位にランクインし続けてきたことが分かる。
こうした現状を打開するべく、秋田県がこれまで行ってきた様々な対策についても聞いた。

秋田県庁「秋田県における自殺者数等の現状」より「自殺者数・自殺率の年次推移」
秋田県庁「秋田県における自殺者数等の現状」より「自殺者数・自殺率の年次推移」

ーー秋田県の自殺者の近年の傾向やデータは?

2018年平成30年)年の自殺者数は、前年から43人減の199人と大幅に減少し、1962年(昭和37年)以来57年ぶりに自殺者が200人未満となりました。

しかし、2019年(令和元年)に入って、6月末までに106人と前年同期の100人を上回り、中でも高齢者の自殺の増加が目立っていることから対策を行っているところです。

ーー自殺者数が2017年まで1位だったが、これまでの取り組みは?

県では、自殺に関しての相談窓口の設置、地域で自殺対策に取り組む人材の育成、心の健康や相談窓口等に関する普及啓発、身近な人の変化に気づいて支援につなぐゲートキーパーの養成、自殺未遂者支援など、全県を対象とした自殺予防対策に取り組んでいます。

また県内では、民間団体による相談活動やサロン活動などの地域における取り組み、市町村による地域の特性に応じた自殺予防対策、大学による実態の調査把握などを積極的に実施しています。

ーー秋田県内でも夏休み明けの子どもの自殺は多い?

県内では飛び抜けて多いといった傾向は見られていません。しかし、学校が始まることで悩んでいる子は多数いると思われたため、今回の施策を始めました。

現時点での反応は?

ーー今後、若年層がよくアクセスするSNSや他のプラットフォームでも同様の施策を考えている?

県内民間団体が実施した、LINEによる相談の利用が多数あったことからも、SNSによる相談事業は有効だと思います。ただ、対応できる人材の養成や実施体制の構築など、さまざまな準備が今後の課題でしょう。

ーー大人を今後対象とした際、語句の組み合わせや広告内容なども見直し、変更する予定?

検索連動型広告は、年度内にもう2回実施する計画を立てており、大人も対象としたものとする予定となっております。検索ワードや広告に表示する文章、誘導するサイトなども変更するつもりです。

ーー現時点での反応は?

まだ開始1週間ほどなので、検索件数やクリック数などの確認はしておりませんが、「順調に広告表示されている」との報告をもらっています

ーー今回のものも含め、自殺防止への取り組みに対する市民からの声は?

ピーク時にあたる2003年平成15年)の年間自殺者数519人に比べ、半減以下にはなったものの、まだ多数の方が自殺に追い込まれている現状があることから、県民からもさらなる自殺対策の強化が求められています。特に、今回のようなインターネットを活用した事業や、企業の中での自殺予防対策など、現状に対応した対策の推進を求める声が多いです。

ーー今回の取り組みに効果があれば、他県と連携して拡大していくこともある?

現状では、連携は考えていません。しかし、各県などで同じ事業が実施されれば、インターネット上での自殺予防対策の強化が全国的に図られることになるため、非常によいことではないでしょうか。

ーー最後に、夏休みが明けるのを憂鬱に感じている子どもたちにメッセージを。

ひとりで悩みやつらい気持ちを抱えず、誰かに相談してほしいと思います。相談する人がいないときは、SNSや電話の相談もあります。話したり、相談することで、少しでも気持ちを軽くすることができるかもしれません。勇気を持ってSOSを出してみてください。

9月中旬まで行われる今回の取り組みが、一人で悩みを抱えて追いつめられてしまった秋田県の子どもたちに届くようでれば全国的に広げてみてもいいのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。