5年に1度の年金の健康診断

厚労省は、年金の将来の給付水準を示す「財政検証」を公表した。これは、年金財政の健全性を5年に1度チェックして、現役世代の収入額に対して、年金世代が受け取る年金額の割合はどれくらいになるかを検証するものだ。この割合は「所得代替率」と呼ばれていて、法律で、この割合を50%以上に維持し、現役世代収入の少なくとも半分の年金水準を確保することになっている。

日本の年金制度は、自分が納めた保険料を積み立ててあとで受け取るのでなく、そのときの現役世代が受給世代を支える仕組みだ。「支え手」が減り、「支えられる側」が増え続ければ、現役世代の負担は際限なく膨らみかねないので、保険料収入や国の負担などの範囲内で給付をまかなえるよう、マクロ調整スライドというしくみが導入されている。

現役世代の人数の変化と平均余命の伸びに応じて年金の給付水準を調整するもので、「財政検証」では、こうした調整が行われるのを前提に、将来の見通しを示す。

条件を変えた6つのケースの見通し

今回の検証では、この先の経済成長や働く人の増え方といった条件を変えて、6つのケースで見通しをまとめている。

会社員としての現役時代に平均的な収入を稼いだ夫と、専業主婦という夫婦が年金を受け取るモデルケースで、2019年度のひと月の年金額は、基礎年金で13万円、厚生年金で9万円のあわせて22万円だ。
これに対し、現役会社員世帯の平均収入は35.7万円なので、現在の所得代替率は61.7%となる。

そのうえで、検証では経済が成長し働く人が増えるケースで3つ、それらが「一定程度」しか進まないケースで2つ、そして、両方とも進まないケースを1つ試算した。

結果はどうだったか。

経済成長と労働参加が進まない3つのケースでは、将来の所得代替率が5割を下回った。
最悪シナリオでは、2052年度に国民年金の積立金は底をつき、所得代替率は46.1%に落ち込んで、その後、38~36%程度にまで低下する。

成長が続くケースでは?

一方、成長が続くとした3つのケースでは、50%以上の代替率が確保されたが、約30年後には2割近く目減りする。しかも直近10年のベースとなっているのは、強気の経済見通しだ。これは、内閣府が示したもので、成長がうまくいけば、実質GDP成長率が2023年度には2%に達するとしている。アベノミクスの成長戦略の効果が十分に発揮される姿を試算したもので、楽観的な予測だといえる。

さらに、働きに出る女性や高齢者が増えることも前提だ。このままだと、働く女性の割合は子育て期の30歳台前半に下がるが、このへこみが和らいで、2040年には女性の就業率が83.4%と10ポイント程度上昇すると想定、60歳台後半の男性も7割が働きに出て、70歳未満の労働力人口が400万人増えることを見込んでいる。

繰り下げ受給を選択すると?

今回の検証では、オプション試算も公表された。

厚生年金保険で企業規模要件をなくすなどして対象を拡大した場合や、基礎年金の加入期間を増やして40年から45年に延ばした場合は、年金の水準確保に効果が大きいと結論づけている。

また、現在20歳の世代が66歳9ヶ月まで働き、繰り下げ受給を選択すれば、いま65歳の世代と同じ水準の61.7%の所得代替率を達成できるほか、繰り下げ時期を75歳にまで広げたケースでは、代替率は95.2%に達するとしている。高齢で長く働き、受給開始時期を後ずれさせた場合、給付水準をどれだけ上昇させることができるかを明らかにした。

最新の「年金財政の定期健康診断」では、働く人の増加と経済成長が見込めなければ、代替率5割の前提条件は崩れてしまうことが改めて示された。年金制度の改革が急務となるなか、将来の生活設計をどう組み立てるかなど、早めに老後に備えるきっかけとしたいところだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 智田裕一】

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